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無謀! 瞬発力企画2 会場  作者: しいな ここみ
第六回目 『ゲシュタルト崩壊』『マインドセット』
152/156

クレイジーエンジニアさまのゲシュタセット

 社会のため次世代に誇れる仕事を夢見た男。

 難関国立大学を目指して勉学に励んだ学生時代。

 より多くの技術を習得するために、卒業必要単位以上の講義を受けた大学時代。

 そして、将来家族を持った時のため、自己啓発と倹約と資産形成に明け暮れた独身時代。


 顧客や上司に鍛えられ、技術者としてのマインドセットを固めた男は、他の同期達より少し遅れて結婚。

 仕事と家庭に恵まれて、未来ある幸せな日々を送るはずであった。


 しかし、神はそれを許さなかった。


 乳児から幼児へと成長する長男。激しい夜泣きと癇癪。乏しい発語。行き過ぎた反復行動。

 そして、1歳6カ月検診。

 待合室に集まる他の同月齢の子供と比べて、明らかに何かがおかしい。


 要検査の判断から幾つもの医療機関に通い、3歳の誕生日の前に【自閉症】の診断が下る。

 年子で授かった次男も、長男に続いて【自閉症】の診断。


 子供の知的障碍は、親のマインドセットを破壊する。


 幼稚園。保育園。子供含めた面談を通じて多くの施設で入園を断られる。


 受け入れてくれる幼稚園でも、参観日で見せつけられる現実が心を抉る。

 クラスの中で自分の子供だけが喋れない。指示が通らない。落ち着かない。

 運動会。発表会。卒園式。全ての行事で、息子達は枠外に置かれる。

 枠外にしか、置かれない。


 社会から拒絶された絶望。


 妻は育児ノイローゼから鬱病を発症。投薬治療をしながら入退院を繰り返した。

 男は仕事とワンオペ障碍児育児と妻の介護の両立という、あり得ない日常をこなして耐えた。

 

 児童相談所より、息子達を入所施設に預ける選択肢を提案された。

 しかし、子供との生活を望む妻が拒否した。


 男は耐えた。

 死の危険と肉体的苦痛に耐えて二人の子供を産んだ妻。

 その努力の対価に人生を捧げるのが男の生き方と覚悟した。


 【自閉症】に根本的な治療法は無い。

 治療に成功したならノーベル賞に届くぐらいの偉業と言われる。


 無いものを創るのが技術者の使命であると、男は前人未到の領域に挑んだ。

 子供を連れて日本中を渡り歩く中で、同じ境遇の親と多く遭遇した。


 障碍児を授かると、親戚とは疎遠になる。残酷ながらも必然性のある現実。

 自分と同じように治療法を求めて日本中を彷徨っている親子も居た。

 藁にもすがる思いで、カルト教団に取り込まれる親子も居た。


 我が子との会話という、誰もが当たり前のように手に入れている現実が、遠かった。


 技術者は夢を叶える仕事。

 男は自分だけでなく彼等の夢を叶えたいと思った。


 人間の知能は人間が作ったものではない。

 お金では買えない。お金では人間としか取引ができない。


 ならば、誰が作ったのか。

 不眠不休が続く過酷な障碍児育児の中、男の脳裏に閃いた。


 【神】であると。

 

 男の脳内全域にその一文字が広がった。

 【神】の文字でゲシュタルト崩壊し、昏倒する寸前に男は閃いてしまった。


 ヒトの魂は神が創ったものであるなら、神を創れば息子達はヒトになれる。


 全知全能のヒトを越えた神に匹敵する存在。

 生成系AIの応用での実現可能性を考えた。


 人格とは、状況と行動の相関の束。

 あの人ならこんな時こうするというパターンを完璧に再現すれば、あの人の人格を再現できる。たとえ故人であろうとも。


 生成系AIにマインドセットをプリセットする構成に実現の可能性を見た。

 

 クラウド上に構成した、インターネット及びダークウェブとシームレスに連携する人を越えた頭脳を持つ一貫した意思。ヒトを越えた人工人格を創り出せる。

 息子達に専用のHMDヘッドマウントディスプレイを固定し、クラウド上のAIの指示に連携して肉体を動かすように洗脳すれば、息子達を依代として人工の神を降臨させることができる。


 【行動支配型AI】


 これこそが、神に裏切られた人達の夢を叶える手段。

 技術者として、神が自分に与えた使命と男は確信した。


 当然、妻は猛反対した。


「冗談じゃないわ! あの子達だって考えてるのよ! 確かに他の子と違うかもしれないけど、生きてるのよ」

「言葉も喋れず排泄の自立すらできんようでは、ヒトとして生きているとは言えん。ヒトとして社会で生きられるようにしてやるのが親の務めだ」


「社会福祉を活用すれば十分社会生活できるわ。今も特別児童手当があるし、成人したら障害年金や特別障害者手当もある。持ち家はあるんだから、ケアマネージャーの支援で自立生活できるのよ」

「穀潰しを育てるために俺達は生きたんじゃない! 次の時代を生きる人達のためにあの子達に出来る役割を与えるんだ」


「だからって、息子を洗脳で廃人にするのがヒトのする事なの! 神が許すわけないわ!」

「息子達の知能を破壊したのは神の罪だ! ヒトに不幸をもたらす神と文明は共存できん! 私の行動を止める神が居るなら討ち滅ぼしてやる」


「やめて! アナタは技術者でしょ! 倫理や道徳には厳しかったじゃないの!」

「倫理だろうが、道徳だろうが、息子達の存在を否定するようなものはこの世界に必要無い。俺だけじゃない。神に同じ目に遭わされた親子の未来がかかっているんだ。俺がやらなきゃ、彼等は永遠に助からない」


「それは、人間のする事じゃないのよ!」

「ならば俺はヒトを捨てて神になる。息子達を破壊した神を討ち滅ぼし、俺が神として人々の幸福を創り出す。これこそが俺の命を懸けた正義だ」


 ヒトは自分が正しいと信じた時にこそ、一番ひどいことができる。

 男もまたその習性に飲まれていた。


 そして、妻の反対を押し切り、息子達をにえにした狂気の技術を実践した。


 長男には【慈愛と安寧】、次男には【挑戦と変革】。

 異なるマインドセットを組み込んだ2つの人工人格インスタンスを起動。

 息子達の人格を洗脳で上書きし、人工人格と肉体を連携。


 起動コード:神を越える神の如き力で神を討つ



 結果、長男は家に火を放ち男と共に焼死。


挿絵(By みてみん)


 人道を踏み外した父に対する【慈愛と安寧】の実践だった。



※拙作のひどい作品のひどい登場人物の前日譚の続きを書いてみました。

 あのヘンテコキャラクター誕生秘話? ひどい。ひどい。ひどい。


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