御田文人さまのオーボエファイター木村
長い一日だった。
自宅最寄り駅に降りた所で私はようやく一息が付けた気がする。
カレーショップのフランチャイズに加盟し、今日が新規オープンという日に担当SVとの連絡が付かなくなった。
それでなくとも直前でオープニングスタッフが一人退職しており店の空気は最悪だった。
焦って、かなり感情的に本部にクレームの電話を入れた。
加盟なんかするんじゃなかったと思った。
「まったく未経験の分野でしょ?やめた方がいいのでは?」
と、事業拡大に不安を示した妻の顔が過る。
「未経験だからフランチャイズなんだよ。本部のノウハウを学びながらやればいい」
そう啖呵を切ったものの現実はこれだ。本部の支援が無ければここまで脆い自分に愕然とし、情けなくなった。『オーナー』という肩書に胡坐をかかず、もっと細部のオペレーションまで学んでおくべきだった。
様々な後悔が巡る。
幸い急遽代わりに来たSVの支援の下、初日は無事終えることが出来た。
彼は前任のSVよりも随分馬が合う。今後も担当してくれるとのことなので、なんとか見通しが立った。
こんなトラブルがあったことは、家族には黙っておこう。
そう決めて自宅のドアを開ける。
「お帰りなさい。どうだった?」
ダイニングにいた妻が声をかけてくれた。
「めっちゃ忙しかったよ」
「いいことでしょ」
「そうだね」
「うん!カレー臭い!」
「一日いるとこうなるね。明日から着替えを持って行くよ」
私は来ていたYシャツを洗濯機に入れ、リビングに入った。
息子がゲームをやっていた。
見たことが無いゲームだ。
「新しいの買ったの?」
「うん」
息子は画面から目を離さず答えた。アクションゲームのようだから、目が離せないのだろう。
「小遣いだからいいんだけどさ、また変なゲーム買ってきて」
と妻がこぼす。
「変なゲーム?」
その質問に妻が傍らに置いてあったゲームのパッケージを見せた。
タイトルは『オーボエファイター木村』と書いてあった。
画面を見ると木村らしいキャラクターが、機械生命体らしき敵をオーボエでぶん殴っていた。
「なんか懐かしいな」
私は呟いた。
「昔もあったの?」
息子がこちらを向いて言った。中学にもなれば、もう昔ほど懐いては来ないが、ゲームの話だけは食いついてくる。
「いや、こんなちょっと変なタイトルのゲームはけっこうあったんだよ。『超絶倫人ベラボーマン』とか『がんばれ森川君2号』とかね」
「面白いの?」
「森川君は知らない。ベラボーマンは面白いよ、たぶんアーカイブでも出てるな」
「へー、あっ死んだ!!」
話している最中にボスにやられたようだ。
「父さん、ここだけ手伝ってくれない?」
息子がコントローラーを差し出した。どうも多人数プレイが出来るらしい。それを見て私は妻も呼んだ。
「父さんは前田がお勧め」
と息子が言う。勧められたのは『エレキ海賊前田』というキャクターで、エレキギターで突くのが基本攻撃、必殺技は雷を落とす。
「母さんは牛島かな。連打してればいいから」
さほどアクションが得意ではない妻が勧められたのは『和太鼓力士牛島』というキャラクター。通常技はバチで叩く。必殺技は地震を起こすとのこと。
キャクターを選択し、ゲームをスタートする。
ボスの手前から再開。
「なるほどな。エレキと太鼓が加わるのか」
私が気づいたことを口に出す。キャラクターが増えると各キャラクターの楽器の音がBGMに加わるシステムらしい。
「カッコイイっしょ!」
息子は得意げだ。
「母さんは後ろで連打してて!父さんは周りの雑魚を始末して欲しい!」
ボスと戦いながら息子が指示を出す。
今日買ったばかりのはずなのに、もう傾向を分析して作戦を立てている。
「よし!ありがとう!」
我々は言われるがままに動いていただけだが、それで息子はあっという間にボスを倒してしまった。
まったく、子供も適応力というのはたいしたもんだ。
「このまま次の面も出来る?次の面クリアしたらセーブして止めるから!」
憎たらしいことに、コイツは親の心理を読んでいる。
子供にお礼を言われると弱いし、『ここまでやったら止める』という条件を先に出されると、なんか許可しやすくなってしまう。
「次の面だけだよ」
妻が先に了承したので、私も付き合うことにした。
ゲームをやりながら、ふと前任SVと退職したスタッフの顔が浮かんだ。
彼らともっと上手くやれなかっただろうか・・・
今更後悔しても遅いのだが、そんな念が沸いてくる。
オーボエに、エレキギターに、和太鼓。このムチャクチャな組み合わせだと思ったBGMが、なんだか耳になじんで来たからだ。
―了―
お父さんのオフショット(*´ω`*)




