菱屋千里さまのトリプルお題
あたしは退屈な理科の時間、ノートの隅に想像の翼を羽ばたかせていた。
漆黒の翼で飛翔せし者
忌み嫌われることなど ものともせず
歌詞だかポエムだかよくわからない言葉が並ぶ。もう中三で受験だというのに、中二病が治らない。
モップを適当に動かして掃除当番をすませ、帰宅部のあたしはさっさと家に帰る。
家には誰もいない。ラップがかけられた、ねぎ塩焼きうどんが食卓にある。レンチンして食べておけということだ。
母は今日もいなかった。
今年になってなんだか機嫌がいいと思っていたら、新しいお父さん欲しくない?なんて言いだした。
――別にいらない。
でも口から出たのは、いいんじゃない、という声だった。
寮のある、ちょっと遠い学校を第一志望にした。系列の大学に進学できるし、制服がかわいいから、と言ったらすんなりOKが出た。学費にはお父さんの残したお金を使うのか、「お父さん」に出してもらうことになるのか。母は何も言わなかったし、あたしも訊かなかった。
電子レンジが鳴る。ラップを外すと、ねぎの焦げた匂いが広がった。テレビもつけない。ひとりで食べるうどんは味がよくわからなかった。作ってくれたことに感謝すべきだとわかってる。でも浮かんできたのは、ひとりでうどんを食べている自分が可哀想、という気持ちだった。
母は今日もデートなんだろう。
皿を洗う。蛇口から出る水の音。スポンジで皿をこする。
――あたしは自己愛のお化けになるしかない。
手を拭いて部屋に戻る。ノートを開く。
漆黒の翼を喪失せし者
忌み嫌われることさえ もうできない
これは綺麗




