六野みさおさまのお金
セカシム市はエクート王国でも有数の大都市であり、周辺の田舎に住む人からは人と富が集まる夢の街といわれている。とはいえ実際には、都会ならではの不条理や歪みは決して無視できない。
セカシム市中心部の繁華街であるフォーカ通りも田舎の人々には若者が集まる都会の象徴と思われているが、その実態は居場所をなくした不幸な若者たちが救いを求めてややアウトローな行動にのめり込むディストピアなのである。大きな悲しみとわずかな狂気が共存するフォーカで、また一人が飲み込まれようとしていた。
「お前、この路地に入ったからには、どうなるのかわかっているな?」
フォーカの大通りからわずかに外れた路地で、学生なら中等部に上がっているかという歳の少年が、二人組の不良に絡まれていた。
「さ、さあ……」
少年は首を縮めつつとぼけた。少年には行くあてがない。少年の父は少年が物心のつかないうちに失踪し、残った母も恐怖と暴力で少年を支配しようとする悪魔でしかない。本来ならば少年が通うことが義務付けられている学校の中等部は少年の唯一の居場所となるはずであったが、もともと貧相な服装であるうえ異国の血を受け継ぐ少年は、学校でも迫害の対象となっていた。それでも少年はなんとか地獄のような生活を続けていたが、数時間前少年が日雇いで稼いだわずかばかりの現金を麻薬に狂った母に強奪されるに至ってついに家を飛び出し、追い詰められた若者を救済すると伝わるフォーカ通りに吸い込まれたのであった。しかしフォーカ通りの情報を断片的にしか知らない少年はすぐに危険な曲者たちが支配する路地裏に迷い込み、そしてこの状況となる。
「この路地を通る奴はな、我ら超爆裂組に挨拶料を払わねばならぬのよ。さて、まずは有り金を出してもらおうか」
不良たちは少年の服をまさぐり、すぐに少年がポケットに忍ばせていた、母の手を逃れたさらにわずかな現金を取り出した。
「なんだ、これだけしかないのかよ、これではこの道の通行料には足りん……他に金目の物はないのか?」
不良の一人は少年が留めている髪飾りに手を伸ばした。
「これはどうだ? 古びてはいるが、なかなか粋な模様に見えるが……」
「やめろ!」
少年は突然髪飾りを手に取ろうとした不良の腕を掴んだ。
「それは父の形見だ……それだけは見逃してくれ!」
「ふうん……」
急に必死な表情になった少年に、不良は邪悪な笑みを浮かべた。
「そうか、どうしても渡せないか……いいだろう、ならば『体』で払ってもらうしかないな?」
不良たちは穿き古してよれよれになった少年のズボンに手を掛けた。少年はこう見えても童貞である。いくら貧民であろうとも、年頃の少年としての尊厳は守らねばならぬ。少年はとっさに叫ぼうとしたが抵抗虚しく口を塞がれ、ズボンに続いて下着に手が掛けられたその瞬間、パァンという乾いた音が連続して轟き、不良たちは数メートルにわたって吹っ飛ばされた。
「…………!」
状況を理解できない少年の前に、全身が真っ赤の男が降り立った。男は髪まで真っ赤であるが、やや不自然である。完成度の低い染色魔法がかかっているのだろうと少年は考えた。
「な、なんだ、お前は!」
『超爆裂組』はわずかにこの路地の一部分を縄張りにするのみの弱小不良グループだが、それでもそれなりに統制された集団の組員である、不良たちはすぐに態勢を立て直して新手を詰問した。しかし謎の真っ赤の男は全く動じる様子がない。
「私は正義の味方、ルカジュ青年隊の隊長サットマールだ! 街の平和を乱し無垢な少年を辱めようとするお前たちの行為、許してはおけぬ! 覚悟せよ!」
サットマールと名乗った男はさらに不良たちを攻撃した。今度は奇襲ではないため不良たちもしっかり応戦したが、サットマールの強力な攻撃魔法の前に不良たちの表情はどんどん苦しくなっていき、すぐに「ちっ、逃げるぞ!」とリーダー格の不良が叫ぶと不良たちは走って逃げていった。
サットマールは振り返って少年に笑いかけた。
「怪我はなかったか? たまたまここを通りかかったんだ。超爆裂組の乱暴は、もともとどうにかしないといけないと思っていたのだけどね」
少年はまだ自分が助かったことが信じられなかったが、とにかく突然の救世主に心から頭を下げた。
「本当にありがとうございました。この髪飾りは僕の生きる意味そのものなのです。……あの、サットマールさん、僕は——」
だが少年が詳しく自己紹介をする前に、サットマールはすでに姿を消してしまっていた。少年はしばらく呆然とそこに立ち尽くしていた。サットマールが最近セカシム市周辺の一帯で話題の『正義の味方』であると少年が知るのは、そのしばらく後のことである。
こんな正義の味方が現実にもいたらなぁ…(*´ω`*)
※本文中に『お金』というワードを必ずお入れください。『有り金』や『現金』ではダメです。初回だけは見逃しますが、次からはお気をつけをm(_ _)m




