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無謀! 瞬発力企画2 会場  作者: しいな ここみ
第三回目 『たこやき』
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猫舌威さまのたこやき

『断罪されすぎて、もう飽きました。〜仕事に戻れ? もう遅いです〜』




 私は、自由を掴む。



 魔法薬学クラブの朝は早い。

 授業開始の前に、放課後にクラブで使うトカチアーン薬の基本薬と、タコトネギノ薬の基本薬、それぞれの分量を量り混ぜ合わせておく。

 私、ネコジッタ子爵令嬢が今日はその当番だった。


 トカチアーン薬の基本薬は、ケイ・ラーンの卵を6個に、コナーが2キロ。薬液を約2.6リットル入れて、混ぜる。

 その日の湿度や、コナーに含まれる水分量によって固さが変わるため、薬液の量は毎日が手探りだ。一気に2.6リットル入れるのはタブー。

 ベストな滑らかさにするには毎回、微妙な薬液の調整が必要なのだ。


 タコトネギノ薬も同様に難しく、こちらは焼いて形を整える作業がある。

 トカチアーン薬よりも鉄鍋の温度が重要で、形を整えるには薬液が柔らかすぎても固まりすぎてもいけない。全体の温度を見渡す視野の広さが求められる。

 大きくぷくりと膨らむのが最上級とされているため、膨らむまで根気よく待ち、膨らんだら次は焦げつかないようにしなくてはならない。

 いずれも難しいが、楽しいしやり甲斐がある。

 


 ウミゾイ学園では、これらの魔法薬(ポーション)をバザーで学生たちが販売し、売り上げの半分を修道院へ、もう半分がクラブの活動経費となる。

 トカチアーン薬は子供のお小遣いほどの値段だが、タコトネギノ薬の値はその3倍だ。当然、出来が悪いと、お客さまから苦情がくる。

 私のタコトネギノ薬は、8割方が膨らんでいる。

 うん、まあまあの出来。

 さっそくそれを、バザーに出品した。



「これ、ください」


 今日初めてのお客さまは、町の子供だ。銀の硬貨を1枚握りしめた、3歳くらいの男の子。おつかいかしら? とても可愛らしい。


「タコトネギノ薬、ひとつでいいかしら?」

「たこ……やき?」

「タコトネギノやく、よ」

「たこ、やき、たこやき!」


 うーん、ちょっと違うのだけど。

 でもまあ、焼いて作るのだからいいか。


「うん、たこやき、ひとつね」


 苦笑を隠し、硬貨を受け取る。ぎゅっと握りしめてたから温かい。

 男の子はタコトネギノ薬の入った袋を抱え、喜んで帰っていった。

 温かい魔法薬の効能で、貴方と貴方の家族が癒されますように。


 そんな私の魔法薬を、離れて睨みつけている人がいることには気づいていた。

 シレット子爵令嬢。

 私を何かと目のかたきにする令嬢だ。

 彼女の器の小ささはクラブの皆が知るところで、本人だけがそれを知らない。

 クラブの皆と部長、学園長までも自分の言う通りに動くのだと本気で思い、実行している女生徒だ。


「ネコジッタさま、貴女のタコトネギノ薬、潰れているのではなくて?」


 ホラ来た。

 人を見れば粗探しをする彼女は、自分のタコトネギノ薬が売れていないことはおくびにも出さず、目を吊り上げて私に詰め寄ってきた。


「全て丸く、硬くするようにと私は先輩に教わったのですけど? 貴女は相変わらず、先輩の指導を無視するのね」

「私は先輩に、潰れているから失敗、硬いから成功とは教わってないもの」


 温かいもの同士がくっついたら、そこが互いの熱で柔らかくなり、潰れてしまうのは仕方ないと思うのだけど。

 そう返すと、シレットさまは私を睨みつけた。


 先日、バザー会場でタコトネギノ薬を服用したお客さまがいた。「こんな硬いもの食えるか!」とご立腹で、別のものを渡そうとしたけど、それも硬いだろうと察したのか返金を要求した。

 会計を担当していた修道士は、謝罪と返金をした。


 私はその日、トカチアーン薬に忙殺されていたので、タコトネギノ薬を作っていない。

 お客さまが服用したのは、今まさにタコトネギノ薬を作成しているシレットさまの、出来たてのものだったのだ。

 シレットさまのそれは、もとは液体だったとは思えないほどに硬く、ガリ、と信じられない音を立てる。工程全てのタイミングが合っていないことを、その音が物語る。

 外側の皮1、2ミリはカリッ、中はクリーミー、というのがタコトネギノ薬のベストのはず。

 歯で噛み切れないタコトネギノ薬など、もはや金を取ってはいけない失敗作だ。

 尊敬するライデン先輩は、本当にその硬さが正解だと彼女に教えたのか。そんなわけはない。


 その突き返された事件は、クラブの皆も他のお客さまも見ている前で起こった。

 その羞恥と鬱憤を、数日後に私に当たって晴らそうとしているのは明白だ。

 なんて迷惑な。


「もういいわ! 部長に報告させてもらうわ。私の注意を聞かないってね!」

「ご自由に」


 部長の返事は分かっている。

 この面倒くさい令嬢のヒステリーをかわすため、曖昧な顔で「そうだね」と同意する。

 虎の威を借りた彼女は、意気揚々と私に説教してくる。そういう流れだ。

 ご自由に。

 私の感情はあきらめを通り越し、自我を保つためだけのものになっていった。

 


 月末。

 魔法薬の在庫調べを、いつもは私に押しつけるのに、珍しく「私がやるわ」とシレットさまが言ってきた。

 私はある予感がしていた。

 月末に合わせてシビアに在庫管理していた私に反抗して、彼女は大量にトカチアーンを発注した。それが思ったように消費されず、大量の在庫を抱えていたのだ。

 これでよし、と彼女が提出した在庫数をチラリと見たら、案の定。数が少なく記入されていた。

 こんなことだと思った。

 ため息をつき、私はシレットさまを呼びとめる。


「シレットさま、在庫はこんなにあるのよ? あの数字は何?」

「私は先輩からこう聞いたのよ! ふたつのトカチアーンを容器に入れて、それをひとつと数えろって!」

「ありえないわ。ひと袋いくら、で在庫は計算するのよ。先輩の教えだとしたら、先輩が間違ってる。正確に記入して」


 私の指摘に分が悪いと判断したのか、シレットさまは「そ、そうよね……」と低く呟いて数字を訂正していた。


 しかし、その数分後。

 数が2倍になった数字の訂正を疑問に思ったクラブの顧問が、シレットさまに事情を聞いた。

 彼女は私を指差し、叫んだ。


「貴女が数をごまかせって言ったんじゃない! 私はそう聞いたわ! だから私が訂正したんじゃない!」


 …………は?


 顧問が「まあまあ落ち着け」と、ヒステリックな彼女をなだめる。

 その光景は視えていた。

 視えていただけだ。何の感情もわかない。

 怒りすら。

 呆れすら。

 顧問の背中は、真偽などどうでもいいと、とりあえず『在庫の数え方が違っていたから訂正した』という事実だけ理解したと、そう言っていた。

 私の『弁解』は不要と。


 私の口角は上がっていた。

 もはや喜劇だった。




「部長、私、今月いっぱいでクラブを辞めて良いですか」


 翌朝のクラブの部屋は、清々しく見えた。

 「何故!?」と彼は驚いていた。

 何故、って。


(貴方が味方してくれないからですよ)


 とは、言えなかった。

 気づいてもいないのかしら。クラブの中のヒビ割れに。もう補修しようもないほど壊れた空気に。


 シレットさまを何とかしてくれと、彼女の味方ばかりしないでくれと、私が訴えていれば変わっただろうか。

 否、変わらなかっただろう。彼女は自分がクラブの頂点だと信じている。部長何するものぞ、だ。

 その割には頂点たる責任からは逃げまくっているのだけど。

 部長はそんな彼女と関わりたくない。いや、誰も関わりたくないだろう。面倒くさいからだ。

 

「もう、疲れたのです。体力的にも、精神的にも」


 部長は渋々ながら同意した。

 その同意が叶うことを今は祈ろう。

 自由になれると。



 私の技術は埋もれることになる。

 もう、タコトネギノ薬……あの子のたこやきを作ることもなくなる。

 少し寂しいけれど。

 私には、初めて未来が明るくみえた。


 それに、大きな意趣返しもできるしね。


「さて、シレットさまには私の仕事を引き継いでもらわないとね。トカチアーン薬とタコトネギノ薬の名前付与の術式と、隣の魔法生物研究クラブのお手伝い全部と、新薬お披露目のポスター製作と各部所への新薬の通達、バザーでの計算魔道具のトラブルは毎回違うからその対処法と、魔道具の数代前の術式が今度復活すると言ってたし……。これ全部できるの私だけだったのよね。今まで逃げてた分、覚えてもらうことは山ほどあるわよ、シレットさま」


 戻れと言われたって、もう遅いですからね?


3,284文字!


たこやきみたいな薬だったら私、いくらでも飲ん…喰ってやるわ(*´﹃`*)描写と詳しい調合量がうまそうでした



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― 新着の感想 ―
笹門優さま、シロクマシロウ子さま、感想ありがとうございます。 タコトネギノ薬は、タココナー1キロにケイ・ラーン5個、聖水3.5リットル、カツォダッシ50CCの基本薬を型に流し、アゲ・ダーマ、タコトネギ…
たこやきが薬かあ。 子どもたちでも飲め………食べられる薬だ( ̄∇ ̄) あっついけど。
NEWたこやき!作り方がなんだか凄いです!\( ˆoˆ )/
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