清坂 正吾さまのオーボエファイター木村
高校に入ってからできた友人、積子の“たとえツッコミ”は、どこかおかしい……。
ある日のこと。
「今日さ、カバンと間違えて、学校に枕を持って行きそうになっちゃったんだよね」
すると、積子がすかさず言った。
「それ、ジャイ○ンかよ!」
(……なんでジャイ○ン? 昼寝キャラなら、の○太でしょ? そっちでしょ?)
また、ある日のこと。
「昨日ね、先生に質問しに行ったら、うっかり『お母さん』って呼んじゃったんだよ」
積子、間髪入れずに。
「ウシかよ!」
(なんでなの。なんで人間ですらないの。せめて“マザコン男子”とか、そういう方向にしてよ……)
そして、極めつけ。
「私さ、ネコの鳴きマネ、けっこう上手いんだよ」
「へぇ? じゃあ、やってみてよ」
「メェー、メェー」
ほんの一拍おいて、積子が叫ぶ。
「オーボエファイター木村かよ!!」
(いやいやいや! 今のは“ヤギ”とか“羊”でいいでしょ!? ていうか誰よ、オーボエファイター木村って!)
そんな風に、積子のツッコミは、いつも微妙に――いや、だいぶズレているのだった。
そう思っていた。
◇
ある日、学校の図書室で暇をつぶしていたときのことだ。
なんとなく手に取った雑誌の特集ページに、私は凍りついた。
『特集・地域の人気者大集合!』
その中に、堂々と載っていたのだ。
『昼寝を愛する情熱のリサイタリスト』
その歌声は誰もを眠らせる、ジャイ○ン
リサイタル前は必ず枕を持参する。
最高の昼寝が最高の歌を生む。
(持ってくるんだ……枕……)
一瞬、私は固まる。
(え、あのジャイ○ンとは別人……だよね? だよね?)
動揺したままページをめくる。
『酪農と教育の二刀流!』
“ウシ”と呼ばれる名物教師、牛山先生
プロフィール欄:
・生徒から「お母さん」と呼ばれがち
・実家は牧場
・本人も認める重度のマザコン
(ウシ、いるじゃん!!! しかもマザコン!!!)
さらに、次のページ。
『メェーメェー鳴きで悪を討つ男!』
オーボエファイター木村、参上!
必殺技は「メェーメェー・ソナタ」。
(いた!? 本当に、いた!?)
しかも活動拠点、隣町。
(え、近い……近すぎない……?)
私は、ゆっくりと雑誌を閉じた。
……積子のツッコミ。
あれ、もしかして……
ズレていたんじゃなくて……
“的確だった”のでは――?
◇
翌日。
「昨日の夕飯、カレーだったんだ。私、カレー大好きなの」
教室のいつもの空気。
いつもの雑談。
そして、いつも通り――
積子が、すかさず言い放つ。
「セカンドボイス高橋かよ!!」
教室が、しん、と静まった。
「……は?」
「誰?」
周囲は一斉に唖然とする。
当然だ。
そんな人物、聞いたこともない。
――昨日までの私なら、みんなと同じ反応をしただろう。
けれど私は、静かにペンを取り出し、ノートの端に書きつける。
『セカンドボイス高橋』
丁寧に、はっきりと。
(今日も図書室に行ってみよう)
『セカンドボイス高橋』
その文字を見ながら、私はワクワクしていた。
マニアに脱帽




