表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無謀! 瞬発力企画2 会場  作者: しいな ここみ
第二回目 『お金』
44/102

かぐつち・くまナぱ(便乗期間限定w)さまのお金

『金糸の魔女 ― アウレリア』


その魔女の名は、アウレリア・ヴァン・グリード。


かつては貧しい商人の娘だった。


挿絵(By みてみん)


帳簿と借用書に囲まれて育ち、幼い頃から知っていた。


人は罪よりも、貧しさに怯えることを。


父は誠実だった。

──だが、誠実さは金にならなかった。


客は踏み倒し、友が裏切り、同業者に稼ぐ手立てを奪われた。


正直者の家族は、最後に飢えて死んだ。


その凍える夜、死の間際に父は言った。


「金さえ…あれば…」


その言葉は、少女を呪い、やがて彼女は姿を変えた。


長い金糸の髪は溶けた硬貨のように艶めき、瞳は純金の虹彩。


瞬きをするたび、かすかに金粉が散る。


白い肌には、細い金の亀裂のような紋様。


それは血の代わりに流れる、呪いの回路。


ドレスは黒。


だが光が当たると、無数の数字が浮かび上がる。

──金利、配当、相場、延滞。


彼女は金の魔力を操る。


触れた者の欲望を増幅し、小さな「足りない」を、巨大な『もっと』に育てる。


彼女は与える。


好奇心だけで買った、宝くじの当選。


期待していなかった、投資の成功。


それは、一夜の大儲け。


だがそれは、餌。


甘い成功体験という名の、毒。


◇◇◇

 

──男は平凡な会社員だった。


家族がいて、慎ましく暮らしていた。


だが心のどこかで思っていた。


(――もっとあれば──)


ある夜、アウレリアは彼の前に現れる。


「あなたには才能があるわ」


金色の瞳が揺れる。


彼女はささやく。


「ほんの少し、勇気を出すだけ」


株は急騰する。

暗号資産は倍になる。

周囲は驚き、男は称賛される。

妻は笑う。

子は誇らしげに父を見る。


アウレリアは微笑む。


「ほら、金はあなたを選んだ」

 

──やがて男は、守りを捨てる。


退職金を投入。

家を担保に借入。

信用をレバレッジに変える。


「次で最後だ」


その言葉を、彼は何度も使う。


アウレリアは止めない。


止める魔女ではない。


彼女は増幅する。


欲望を。


恐怖を。


焦りを。


イラストに触れるの?

そこから『金糸の欲望』(動画リンク)へと……堕ちてもいいのなら。※


挿絵(By みてみん)


【これは歌詞……それとも?】


《足りない、から始まった

紙幣の軽さが、男の背骨を曲げた


もっと、の声に応えてくれる者は多かった

数字が膨らみ、自尊心がそれに寄り添った


もっと、もっと!


その一言で、未来を前借りする


金は大きな音を立てて羽ばたき去る


だか、借金は静かだ

通帳の字と共に、男を削る


金が欲しいのではない。


金で、自分を買い戻したのだと…》



──暴落は、一瞬だった。


挿絵(By みてみん)


画面が赤に染まる。


数字が、金が、溶ける。


男の呼吸が荒くなる。


「まだ戻る……戻るはずだ……」


しかし、待つのは──破産。


家族は去る。


友人は距離を置く。


電話は鳴りやまない。


男は、いつしか夜の橋に立っていた。


アウレリアは、背後から抱きしめる。


冷たい腕。


「あなたは、金が欲しかったのではない」


耳元で囁く。


「──選ばれた自分が欲しかったのよ」

 

足元に、金貨が一枚転がる。


拾おうと身をかがめた瞬間、──足を滑らせる。

 

つめたい水音。

 

──翌朝、ニュースは短く報じる。


『投資失敗による自殺か』

 


──アウレリアは、高層ビルの屋上に立つ。


金の髪が、夜風に揺れる。


挿絵(By みてみん)


彼女の足元には、無数の魂の欠片。


それらは金色に光り、やがて彼女の髪へと溶けていく。


彼女は呟く。


「人は滅ぼされるのではない」


男のモノと思われる魂もまた、金糸に変わっていく。


「自分の欲望で、自ら堕ちるの」


遠くでまた、誰かの声が聴こえる。


(──金さえあれば──)


アウレリアは微笑む。


その瞳は、次の獲物を映していた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


部屋の窓の外には、都市の灯りが滲んでいた。


「……今月、ピンチだ……」


部屋の主(常盤元子)は、赤い縁の眼鏡の奥、眉をひそめた。


──スマートフォンの画面が、淡い青色に光る。


《異常な感情増幅波を検知》


「…なに、それ?」


《欲望指数、急上昇中。空間湾曲を確認》


次の瞬間。


窓の外の闇が、金色に裂けた。


ゆっくりと現れる。


溶けた硬貨のような長い髪。


純金の虹彩。


黒いドレスの表面を走る数字。


金糸の魔女──アウレリア・ヴァン・グリード。


「……きれい」


思わず、窓から見上げる元子は、そう呟いた。


ゆるやかに高度を下げ、魔女は微笑む。


「あなたが、あの青空の子?」


声は柔らかい。だが冷たい。


ヒビキの画面に警告が走る。


《対象:契約なき悪魔。

能力:欲望増幅型。

極めて高リスク》


「まあ、失礼ね」


アウレリアは窓枠に腰かける。


「私は与えるだけ。選ぶのは人間」


金の瞳が、元子を映す。


「あなたも欲しいでしょう?」


「なにを」


「成功」


部屋の壁に、数字が浮かぶ。


PV。

ランキング。

評価数。


「……」


元子の喉がわずかに鳴る。


「あなたには才能があるわ」


魔女の言葉。


一瞬、元子の心が熱くなる。


《警告:自己承認欲求の急上昇》


ヒビキが割り込む。


「うるさい」


「ほら」


アウレリアが指を鳴らす。


元子の作品ページが表示される。


いいね:10万

年間ランキング1位

出版社からの連絡あり


「ほんの少し、勇気を出すだけ」


「どうやって」


「読者が欲しいものを書けばいい」


甘い声。


「青空なんて曖昧なものじゃなくて。

もっと刺激的に。

もっと過激に。

もっと、もっと」


数字が膨らむ。

評価が増える。

称賛のコメントが流れる。

元子の胸が、ざわつく。


そのとき──


《質問します》


ヒビキの声は、いつもより低い。


《あなたは何が欲しいのですか》


アウレリアが笑う。


「決まっているでしょう。──選ばれることよ」


《元子。あなたは?》


沈黙。


金の光と、青の残像。


元子は、ゆっくり言う。


「……私は」


思い出す。


屋上。


青空。


まだ始まったばかりの物語。


「選ばれたいんじゃない」


アウレリアの瞳が細くなる。


「なら?」


「今の私は、投げたいだけ」


ヒビキが静かに光る。


《確認:創作動機=表現衝動》


「青空に放つの」


「その反応を見てみたい」


金色の数字が一瞬、揺らぐ。


アウレリアは微笑みを消さない。


「きれいごとね」


「そうかも」


元子は恐れずに窓に近づく。


「でも、増やしたくない」


「なにを?」


「“もっと”を」


元子の声に、ヒビキが続ける。


《対象は欲望を増幅します。

しかし、欲望が存在しなければ増幅できません》


アウレリアの髪がわずかに揺れる。


「あなたに人間としての欲望がない、とでも?」


「あるよ」


元子は頷く。


「でも、それを燃やすか、灯すかは、違う」


ヒビキの画面に、あのサイバー青空が映る。


光のグリッド。


層になった雲。


《これは増幅であり、接続です》


アウレリアの周囲の金粉が、青い光に触れて弾ける。


「……面白い子」


彼女は立ち上がる。


「覚えておきなさい。いつかあなたも言うわ」


 金の瞳が細くなる。


「“金さえあれば”と」


「言わない」


「──断言は呪いよ」


ひらり、と夜へ魔女が溶ける。


部屋に静寂が戻る。


元子は深く息を吐く。


「ヒビキ」


《はい》


「私、危なかった?」


《欲望指数、臨界手前》


「やっぱり」


《しかし、あなたは増幅を選ばなかった》


元子は机に座る。


「ねえ」


《はい》


「次のテーマが“金”だったらどうする?」


ヒビキが一瞬、沈黙する。


《興味深い対立構造です》


元子は笑う。


「じゃあ、書こう」


《対抗しますか》


「違う」


キーボードに指を置く。


「対話する」


画面に『作品作成・編集』が開く。


『新しい作品を作成』──タイトル未定。


夜はまだ長い。


青と金は、まだ決着していない。


◇◇◇


午前八時。


第二回目のお題は、──『お金』だった。


常磐元子(ときわ もとこ)は、画面に表示されたその二文字を、しばらく見つめていた。


「来たね」


《予測一致率、87%》


ビキが静かに光る。


《前回接触対象:金糸の魔女。関連性高》


「うん」


元子は、深く息を吸う。


「逃げない」


白い投稿画面を開く。


カーソルが点滅する。


(お金。──私にとっての、”お金”とは──)


元子は、テーマからイメージを浮かび上がらせる。


父の背中が浮かぶ。

通帳。

赤字。

ため息。


そして、あの言葉。


『金さえあれば』


元子は、打ち始める。


>私にとってお金は、数字だった。


 通帳と呼ばれる紙に並ぶ、冷たい記号。


 増えれば安心し、減れば不安になる。


 人の顔色まで変えてしまう、不思議な力を持つもの。


 子どものころ、私は思っていた。


 お金があれば、机にしがみついていた父は笑うのだと。


 お金があれば、母は歌をやめなくて済んだのだと。


 お金があれば、兄は家を出ることもなかったのでは、と。


 お金があれば、きっと何も壊れなかったのだと。<


ヒビキが静かに解析する。


《感情値、安定。増幅兆候なし》


「うん。今回はね」


元子は続ける。


>でも大人になるにつれて、私は知った。


 お金は魔法ではない。


 それは、約束の形だ。


 「ありがとう」と「ごめんね」と「またね」を、

 あとで交換するための、仮のしるし。


 なのに人は、ときどき忘れる。


 しるしを、目的にしてしまう。


 約束よりも、数字を抱きしめてしまう。<


──部屋の窓の外で、風が鳴る。


金の残像が、一瞬だけ揺れた気がした。


「……見てるね」


《観測感知:微弱な金属性反応》


元子は、少し笑う。


>私はいま、お金が欲しい。


 たこやきを買うために。


 本を買うために。


 明日の電車に乗るために。


 それは、きっと悪いことじゃない。


 でも、もしも。


 お金があることで、

 誰かより上に立てると思いはじめたら。


 お金がないことで、

 自分に価値がないと感じはじめたら。


 そのとき私は、

 数字に名前を奪われてしまうのだと思う。<


窓から金色の粒が、部屋に吹き込んでくる。


《欲望指数、上昇なし》


「大丈夫、続けて──書ける」


>お金は道具だ。


 包丁みたいなものだ。


 肉も切れるし、心も切れる。


 だから私は、

 お金を握るとき、

 自分の手が震えていないかを確かめたい。


 誰かを傷つけるためじゃなく、

 誰かと分け合うために使えているかを。<


ヒビキが、柔らかく光る。


《結論部、推奨》


元子は、最後の一文を打つ。


>だけど──世界に、お金がなくなったら困る。


 もしも世界から、

 「あなたには価値がある」という言葉がなくなったら、

 もっと困る。


 だから私は、

 お金を追いかけるよりも、

 誰かの空に、物語を放ちたい。


 青空の下で笑えるくらいの、

 ささやかな残高があれば、私は、それでいい。


  (了)           <



一息を放ち、指は、投稿ボタンを押す。


沈黙。


部屋には、蛍光灯の光。


ヒビキが言う。


《増幅を選びませんでした》


「うん、前とは違うかなって」


《後悔は》


「ない」


言い切った彼女の顔は、満足の光を灯していた。


◇◇◇


──そのとき。

窓の外のビルの屋上に、金色の髪が揺れる。


アウレリア。


彼女は微笑む。


「やはり──綺麗ごとね」


だがその瞳は、わずかに楽しそうだった。


「でも嫌いじゃないわ」


金粉が夜に溶ける。


「介入──」


『”一枚”』


◇◇◇


『一枚』


水音は、確かにした。


だが――男は死ななかった。


冷たい衝撃の直前、時間がわずかに歪んだ。


男は川岸に横たわっていた。


全身は濡れ、呼吸は荒い。


だが、生きている。


夜の橋の上には、誰もいない。


ただ、風だけが吹いている。

 

男は震える手を見下ろす。


握っている。


 何かを。

 

  開く。

 

   金貨が一枚。


月明かりを受けて、鈍く光る。

 

「……なんで」

 

それは本来、罠だった。


最後の選択を歪めるための重り。


拾わせ、かがませ、身を落とさせるための(イミテーション)


男は立ち上がる。


すべて失った。

 

だが今、その冷たい金貨は。


確かな、一枚として、男の掌にある。

 


──川向こうの高層ビル屋上。


金糸の髪が揺れる。

 

アウレリアは微笑む。


「さあ。どう育つかしら」


興味深そうに。


◇◇◇


《欲望指数ゆるやかに低下。地点観察中》


「助けたの?」

 

元子はヒビキに問いかける。


《定義修正:救済ではありません》


ヒビキが静かに言う。


《補足:最小単位への還元》


「……そうか、ゼロからは増幅できないから、”選択”を戻しただけなのね?」

 

元子は、窓を開けて、夜空を見上げる。


「──なら、ゼロからでも、人は夢を見られる」

 

《読者、増加中》


画面の数字が、1になる。


元子は、それを見つめる。


たったひとつ。


でも、確かに誰かが。


「ヒビキ」


《はい》


「これが、私の“お金”かもね」


《新定義:信頼残高》


元子は笑う。


「どう生きるか、だよ」


──お金は、ただの道具である。


呪いでも、祝福でもない。


それをどう意味づけるか。


それが人間だ。


──夜が明ける。


窓の外に、金色ではない、青い光が、街を照らし始めていた。


第三回のテーマは、まだ知らない。


でも。


もう、怖くなかった。

4,901文字ฅ(º ロ º ฅ)


ちなみに次のお題をあたなは既に本文中に書いている!


『アウトリア』は誤字でしょうか? 誤字報告くだされば適用いたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>笹門 優様へ ご感想ありがとうございます!(≧▽≦) おっしゃる通り、普段は意識していないけど、お金はそれ自体に絶対的な価値があるわけではなく、「信用」のかたちですよね。 だからこそ、アウレリア…
人間の欲望に直結する魔女さんだよな~。 しかしお金というモノは信用経済の象徴だ。 何せお金自体に価値はなく、あくまで「書いてある数字分の買い物が出来るよ?」というクレジット、つまり信用でしかない。 こ…
>Aju様へ 過分なお褒めの言葉と、プレッシャーをありがとうございます(笑)(*´艸`*)<なんとか2回続けて来れたので、テーマが不安でありますが、逆にマンネリにならないよう頑張ります! >お金は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ