歌池 聡さまのひとつのおおきな(略)
『日本一のおせんべい(ゆんちゃんのお話シリーズ)』
パパはしゅっちょうに行くと、かならずおみやげのおかしを買ってきます。
いろいろな地方のめずらしいおかしが食べられるので、その日はゆんちゃんたちにとってのお楽しみなのです。
でも、ときどきウケねらいで変わったものを買ってきたりもするので、こまっちゃうんですよね。
今日、パパが買ってきたのは「かたやき」。
「伊賀のかた焼きかぁ。何か聞き覚えあるけど、どこで聞いたんだったかな」
かずや兄ちゃんが何かを思い出そうとしてますが、ゆんちゃんはもう待ちきれません。いそいでつつみ紙をとってはこを開けると──中にはゆんちゃんの手のひらぐらいのおせんべいと、そしてなぜかちっちゃな木のトンカチが入っています。
「あれ? お兄ちゃん、何かヘンなものが入ってるよ?」
「どれどれ──あっ、そうか、あれか!」
そのトンカチを見て、かずや兄ちゃんはようやく答えにたどりついたようです。
「ゆん。これは日本一硬いせんべいなんだ。手では割れないので、この木づちで割って食べるらしいぞ」
「え、そんなにかたいの?」
ゆんちゃん、2枚のおせんべいを手にとってかるくぶつけてみると、コンコンとまるで木のような音がします。これはとってもかたそうです。
そこに、夕ごはんのかたづけをすませたママがやってきました。
「あら、今日のおみやげは何だったの?」
「ママ、残念だけど今日は『受け狙いの日』だったよ。日本一硬いせんべいだってさ」
かずや兄ちゃんがためいきをつきながら言うと、ママの顔がオニに変わりました。
「何ですって! ゆんちゃんたちの歯が折れたりしたらどうするのよ!」
ママが怒るのもわかります。これにそのままかじりついたら、ぜったいはがおれちゃいそうだし。
でも、かずや兄ちゃんがはこに入っていた『せつめいしょ』を読んで、言ってくれました。
「あー、ちょっと待って。ここに食べ方も書いてあるし、これなら大丈夫だと思う。まずは食べてみようよ」
かずや兄ちゃんがトンカチでおせんべいをたたき始めます。何回かたたくとおせんべいがわれて、ひとつのおおきなかたまりといくつものちいさなかけらになりました。
「ほら、ゆん」
そう言って、ちいさなかけらをわたしてくれますが──。
「あっ、お兄ちゃんズルい! 自分だけ大きい方とるんでしょ!」
「違うよ、こっちも後で割るんだよ。これって、口の中で少しずつ溶かすように食べるんだってさ。
こんな大きいの、口には入らないだろ?」
たしかにそれもそうですね。
かずや兄ちゃんもママも小さい方のかけらを手にとりました。
「いい、ふたりとも、絶対に噛んじゃだめよ。永久歯が折れたらすっごくお金かかるんだからね?」
──やっぱり、ママが心配してるのはお金のことだったんですね。
そしてゆんちゃんたちは、『せーの!』でおせんべいのかけらを口にいれたのです。
しばらくしておせんべいが柔らかくなると、口の中に少しずつ甘い味が広がってきました。でも──。
「何だか、ずいぶん素朴な味ね」
「ゆんちゃん、ちょっと甘さがものたりないなー」
「うーん、これけっこう時間かかりそうだし──あまり続けて食べたい感じじゃないかな」
おいしくないわけじゃないけど、ちょっとゆんちゃんたちの好みとはズレてたようです。
「でもこれ、なんでこんなにかたくしちゃったのかなー。すっごく食べにくいし」
ゆんちゃんが首をかしげると、かずや兄ちゃんが『せつめいしょ』を見せてくれました。
「元々は忍者の携行食──持ち歩いていざという時に食べるものだったらしいよ。
なるべく日持ちするように、硬く焼いたんじゃないかな」
「ふーん。ニンジャってたいへんだったんだねぇ」
ゆんちゃんがそう言うと、ママがすっと立ち上がりました。
「さあ、ふたりとも。忍者気分を味わったところで、そろそろ歯を磨いて寝る用意をしなさい」
「はーい」
ゆんちゃんが元気よくおへんじをすると、なぜかかずや兄ちゃんがニヤリと笑いました。
「ねえ、ママ。この残った大きなかたまり、パパにも食べてもらおうよ。
もうすぐお風呂から出てくるし、風呂上がりのビールの前に、さ」
「──それもいいわね。パパにも忍者の苦労を味わってもらおうかしら」
ゆんちゃんにはよくわからないけど、ふたりがこんなかんじで話してる時は、だいたいあとでパパがこまったことになるんです。
──パパ。ゆんちゃんは先にねちゃうけど、ニンジャになったつもりでがんばってね。
伊賀はしょっちゅう行きますが、そんな忍者めしがあるとは知りませんでしたm(_ _)m
ゆんちゃん、おつかれさま(*^^*)




