二角ゆうさまのオーボエファイター木村
タイトル『ボウボウファインナーキモルナ』
東洋にある自国から船が出て早数ヶ月。
周りからは“東洋使節団”と呼ばれるようになった。
いくつかの港を経由しながらナーロッパにも向かっている。
木村之助のいう若者は一人闘志を燃やしていた。
ナーロッパでは、とにかく自国とすべてが違う。向こうで成り上がろうと心に秘めていた。
いくつかの港を過ぎると、人の毛色が変わってきた。肌の色は白くなり背や鼻も高くなる。
髪や瞳の色もこれまでにない色の人が多くなる。
ある港から船は出港した。次の港はもうナーロッパ。
(そろそろいくか)
木村之助は正義の味方になるべく困っている人を探していた。
船の甲板の方から声が聞こえる。
「あんたー! そっちは危ないから行かないでおくれ!」
「俺はもう無理だ!」
木村之助は腰の刀に手を添え⋯⋯刀はないが姿勢が格好良い、喉から想像もしない声を出す。
(この数ヶ月、船で見てきたが、楽器という鈴や鳥の音を作る筒に息を吹き込むものが素晴らしかった)
「待て〜い! 私の名は“オーボエファイター木村”!」
ちなみにオーボエは本物を見たことがない。
その後ろで音楽を奏でていたオーボエ奏者も演奏を留めてしまうほどの驚き。
フ、ファイター!?
演奏はほどけるように止まった。
誰もツッコむ間もなく木村之助の喉から歌声?が出てくる。
(さぁ、この美声、まさしくオーボエの名に相応しいだろう。歌を歌いながら戦う、まさにオーボエファイター!)
一重の薄い目をそっと閉じる木村之助。
「ぐごご、おーぼえぼぇ。ぼ〜えぇ〜ぃ」
周りの人たちは耳を手で覆う。
あまりの耳ざわりに声を出さずにはいられない。
『耳が⋯⋯中に毛虫が這っているくらい不快!』『ざわざわざわざわ⋯⋯耐えられない⋯⋯』『耳がぁ~、この耳もう取ってくれ〜!』
海老反りになって喘ぐ者、うつ伏せになって堪える者⋯⋯。
『俺たちが闘わされているのかぁ〜』
嘆きは止まらない。
木村之助は息継ぎに歌を止める。
周りの様子に違和感を覚えた木村之助は様子を探り始めた。
(俺が目を瞑っている間に何があったんだ!?)
「ぼぇえ〜、ガガガぐぅ」
『ぎゃぁ〜また始まった!』
呪いのバイオリンのようにバイオリンを振り回す奏者。
赤い靴が脱げないのか、狂ったように回り続ける少女。
また息継ぎで歌を止める。
「も、もう勘弁してくれ〜!」
声を上げる人々の中から違う声があがる。
「あっ、船酔いが治った」
「もう駄目だぁ〜」「耳がぁ〜」
「あっ私も治った」
「耳を取ってくれ〜」「耳が毛虫になる〜」
「あっ俺も治ったぞ」
混乱はしばらく続いたが、なぜか嬉しそうな人たちも大勢いる。
木村之助の歌声?で船酔いが治ったと言う人が何人も出たのだ。
「君、次の仕事は入っているのかね?」
シルクハットにスーツ、ちょび髭のスラリと背が高い紳士が声を掛ける。
「い、いえ⋯⋯」
木村之助は入ったこともない一等室が並ぶラウンジに連れて行かれた。
木村之助は頬を高揚させ、拳を何度も握った。
(やったぞ⋯⋯俺はオーボエファイター木村として認められたんだ!)
「それで、名前はなんと言うんだい?」
「オーボエファイター木村です!」
* * *
東洋使節団が帰ったあと、二つ結びの少女・ナナは友だちのシーラと話していた。
「あ〜ぁ、この前きていた東洋使節団にすごい人が乗っていたんだって」
口惜しそうに言いながら木に登るナナ。
「あっそれ、私も聞いた! 名前なんだっけ?」
「ボエボエファインター⋯⋯」
「「ボウボウファインナーキモルナ!」」
木村之助の濁声はボエボエ、ボウボウと聞こえることからボウボウではないかと皆は推測。
木村之助が何度も『ファイター』と言うところで、彼の歌声?で耳がぽわぽわした皆は聞き取れなかった。
たぶん、船酔いを治す治癒師や調整師という言葉のFinerではないかと推測。
木村之助の名前も聞き取られなかった。
しかし、彼の船酔い治しは有名になっていき、自分の名前を『ボウボウファインナーキモルナ』と呼ばれていることを本人だけが知らない。
素晴らしい! 即興でこんな空耳とは!Σ(゜Д゜)
でも木村さん、かわいそうかも……




