清坂 正吾さまのたこやき
放課後の教室。
部活へ向かう足音が廊下を駆け抜け、遠くのグラウンドからは掛け声が聞こえてくる。
そんなざわめきの中、窓際の席で亜季は机に突っ伏していた。
そこへ奈津紀が声を掛ける。
「どうしたの、亜季?」
「奈津紀……。今回の瞬発力企画のお題が“たこやき”なんだけど、何か良いアイディアない?」
顔だけ上げて、困ったように言う。
「うーん……。“たこやき”ね……。平仮名4文字だし、“あいうえお作文”なんてどう?」
「“あいうえお作文”……! いいね。でも、それって、どんな題材でも使えちゃわない?」
沈黙。
(あれ? 余計なこと言った?)
さらに沈黙。
(長い……)
まだ沈黙。
(気まずい……何か言わなきゃ……)
「あ、あいうえお作文にして、たこやきにピッタリな文を作れたら良いよね……?」
おそるおそる言うと、奈津紀はぱっと笑顔になった。
「それ、いいじゃない! じゃあ勝負しましょう。本物の“たこやきJK”を決める戦いよ」
「“たこやきJK”って何……? で、どうやって勝負するの?」
「委員長に審査してもらうの。三作品ずつ発表、各10点満点。合計点で勝負」
奈津紀はそう言って、クラス委員の滝口くんを呼んできた。
「負けた方が、たこやき奢りね」
「いいわ。やりましょう」
◇
「では、どちらから?」
「はい、私から!」
亜季が元気よく手を挙げる。
「一つ目、いきます」
『た:大変だ
こ:焦がしちまったぜ
や:焼きすぎた……
き:君の分だけ』
(自分のは成功してるのかよ……)
「2点」
「辛い……採点が辛い……!」
「次は私よ」
『た:タコ入れて
こ:粉を混ぜ混ぜ
や:焼きましょう
き:きゃー、水を入れるの忘れてた』
(なんで二人とも失敗しているんだよ……)
「2点」
「えぇー!」
「はい、二つ目!」
亜季が再び手を挙げる。
『た:たくさん食べたい
こ:この気持ち
や:やせるためには
き:今日も我慢』
(うまい。でも、たこやきどこ!?)
「1点」
「そんなぁ!」
「私も負けないわ」
『た:確かにある
こ:恋心
や:やっぱり
き:君に伝えたい』
(だから、たこやきどこ!?)
「1点」
「なんでよ!」
奈津紀が肩を落とす。
「最後よ! 自信作!」
『た:助けてよ
こ:怖いよ怖い
や:やつが来る
き:金箔だらけのおじいさん』
(金箔だらけは怖いけど……方向性が違う)
「0点」
亜季も机に突っ伏す。
「これで決まりね!」
奈津紀が勢いよく紙を突き出す。
『た:たけし!
こ:こんな
や:やつ
き:気にすんな!』
(誰だよ、たけし)
「0点」
「ちょっと! 厳しすぎない?」
「そうよ! そんなに言うなら、滝口くんもやってよ!」
「……分かったよ」
滝口くんは、ため息をひとつついてから、すぐに書き上げた。
『た:たこやきは
こ:ころころ丸くて
や:やっぱりうまい。でも、
き:君たちには作らせたくない』
一瞬の沈黙。
「うまい!」
「なんでよー!!」
教室に笑い声が広がる。
窓の外では、夕日が校舎をオレンジ色に染めていた。
「じゃあ、みんなでたこやき食べに行こうか」
「「いいね!」」
三人は教室を後にする。
誰もいなくなった教室には、まだほんの少し、楽しそうな空気が残っていた。
これはニヤニヤするニヤニヤ(°∀° )ニヤニヤ




