二角ゆうさまのお金
「はい、三アラベルGだよ」
「あっおばさん、私お金持っていないの⋯⋯」
市場に買いに来た二つ結びの少女は歯切れが悪い。少女の小さな指先には所々土が付いている。
片眉を上げた串焼き屋のおばさんの目の前に少女の持っている網籠が差し出された。
口を開けかけたおばさんは網籠の中を見る。中に入っているものを見ると顔が緩んだ。
「これは中々いい薬草じゃないか。これと交換って訳かい?」
「はい」
少女の返事を聞くと、奥に戻ってしまった。少女の胸が変な音を立てる。
すぐに戻ってくると違う串の袋を目の前に差し出された。
「それと交換ならこれもおまけだよ。賢い嬢ちゃんだね」
少女の顔はようやく綻んだ。
薬草が空になった籠の中に串焼きの紙袋がカサカサと音を立てて入る。
おばさんと笑顔で挨拶して離れると足取りは軽い。
市場は昼の時間帯で人で賑わっていた。
少女は晴れ晴れした顔である所へ向っていると蜂蜜の甘い匂いと共に元気なおばさんに声を掛けられた。
「ナナちゃん、これも食べていかないかい?」
丸いパンを手に恰幅の良いおばさんが笑顔を向ける。ナナは申し訳なさそうに籠中を見せると肩を竦めた。
「ごめんなさい、お買い物は終わりなんです。それにお金ないし⋯⋯」
「あっそれなら──」
おばさんは店の中に手招きした。
部屋の奥の一つの棚の前、ナナはおばさんの顔を覗く。
居心地悪そうな笑いをすると、”棚の下の掃除をしてくれないか”と頼んできた。
床からナナの顔がちょうど収まりそうな隙間が空いている。
埃がちらほら見える。奥にも⋯⋯暗くて全部は見えない。
ナナにとっては楽勝だった。すぐに箒を借りるしゃがんで箒を奥まで突っ込む。
数分もすると色んなものが出てきた。
埃や小麦粉、クッキーの型、そして──。
「あらやだ! 私の結婚指輪、こんなところに落ちてたのね!!」
胸を撫で下ろすおばさんに力いっぱい抱擁され窒息しかかるナナ。さっそくおばさんは指に指輪を⋯⋯中々入らない。
「おかしいな」なんて呟きながら押し込み終わると、そこへパン屋の旦那が顔を出した。
「なんかあったのかい?」
「い、いやぁねぇ、何もないわよ。ナナちゃんに掃除をしてもらっただけ」
いっそう笑顔になったおばさんは袋いっぱいにパンを入れてくれた。
* * *
笑顔で別れると、「今度こそ向かうぞ」と意気込み市場と反対方向へ足を向ける。
「ナナちゃんや」
嗄れたこの声はナンシー婆や。
「こんちには、おばあちゃん」
甘い匂いがするブラウニーが人気のお菓子屋さん。
ナナも好きでたまに買ってもらう。しっとりとして甘いブラウニーが大好きなのだ。
ナナの姿を見るなり、店のおばさんが近づいてくる。
「ちょうど良かった。ナナちゃん、少しおばあちゃんの話し相手になってくれる? さっききた人が注文を間違えて行っちゃったんだよ」
ナナは頷いた。ナンシー婆は色んな話をしてくれるから面白い。
ナナの知らない国の話や魔法の話。
星の話や妖精の話──。
好きなお話は何度だって聞いてしまう。
「ナナちゃんや、今日は何の話にしようかね?」
「町の少女が王子さまを振る話!」
「ほっほっその話、ナナちゃんは大好きだね」
「だって振られた王子さまが必死になるのって面白いじゃない」
ナンシー婆との時間はあっという間に過ぎてしまう。気がついたらおばさんが戻ってきていた。ナナは腰を浮かせて立ち上がる。
おばさんの手からブラウニーの入った袋を手渡される。
ナナはそれを見て顔を上げるとおばさんに先回りされた。
「店番のお礼。お客さん、たくさん来ていたでしょ。あんなのおばあちゃんじゃ対応できなかったから助かったわ」
そうなのだ。話し始めて五分もすると珍しく人がいっぱい来た。
ナナは覚えることは得意だったので、注文をすぐに覚えて、紙袋に入れた。
計算はナンシー婆と一緒に確認しながらやったが、ようやく落ち着いた頃におばさんが戻ってきたのだ。
お礼を言ってお店を離れる頃には籠は食べ物でいっぱいだった。
* * *
慎重に歩きながら、目的の場所にたどり着いた。
部屋の中から男の人の声がする。
「おやっ、小さなお客さんだぞ」
籠を大事そうに抱えて部屋に入る。
「へへっ、お父さんお見舞い」
お父さんと仕事仲間の人はベッドに横になっていた。大きなお父さんと同じくらいの大きさの男の人が二人。
ナナはそれぞれにパンや串焼き、それにブラウニーを配る。
「これはお父さん、こっちはガラドさん、隊長もどうぞ」
お父さんは警鐘隊という何かあった時に鐘を鳴らすお仕事をしているらしいのだ。
この前、怪我して戻ってきたけど、仕事に一生懸命なお父さんが大好き。
この前はとても危ない仕事だったらしいけど、お父さんのおかげで国は守られたんだって言ってた。
隊長にはパンと串焼き。
「あれっ、俺にはブラウニーはないのかい?」
「甘いの嫌いかと思って」
勘違いだった。隊長は一番の甘いもの好きらしい。
たくさんの食べ物を配り終わってお父さんは私の頭を撫でた。
「こんなにお使い大変だったなあ。それにしてもよくこれだけのお金を母さんが渡してくれたな」
「違うよ。私が働いた代わりにくれたの。お金は渡してないもの」
そこにいた皆が変な声を上げた。
一番はお父さんだったけど。
目を右や左に動かす変なお父さん。
「ナナ、お金はどうしたんだい?」
「行く途中に倒れてたおじさんにあげちゃった」
ナナはポッケにお金を突っ込む仕草をする。呆れるお父さんと笑っているガラドと隊長。
「おっおい、行き倒れのおじさんなんかにあげたのか?」
「だってかわいそうでしょ? お母さんもよく言ってたもの。そういうお父さんだってお母さんとあった時に──」
「ちょっと待った!」と慌てるお父さん。
「「おっトウジンの馴れ初めか?」」と嬉しそうなガラドと隊長。
「ちょっと二人ともやめてくださいよ〜!」
楽しげな声は部屋の中でいつまでも続きました。
(おしまい)
【後書き】
企画でいいのか分かりませんが、前回の青空の続きっぽくしてみました。
(もちろん単体でも十分読めます)
2,421文字!
優しい世界。続きものでももちろん構いませんよ。




