しいなここみのたこやき
学生時代、たこやき屋さんでアルバイトをしていた。
大型のバケツに水を入れ、だし粉を混ぜ、そこに卵を割り入れる。
小麦粉と山芋をぶち込んだら巨大な泡だて器をぐいぐい言わせてかき混ぜる。これでタネの準備はOKだ。
丸い穴がいくつも並んだ鉄板が私を待っている。
間違ってもこの穴は、ハゲオヤジの頭で型を取ったものではない。
何ていう器具か知らないけど、ハンドルのついたじょうろみたいなやつで、半分ほどタネを鉄板の穴の中に注ぐ。
素速くタコをひとつずつ穴に入れ、天かす、紅しょうが、あとなんだったっけ、おぉキャベツを忘れてた!
具材をばらまいたらもう一度、その上からタネをだばだばとかける。
鉄板の上が真っ白な海になったら、ここからが一番の腕の見せどころだ。
転がす!
千枚通しを差し込んで──
神速の手さばき!
チャチャチャチャチャチャ──!
丸いたこやきが均一に黄金色に変わっていく!
隣で見ている社員のおばちゃんが感嘆の声を漏らす。
「しいなさん、すごい!」
当たり前だ。
私は職人なのだ。
アルバイトだけど職人だ!
立派に丸くておおきいたこやきを、美味しく、外側はこんがりと、中はじゅんわりトロトロに焼く職人なのだ!
でも大学を卒業したらたこやき屋さんになろうとは思っていなかった。
その理由とは──
私がアルバイトを始めて二年目のことだったと思う。
店長が新しいたこやき器を導入した。
私が慣れ親しんだ相棒は撤去され、強制的に私は新しい鉄板の前に立たされた。
前の相棒は黒かった。
新しい相棒はピカピカ光る銀色だ。
焼き方も違った。
鉄板の上を白い海にするところまでは同じだが──
「新しいのは便利がいいねぇ」
社員のおばちゃんが言った。
「焼くのが簡単になって助かるわぁ」
新しいやつは転がさなくてもよかった。
穴からはみ出たタネを千枚通しで穴に戻し入れて──
本を閉じるように、パタン──
ひっくり返したら、底の平べったいたこやきができるタイプだった。
簡単だった。
私は泣きそうになった。
せっかく職人になったのに──
今度のたこやき器だと誰がやっても同じ。
むしろ今まで私の足元にも及ばなかった社員のおばちゃんのほうが少しうまく作れるようになった気がしていた。
私が習得したあの技術は、無駄なものとなった。
あぁ……。たこやきがずっと丸かったなら──
私は現在、たこやき屋さんで職人をやっていたかもしれないのに。
恨む──
恨むぞ──
恨みます──
底の平べったいたこやきを考案したひとを、恨みます!
あるいは感謝すべきなのかもしれない。




