クレイジーエンジニアさまのたこやき
「ちょっと! アンタがたこやきなんて出すから、口の中火傷しちゃったじゃない!」
つわりで苦しむ妊娠中の妻になにか美味しい物をと考えて、自宅でたこやきを焼いた。
喜んで食べてくれたのはいいが、中身が熱いままいきなりかぶりついたから、口の中を火傷したようだ。
「たこやき食べたの初めてってわけじゃないだろ。中が熱いっての知ってるよな」
「何よ! 私が悪いって言うの!」
妊娠中の妻は、とにかく機嫌が悪い。何かにつけて俺にあたってくる。
「わかった。もうたこやきは焼かないよ」
「イヤ! たこやき食べたい!」
どないせいちゅうねん。
「そうか。だったら、冷ましてから食べようか」
「冷えたたこやきなんて美味しくない! アツいのが美味しいの! 中の温度が火傷しないぐらいにアツいのが食べたい!」
気持ちは分かるけど、無茶ぶりだ。
「よし。じゃあ熱電対を刺して中の温度を測って、適温になったのを確認して食べよう」
「温度計刺した穴が空いてるたこやきなんてイヤ! 測るなら非接触で測ってよ! そして適温になったのを出して!」
なんてわがままな。
「非接触で内部の温度を測るなんて無茶だろ」
「そこを何とかするのが技術者でしょ! そもそも、男の命は女の我儘を叶えるためにあるのよ!」
無茶苦茶言い出したが、一理ある。
技術者として頑張ってみるか。こういうのに詳しい人が職場に居るし。
………………
…………
……
「そういうわけで技師長。たこやきの内部温度を非接触で測る装置は無いでしょうか」
「課長の奥さんも随分我儘ですな。でもそれは実際難しいですよ」
俺の勤め先はプラント機器メーカー。
計測器担当の部署には、定年後の再雇用で働いているベテランの技師長が居る。
「赤外線方式とか使えないでしょうか」
「あれは物体表面温度しか見えないんです。水分の多いモノは特に」
表面だけじゃダメだ。たこやきは表面と内部の温度差が大きいのが問題だ。
「サーモグラフィで何とかならないでしょうか」
「解像度の高い熱線画像の時間変化から内部温度を予測するというのは可能ですが、あくまで予測値になります。たこやきみたいに内部が不均一な物は精度を出しにくいです」
確かに、空洞とかあると熱伝導が変わるから難しいか。
それに予測値というのも気に入らない。真の愛を語るなら、測定値は真値が必要だ。
「妻への愛を語れるぐらいに内芯の真の温度を測れるようなモノが欲しいのですが」
「うーん。そうなるとコレですかね……。精度は抜群ですが、ちょっと扱いにくいというか」
やった! やっぱり技師長は頼りになる!
…………
「非接触でたこやきの内部温度を正確に測れる機材を借りてきたぞ! たこやき焼いたから、適温になったのを確認してから食べよう!」
つ【中性子透過散乱方式内部温度計】
「妊婦が居る食卓に放射線源を持ち込むんじゃねぇぇぇ!」
※放射線源は法令を遵守して適切に扱いましょう。ひどい。ひどい。
さすがエンジニア(*´艸`*)




