Ajuさまのたこやき
俺たちの作品は、青空の中へと吸い込まれていった。
= たこやき宇宙へ行く = Aju
群れるのは苦手だった。
なんていうか、会話のタイミングっていうか、空気っていうか‥‥そういうのつかむのが下手で、なぜかいつも場にしらっとした空気を漂わせてしまう。
だからいつの頃からか、ただ黙って曖昧な微笑みを浮かべながらみんなの会話を聞いているだけになっていった。
そういう集まりの中心になれる男ってのはモテる。チョコレートなんかもたくさんもらったりするんだな。
「義理チョコでごめんね♡」とか言われながらも——だ。
そんな集まりの中にいると、なんとなく自尊心がじわりと傷ついたりして‥‥そのうち一人だけの時間を好むようになっていた。
家が機械加工の工場をやっていることもあって、小さい頃から機械を作ることが好きだった。
オタマジャクシの形をしたものを水に入れると、留めていた糊が溶けてカエルの形に変身する機械を作ったときには大人たちにびっくりされた。
中学生になる頃には、俺は群れから外れたボッチになり、俺のイメージは機械いじりが好きなオタクで定着していた。
「なあ、科学部に入らない?」
そう誘ってきたのは、これまたオタクイメージの木村卓也だった。(名前負け 笑)
「今年3年生が抜けちゃうと、部員が2人だけになっちゃうんだ。4人以上いないと『部活』として認められなくなっちゃって部費が出なくなるんだよ。」
「何やってるの? 科学部って‥‥」
「それぞれ自分の興味のある研究。俺はプログラミングだし、山田はデータ解析。まあ、オタクの集まりみたいなもんなんだけど。」
ああ、そういうとこなら群れなくてもいいかも‥‥。
そう思った俺は誘いに乗ることにした。
高校受験の面接で「何か部活動はしていましたか?」という問いに答えられれば、若干でも有利かな——というゲンキンな思いもあった。
さて、実際に参加してみるとけっこう居心地のいい場所だった。
互いにあまり干渉せず、好きなことをやってるだけだし、俺の作る機械にも興味を持ってもらえて、俺は少しだけ自己肯定感が上がった。
だがそんな平和な日々にも問題は迫ってきていた。
2人の3年生のうち、雪田先輩は「受験に専念したい」と言って退部してしまったし、残った小島みゆき先輩も卒業すれば科学部はまた3人だけになってしまう。
「1年生を入れないとね。このままじゃ科学部は存続できないよ。優秀なメンバーいるのにねぇ」
小島さんが大きくない胸の上で腕組みして言う。
「もったいないよ。なんか派手なことできないかなぁ」
「そう言っても、俺たちやってることが地味だし。3人とも性格も地味だし‥‥」
「う〜ん。しかし‥‥理系人間は日本の未来を背負う人材なんだぞ?」
そう言ってる小島さん自身が、興味を持ってやってることが地球環境の研究だから、文化祭で発表しても軽音部や演劇部みたいな派手さはない。
「何かいいアイデアないか、大学行ってる先輩に相談してみるわ」
小島先輩はその広い人脈で、残される俺たちのためにこの部の存続のプランを考えようとしてくれていた。彼女だって受験があるだろうに。
「ロボットでも作る? せっかく高森も入ってくれたんだし、俺がプログラム作ってさ。山田もデータ解析で協力できるだろ? ロボコンで優勝すれば新入部員も増えると思うよ?」
「あれ、そんなに簡単に勝てるもんじゃないんだよ? お金だってかかるし、工場の工作機械だって休みの日くらいしか使わせてもらえないよ」
そんなこんなで夏休みも近づいた頃、小島先輩が部室の扉を勢いよく開けた。
「人工衛星作ろう!」
「なん‥‥?」
「え‥‥?」
小島先輩の話では、12月、クリスマスの日に和歌山の民間発射場から民間ロケットが打ち上げられるのだそうだ。
それに学生の作った人工衛星を載せようと、ロケットの開発会社が日本全国に公募をかけているという話だった。
名乗りを上げているのは11グループほどあって、ほとんどが工業高校や大学のサークルだったが、中学生が参加しちゃいけないという規定はないのだという。
「わたしの先輩がさ、他との差別化を図るために中学生が作った子衛星を宇宙空間で分離して一緒に回る親子衛星というアイデアで勝負をかけたいって言ってくれたんだ。わかる?」
小島先輩は頬を上気させている。
「で! わたしは、地球の森林や海の状態を観測して気候対策に貢献するデータを提供できる人工衛星を作れる——って言ってきちゃった!」
「ええ——っ?」
「できるだろ? 山田の解析スキルと木村のプログラミング能力なら。何をどう観測して解析すればいいかは、わたしが教えるからさ!」
「それは‥‥でも、本体は? 人工衛星本体‥‥」
「高森がいる」
小島先輩が期待を込めて俺を見る。
「大きさと重さの限度はいくらまでですか?」
俺はそう聞きながら、わくわくし始めていた。
「聞いてきたのは3センチ角、120グラムまで」
ここで初めて小島先輩は不安そうな顔をした。
「できそうか?」
かなりキビシイ。
その中に集積回路と発信装置、姿勢制御のミニロケット、小型カメラ、そして折りたたんで宇宙空間で広げる軽量の太陽電池を入れなければならない。
しかし、だからこそ俺は知らず知らずのうちに笑顔になっていた。
「やってみせますよ、先輩」
10月末の最終審査で、ロケットに搭載される2つの人工衛星の1つに俺たちの親子衛星は選ばれた。
決まった時には俺は大学生の人たちに胴上げまでされた。
人と関わることって、こんなに楽しいんだ。
俺がこのプロジェクトで学んだいちばん大切なこと。
宇宙空間で広がるソーラーパネルはシートタイプの太陽電池を使い、広げるシステムはかつて作ったオタマジャクシがカエルになる機構を発展させたものを使った。
姿勢制御には圧縮空気を放出するミニボンベを搭載し、そのコントロールは地上から木村の作ったAIが行う。
発信は微弱な電波でもいい。大学生の人たちの親衛星にまで届けばそこから地上に届く電波に乗せてもらえるからだ。
3センチ角。
「よく納めたよね。これだけの機構をこの中に‥‥」
最初に見たときも大学生のお兄さんお姉さんは感心してくれた。
デモ用に作ったもう1つのソーラーウイングが自力で広がるところを見せた時には、審査員の先生方から「おお‥‥」と言う声が上がったのが誇らしかった。
「子衛星の名前は『たこやき』です」
小島先輩が胸を張ってそう発表した。
高森・小島・山田・木村 の頭文字をとったのだ。
大きさもちょうどそんな感じだ。
四角い『たこやき』はメディアでも話題になった。
クリスマス。
俺たちは和歌山県の発射場に行った。
人工衛星のコントロールや状態の確認のために、関係者として。
もし、失敗したらバラバラになってしまう。
緊張と不安と期待に胸をふくらませて見守る中、秒読みが始まり、固体燃料のロケットは点火された。
俺たちの心配を拭い去るように、ロケットは白煙とともに青空の中へと昇っていった。
了
2,806文字!
ワクワクします。池井戸潤さまの『下町ロケット』と『ウは宇宙のウ』をいっぺんに読んだぐらいの充実感がありました(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ありがとうございました




