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無謀! 瞬発力企画2 会場  作者: しいな ここみ
第五回目 『ひとつのおおきなかたまりといくつものちいさなかけら』
126/180

猫舌威さまのひとつのおおきな(略)

『木村ソウタを調べたわ、ムジカ』

「ありがとカルミナ。どうだった?」


 このところ相次ぐ、音楽家の失踪事件。

 コンサートホールやライブハウスでの失踪傾向があり、現場のひとつに向かう途中で俺は、オーボエ奏者の青年、木村ソウタに出会った。


『アマチュアのオーボエ奏者で、学生時代から才能を注目されてたけど、プロの道には進まなかったみたい。多分、ここぞという時に入賞を逃してるせいね』

「本番に弱い、みたいな?」

『うん。でも最近は、市民楽団とかの小さな演奏会に参加するようになって、アマチュアの中では注目されてるわ』

「そうか……」


 野外コンサートというどこからでもターゲットを狙える環境に、一抹の不安を覚えて、『Harmonia』システムオペレーター・カルミナにソウタの身辺調査を頼んでいた。

 彼女はAIを組み込んだオペレーター・アンドロイド。冷徹に的確に情報を選ぶ。


『でも、彼が狙われることはないでしょ? 奴らが狙うのは、もっと影響力のある……』

「プロだけのものじゃないだろ、影響力って。今、俺の前にいる観客は皆、ソウタの音に釘付けだよ」

『え?』

「もちろん、俺もね」


 ステージでのソウタは、オーボエの音色と上昇気味の心拍数が、綺麗に調和していた。

 残響……人の鼓動と心が鳴らす『音』を拾える俺の聴覚は、彼の緊張と楽しさを聴き取った。

 俺への感謝を、と言ってたけど。

 これはソウタの心の音だ。

 心からオーボエ演奏を楽しんでいる鼓動。




 だから……目の前にいるオーボエ型の怪人の鼓動が、ソウタの鼓動が乱れたものであると、すぐに判別できた。

 ソウタが泣いている、と。


「そこまでだ!」


 消え入りそうなソウタの鼓動……和音に、リズムも調和もない音が混じる。

 不協和音、怪人の鼓動だ。


「ふん、Harmoniaの坊やね。残念、もっと怪人を生み出したかったのに」

「待てっ!」


 不敵に笑った女幹部バスクラが、ソウタだった怪人を巨大化させて、妖艶に手を振る。


「バイバイ。生きてたらまた逢いましょ」

「ボエエエエエ!!」


 怪人はもうソウタの人格などない。図体どおりのでかい奇声をあげて、それが更なる地割れを生む。

 追いすがろうとするが、俺の脚は地割れに阻まれた。

 奇声の音量に皆が耳を塞ぐが、まともに声を浴びてしまった人が、ゾンビのように俺に群がる。

 これがソウタの影響力だとしたら、皮肉なものだ。ソウタの演奏に拍手した人たちが皆、操られてる。 

 大もとを、叩くしかない。


『ムジカ、心拍数が乱れてるわよ。集中して』

「分かってる。……楽譜(スコア)をくれ」

『はい。楽譜、転送』


 俺の左手に、黒いボールが現れる。

 幾千の音符のかたまりだ。

 

「ごめんなソウタ。大事な楽器の弱点、狙わせてもらうよ」


 黒いひとつの大きなかたまりが、いくつもの小さなかけらに砕ける。

 

「これは、魔法杖(タクト)か」


 楽譜ごとに決まっている武器……今回はヒイラギの魔法杖が俺の手に発現する。

 杖を構えると、俺の周囲で風が渦巻く。五線譜の竜巻だ。

 音符のかけらをそこに散りばめてゆく。 

 はるか頭上の巨大な嘴、リードに狙いを定める。

 ゆっくりとした静かな前奏、そして一気に加速するメインテーマ。


『Majestya』

 

 杖から、超高速の音符の散弾銃が放たれた。

 怪人の嘴は蜂の巣さながらに風穴が空き、


「ボエエエエエ……!!」


 悲痛な悲鳴が俺に降り注ぐ。


(ごめん……!!)


 ぎり、と歯を噛み締める。カルミナが耳元で心拍数がどうのと言ってるけど。

 相棒を壊されたソウタの気持ちを思えば……

 動揺くらいさせろって!


 巨大化した怪人を倒すには、威力に手を抜くことはできない。

 俺は最大出力で、ソウタを両断した。





 謝ってすむことじゃない。

 でも、仕方なかった、で俺は済ませようとしている。

 病院のベッドの上。怪人の皮を剥がされたソウタは、意識障害であれから3日間眠っている。


 カルミナのサーチで、失踪していた音楽家も場所を特定し、被害が出る前に対処した。大切にしている楽器を破壊する、という対処だ。


「………」


 ソウタのベッド脇には、壊れたオーボエ。

 修理できるレベルでないほど破壊されている。

 こうしなければ、ソウタを助けられなかった。俺はやるべきことをしたはずだ。

 けれど……


「……合わせる顔、ないよな」


 ソウタが目覚めるのを見届けたいけど。目覚める前に去った方が、ソウタの絶望した顔を見ずに済む。

 せっかく感謝してくれたのに、ごめんな。



 たん、と病院の階段を降りる。

 あんな騒ぎがあったとは思えないほど、今日も青空だ。

 見上げればソウタの病室の窓があるけど、振り返るつもりはない。

 ふう、と何度目になるか分からない溜め息をはいて、停めてあるバイクに向かう、俺の頭上に。


「ムジカ!」


 驚いたような、焦ったような声が聴こえて。

 その心の音は、とても緊張していて。

 何にまだ緊張してるんだ? と、思わず見上げてしまった俺に、


「僕まだ、ムジカの感想聞いてない!」


 まだまだ闘う気の、戦士の笑顔が輝いていた。





――――――――――


すみません。続編でした!


ソウタあぁぁぁ!。・゜・(ノ∀`)・゜・。の、オーボエえぇぇぇ!


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― 新着の感想 ―
Ajuさま、笹門優さま、主催者さま、感想ありがとうございます。 オーボエの値段……高いんですか?(ぐぐってもいない) 金管より木管の方が高いのはなんとなく覚えてる程度です。 いとこがフルート中古で買っ…
強い子だ、ソウタ。 でも壊れたオーボエ、いいヤツなんだろうなあ。 何十万円?
当然これはくると思って待ってました。 何にしてもソウタの命だけは助かってよかった。オーボエは高いけど。。。
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