大浜 英彰さまのお金
『台湾人の彼女が五円玉を集め始めた理由』
幸いにしてと言うべきか、僕こと菊池八千夫には同じ大学のゼミで知り合った彼女がいる。
いや、彼女というよりは婚約者と言った方がより正確だろう。
何しろ僕と馬 秋桜さんの二人は、大学を卒業したら彼女の故郷である台湾に行って夫婦になるんだから。
そして秋桜さんも僕も卒論と就職の目処は立ったし、僕達二人の前途は洋々という訳なんだ。
そんな具合に他の同級生達より早目に将来を決めた事で屈託なく残りの大学生活を楽しめるようになった頃から、秋桜さんの様子に変化が現れた。
と言っても、別に僕達二人の仲を破綻させるような深刻な物ではなかったんだけど。
「ねえ、菊池君。さっき生協のコンビニで替え芯を買った時のお釣りに五円玉が出たでしょ?私の一円玉五枚と替えてくれないかしら?」
その変化というのは、こんな具合に矢鱈と五円玉に執着するようになった事なんだよ。
「相変わらず目敏いね、秋桜さんも。そう言うと思ったから、僕の方でも釣り銭の五円玉を取り置きするようにしといたよ。今はさっきの釣り銭も入れて五枚しかないけど…」
「ありがとう、菊池君!これも『御縁がある』というものよ。」
喜色満面とは、正しく今のような顔の事なんだろうな。
そうして交換した五円玉を、秋桜さんは大事そうに小銭入れにしまったんだ。
「前から不思議に思っていたんだけど、どうして五円玉を集めるようになったの?」
「今はまだ…言えないかな?そのうち私の方から言うよ。」
聞いてもこんな風にはぐらかされるばかり。
だから「ガールフレンドが変わった趣味を始めた」という具合に深く考えず、いつしか五円玉が貯まれば両替してあげるのが僕の習慣になっていったんだ。
そんな秋桜さんの真意が明らかになったのは、そろそろ冬休みに入ろうかという十二月下旬の事だった。
「見て、菊池君!やっと出来たわ!」
誇らしげに差し出してきたスマホの画像を一瞥した次の瞬間、僕は秋桜さんが五円玉を集めていた理由が一発で分かったんだ。
セルフタイマーで撮影したであろう、下宿での自撮り写真。
得意満面の笑みを浮かべる秋桜さんの傍らには、赤い紐で亀の形に組み上げられた五円玉が鎮座していたんだ。
熊本の親戚の家で、これと似たようなのを見た事がある。
確か「五円玉手芸」って言うんだっけ。
「来年の今頃は私も菊池君も台湾にいる訳だし、今のうちに日本での思い出になる記念品を作ろうと思ったの。その点、五円玉なら日本のお金だからピッタリと考えてね。」
そして手っ取り早く銀行で両替しなかったのは、手数料の惜しさという問題だけじゃなかったそうだ。
「普段のお買い物とかで出たお釣りの方が、日本での学生生活の集大成っぽくて良いじゃない。台湾での私達の新生活を、日本での学生生活で集まった五円玉の亀が見守ってくれるのよ。」
そこまで抜け目なく考えていたなんて、秋桜さんの計画性の高さには恐れ入るよ。
「だけど亀を作ってもまだ五円玉が残りそうなのよね。だから第二弾は、打ち出の小槌の祝額でも…」
「えっ!また作るのかい、秋桜さん。」
どうやら僕は、まだまだ五円玉集めに協力しないといけないようだね。
日本にいる間に彼女が五円玉手芸を幾つ作るのか、それはそれで楽しみだよ。
台湾に穴あき硬貨ないもんな(^^)




