斉藤寅蔵さまのお金
《山姥デスレース》
「おおおおお死ねええええっ!」
シュッ
「うわっ危な!」
老婆の振り回す包丁が僕の背を掠める。
「錫木君、無事か!?」
「ええ、何とか」
「ハア、ハア、しかし伝説の妖怪『山姥』に追われることになろうとはな」
「ゼイ、ゼイ、いやただの頭のおかしい婆さんでしょう」
山中で美澪先輩と俺は、頭のおかしい老婆に包丁で襲われていた。
そもそも今日は美澪先輩に
「錫木君、ツチノコ探しに行こう」
と山に無理矢理連れ出されたのが不運の始まりだった。
山中でヘビを狩ってむさぼり喰ってる老婆を目撃してしまったところ
「み~た~な~!」
と包丁を振り回してきた老婆に追われ、現在逃走中というわけだ。
「しかしあの身体能力は人間のものではあるまい」
「頭のおかしい人ってすごい体力を発揮したりするもんなんですよ」
そんな凄い身体能力の老婆に追われてる僕らが何故まだ無事なのかというと
「おおおおお死ねええええっ!」
ザザザッザシュッ
「ギイー」
老婆は動くものに反応するらしく、僕らを追いながら脇のヘビやトカゲや昆虫を狩って寄り道するため、その度に僕らとの距離が開くのだ。
「ゼイ、ゼイ、しかしそろそろヤバく」
「ハア、ハア、錫木君、山姥を足止めする方法を思い付いたぞ」
「え、マジ?」
「古くからの民話に伝わる方法だ。幸い今、私も『三枚』持っている」
「ええっ?それってもしかして小坊主さんが山姥を足止めしたっていう伝説の?そんなの持ち歩いてたんですか?」
「うむ」
そう言うと美澪先輩は腰のポーチから財布を出して、そこから千円札を三枚取り出した。
三枚の千円札。
三枚のお札。
「ノオオオ!それ『三枚のO・SA・TU』じゃないですか!僕らに必要なのは『三枚のO・FU・DA』!霊験あらたかなO・FU・DA!」
「ごちゃごちゃ煩い男だな。漢字が同じなんだから効果もあるだろ。ソラッ!」
美澪先輩は三枚の千円札を後ろに向かって投げるが、当然老婆には届かない。
千円札は風にヒラヒラと舞って谷へと落ちていく。
と、
「おおおおお金ええええっ!」
ズザザザーッ
と老婆が千円札を追って谷へ転がり落ちていった!
助かった!
「うむ、やはり古い伝承の中に真の叡智があるものだな」
「いやお金に釣られただけじゃないですか!」
古い伝承一個も関係ない!
「それより早く救急車呼ばないと!」
頭のおかしい老婆だが見捨てるわけにもいかない。
「救急車?何を言っているのかね?」
そう言って美澪先輩は谷底を指差した。
「おおおおお金ええええっ!」
下では起き上がった老婆が谷底に向かって走っていた。
え?あれで無傷だったの?もしかしてガチで妖怪だった?
老婆は千円札を追いかけて谷底の川に飛び込み、猛スピードで下流に向かって泳いでいった。
「さ、脅威は去ったし帰ろうか」
「あー、はい」
僕らはゆっくりと山を下りだした。
「あ、帰り道の近くにもう1ヵ所ツチノコスポットが」
「今日はもうUMAも妖怪もいりません!怪異はお腹いっぱいです!」
妖怪にもお金という幻想は効くのですね(。-人-。)




