御田文人さまのお金
智樹は入社2週間で仕事を辞めた。
目立った職歴も無い27歳が正社員採用されたので、勿体ないと周りから言われるが、合わないものはしょうがない。
仕事内容は新規オープンするカレーショップのオープニングスタッフ。
近頃勢いのあるチェーン店なので智樹も良く知っていた。
「チェーンだから未経験でも教育制度がしっかりしているし、ゆくゆくは店長になったり、のれん分けという夢もある。また、ウチはフランチャイズなので直営店よりも組織が小さい。つまり、がんばれば昇格・昇級も早いですよ!」
面接で社長はそう語った。
もともと別事業で成功した人で、事業拡大の一環としてフランチャイズに加盟したと。
「私は、ここのカレーのファンでね。そして、何より企業理念に賛同しました。だから、この事業でやりたいことはお金じゃないんですよ。地元の人たちと、働く人たちに貢献したいんです」
と、熱く夢を語る人だった。
その語りは、入社し、開業予定の実店舗でオープン前研修に入ると更に熱を帯びる。
「社員は家族だと思っています。みなさんには、やりがいを持って活き活き働いてほしいんだ!」
(お金じゃない、社員は家族、やりがいか・・・)
ちょっと古いなと智樹は思った。というか、今時は地雷扱いされる言葉も色々含まれている。
まぁ、悪い人じゃないし、適当に相手すればいいかと最初は思っていた。
一方で、研修を担当するフランチャイズ本部から来たSVもまた、違った意味で古い人だった。
年齢こそは30代半ばのようだが、やはり智樹とは世代が違うと感じた。
「仕事である以上、しっかり稼ぐことは大事です。そこから逃げてはいけません」
と、現実論を語る人だった。
そこはいい。ただし、なんか回りくどいし鼻に着く。
例えば研修で、無駄に考えさせるグループワークが多かった。
「ビーフカレー並1杯900円の値段の内訳を、お客様目線で考えましょう」
なんて課題に対して、スタッフ達が話し合うようなワークだ。
・気分の良い挨拶・接客:100円
・快適な時間と空間:100円
・美味しい:250円
・お腹が満たされる:200円
・栄養摂取:150円
多分にディスカッション中にSVに誘導された答えなのだが、出来た答えを持って彼は言う。
「いいですね!みなさんが『気分の良い挨拶・接客』が100円と決まました。だから挨拶はしっかりやりましょう!これが出来て無ければ、お客様は100円損するんです!自分たちで決めたことなので、しっかり守りましょうね!」
一事が万事そんな感じだ。
(単に「挨拶しっかりやれ」って言ってくれた方が早いのにな・・・)
と、智樹は思っていた。
なんかSVは若者を下に見ている。『今時の若者はお金に対する考え方が甘い。仕事はそれじゃ駄目だ。その間違いを懇切丁寧に教えてやっている』みたいな思想が透けて見えて気分が悪かった。
最悪なのは、そのSVと社長が仲が悪いことだった。
表立っては互いに尊重し合い、『色んな考えがあって良い』と建設的な議論をしている素振りをするが、裏で互いに否定し合う。
「SVはああ言うが、カネカネばかり言うとモチベーション下がるよな。ウチの店ではそうじゃなくていいぞ」
と社長。
「社長はああ言うが理想論だからな。現実のビジネスはそんなに甘くない。君達はちゃんと売上に拘った方がいい」
とSV。
(いや、ホントにどっちでもいいんだよ!)
そういうことがある度に智樹は内心毒づいた。
会社に求職に来ている時点で金稼ぎに来てるんだし、会社の言うことを聞くつもりで来ている。
しかし、直属の上長二人の言うことの不一致は勘弁して欲しい。
それこそ、仕事なんだから経営側の金銭感覚ぐらいは統一させとけと思う。
そして、智樹は退職を決意した。
しかし、この持論が煩い二人と面談し、それぞれから引き留められるであろうことを考えると気が滅入った。
正直、ああいう人達と会話するのは得意じゃない。
その労力を考え、彼は迷わず退職代行に連絡をする。
「金は自分の出来ないことを補完する道具である」
智樹はそういう金銭感覚だった。
―了―
カレーは自分で作るものである٩( 'ω' )و




