清坂 正吾さまのゲシュタセット
うちの部署の高橋くんは、いつもテキトーだ。
新入社員の遠藤くん。
彼の指導係が、高橋くんである。
ある時、遠藤くんが尋ねた。
「先輩、さっき部長が言っていた“マインドセット”って、どういう意味ですか?」
高橋くんが答える。
「え、知らないの? “マインドセット”って、あそこの食堂のランチメニューだよ」
(ち、違う……。“マインドセット”は心のあり方、考え方の前提になるものよ! ランチメニューって何よ!)
私は心の中でツッコんだ。
「ランチメニュー……?」
(さすがに遠藤くんも、違うって分かるよね……? 高橋くんのテキトーさに気付いたよね……?)
「ああ、Aセット、Bセットとかあるだろ? その一つだよ」
「へぇ~、さすがですね、先輩。何でも知ってるんですね」
(え、納得するの……? 遠藤くん、素直すぎない?)
「へへ……、だろ? でも、あそこの食堂はカレーがうまいんだぜ」
「そうなんですね。今度行ってみます。……あれ? でも部長が『プロジェクトの成功には、チーム全員のマインドセットが必要だ』って言ってましたよ?」
「ああ、それはあれだよ。“みんなでランチ食べて士気を上げよう”って意味だよ」
「へぇ~、そっかぁ。楽しみですね、みんなでランチ」
「ああ。でも俺はカレーを頼むけどな!」
(……大丈夫か、この部署)
◇
またある時。
「先輩、さっき山田さんが言ってたんですけど、“ゲシュタルト崩壊”って何ですか?」
(“ゲシュタルト崩壊”……。山田さん、日常でそんな言葉を使うの……?)
「“ゲシュタルト崩壊”……なんだ、知らないの?」
「はい……すみません。勉強不足で」
「“ゲシュタルト”っていうのは、あそこのケーキ屋のタルトだよ。“ゲシュタルト崩壊”っていうのは、“ゲシュタルトが崩れたから安くしますよ”って意味だよ」
(違う……! “ゲシュタルト崩壊”は、それまで普通に認識できていたものが、突然分からなくなる現象のことよ!)
「へぇ~。味は変わらないから、見た目を気にしなければお得ですね」
(遠藤くん……騙されやすいんじゃない……?)
「でも山田さん、『ゲシュタルト崩壊で“機会”の“機”の漢字が分からなくなった』って言ってましたよ」
「ああ、それはあれだよ。崩壊した“ゲシュタルト”を食べすぎて、漢字が分からなくなったんだろう」
「そっか。面白い人ですね、山田さん」
「だろ? でも俺はカレーが好きだけどな!」
(結局それか……。さすが、“セカンドボイス高橋”……)
今日も、うちの部署は平和だった。
うまいな……
ランチセットなだけに




