しいなここみのたこやき3
『不思議なたこやき』
カズヤは友達と遊園地に来ていた。みんな同級生、五人とも小学五年生だ。
「あそこのたこやき、うまいんだぜー」
太っちょのタイへーが言った。指さす先には少し高くなったところにFRP製の白い小屋がある。『スナックコーナー』の看板が掲げられていた。
「ふーん? 行ってみようぜ。確かに腹減った」
カズヤがそう言って短い階段へ向かう。
「あたし、もうお金ないや……。やめとく」
リカがそう言ったのを受けて、カズヤが振り返り、言った。
「いーよ。俺、おごるよ。一緒に食べようぜ」
「いらっしゃいませー」
中にいたつまようじみたいな女性店員が、おとなしい声で言った。
「これだよ、これ」
タイへーが太い指でホットショーケースの中をさす。
「このたこやきがうまいんだ」
透明のプラスチックパックの中に、こんがりいい色のたこやきが8つ、ソースも何もつけずに置かれていた。
「おばさん、たこやきちょうだい」
見た目も中身も一番小学生らしいショータがそう言うと、店員のお姉さんが殺気のこもった目でこっちを見た。
「お姉さんだろ」
カズヤがフォローした。
「お姉さん、たこやきひとつしかないの?」
ホットショーケースの中にはフライドポテト、フライドチキン、そしてたこやきがひとつずつしかない。
しかしお姉さんと呼ばれて機嫌を取り戻した店員はにこっと微笑むと、店の奥にある温蔵庫の中を確認し、カズヤに言った。
「5パックあるよー。みんな1パックずつ買う?」
「どうする?」
「本当にうまいのかな」
みんなはタイへーのことを信用していないようだ。
「とりあえず僕、1パックください」
ハキハキと注文するタイへーを横目に見ながら、カズヤがみんなに言った。
「とりあえず1パックだけ買おうぜ。うまかったらまた買いに来よう」
お姉さんが温蔵庫から2パックを取り出すと、ソース、かつお粉、青のりをかけてくれ、つまようじを2本挿し、ケンコーのミニパックマヨネーズをつけて提供してくれた。
「ありがとう、綺麗なお姉さん」
商品を受け取りながらカズヤがお世辞を言う。
「代金別々? 1パック350円になりまーす」
お姉さんの笑顔がまぶしかった。
早速、店先に置かれたテーブルにみんなで着くと、パックを開けた。
ホカホカの湯気が三月の陽気と混じり合い、鼻をくすぐる。
「じゃ、俺から食うな?」
カズヤはそう言うと、つまようじでたこやきを持ち上げた。
底の平らな、いわゆる『釣鐘型』のたこやきだった。
湯気は立っているが、温蔵庫で保存されていたものだ。焼きたてではないのでそこまで熱くはなさそうだった。
つまようじで持ち上げると崩れるぐらいフニャフニャなものが多いが、これは持ち上げてもしっかりと形を保っている。カズヤはあーんと口を開けると、たこやきに噛りついた。
カシュッ──
「おぉ……!?」
思わず声が出た。
「うまーっ! なんていうか、不思議! こんなたこやき食ったことねー!」
「だろぉ?」
タイへーが我が事のように自慢げに言う。
「僕の言った通りだろぉ〜?」
「はい。リカも食べな」
カズヤが口をつけたつまようじをたこやきに挿し、持ち上げてリカに差し出す。
「いいよ〜。自分で持って食べるから〜」
リカが恥ずかしがるのでパックにたこやきを戻して渡す。リカはカズヤが口をつけたつまようじを嬉しそうに持つと、口に運んだ。
「おいしいっ!」
リカが目を輝かせた。
「ほんとだっ! 不思議なたこやきだね! こんなの食べたことない! なんていうか、コクがあって……、ジューシーで……。中はトロットロだし、なんといっても外側がカッシュカシュ!」
カズヤは嬉しくなった。
リカが笑顔になったのと、自分が使ったつまようじで食べるのを嫌がらなかったことに。
少し離れたところでタイへーも満足そうな笑顔を浮かべている。
「どれどれ」
一番オトナっぽいハルマがつまようじを持つと、言った。
「どんな不思議な味がするんだ?」
そして口に入れ、数回咀嚼するなり、みんなを小馬鹿にするように漏らした。
「おいおい……。これ、たこやきじゃないよ。あげたこだ」
「あげたこ?」
「何、それ」
「焼いてるんじゃなくて、油で揚げてるんだよ。だから外側がこんなにカシュカシュなんだ。……で、たぶんこれ、冷凍食品だよ」
「冷凍食品……」
「そうなんだ……」
タイへーが太っちょの身体を小さくしてうなだれた。
カズヤもリカも、なんだか恥ずかしくなってしまった。冷凍食品を不思議な味とか言って、しかも派手に美味しそうにしてしまった自分たちが──
最後にショータが口に入れると、目を輝かせて声をあげた。
「でも、うまいよ、これ! 俺、大好き!」
カズヤはその言葉を聞いて、リカと顔を見合わせた。そして顔をくしゃっとさせて笑い合う。
「俺、もう1パック買ってくる」
カズヤが立ち上がり、すぐにリカを振り返る。
「だって本当に美味しいもんな! カッシュカシュいわせて食おうぜ」
みんなで食べるあげたこは、たとえ冷凍食品でも最高に美味かった。
カズヤは向かいにリカの笑顔を見ながら、この日のことは忘れないかもと思っていた。




