斉藤寅蔵さまのひとつのおおきな(略)
《お砂糖が落ちてきた日》
「うわあああ!急がないと叱られるー!」
砂糖菓子職人の弟子のサブロウが、砂糖を入れた大きな箱を抱えて砂糖倉庫から菓子工房へと走っています。
毎朝、親方が来る前に砂糖倉庫の砂糖の塊から必要な量の砂糖を掘り出して準備しておかなければならないのですが、今朝は寝坊してしまったのです。
「うわっと!」
危うく転びそうになり、砂糖をひとかけらこぼしてしまいますが細かいことにはかまっていられません。
態勢を立て直してサブロウは工房へと急ぐのでした。
◇◆◇
このサブロウの落としていった砂糖に喜んだのは地面にいたアリたちです。
「ご馳走だー」
「大きいー」
「食べきれるー?」
人間にとってはひとかけらでも、アリたちにとっては自分の何百倍もありそうな大きな塊です。
これを持ち帰ったら女王様も喜んでくださるに違いありません。
「それじゃあ皆で運ぼうかーアダッ!?」
皆に呼び掛けていた働きアリのチョビコが、頭を叩かれて悲鳴をあげます。
振り返ると、アリにしては体が大きくて乱暴者のクロコ、アゴエ、フトミの三匹がいました。
それぞれ短く折ったネコジャラシの茎をもっており、さっきはこれでチョビコの頭を叩いたのです。
「その砂糖を持ち帰って女王様に褒めていただくのはアタイらだけさ。お前らは先に帰りな」
「そんな」
「オラさっさと散れー!」
「ウワー!」
クロコたちがネコジャラシを振り回して暴れだしたのでチョビコたち数十匹は散り散りに逃げ出しました。
「ハッ、アタイらに逆らおうなんて百年早いぜ」
◇◆◇
そのちょっと後
「まあまあ、お砂糖がこんなにたくさん。皆ご苦労様~良くやったわ~」
チョビコ達の巣にはたくさんの砂糖が運び込まれていました。
女王様もゴキゲンでお褒めの言葉をくださいます。
留守を守っていた皆もニコニコです。
砂糖は塊とともにもっと小さな欠片や粒も落ちてきていました。
チョビコたちは、それらをクロコたちから逃げるどさくさに拾って持ち帰っていたのです。
数十匹の持ってきた分を集めると結構な量になりました。
「これで赤ちゃんたちも大きく育つわ~。今日はお祭りよ~」
◇◆◇
一方その頃クロコ達はといいますと。
「んー、んー、おいっ、お前らちゃんと押してんのか!?」
「クロコこそ本気で押してんのかよ!」
「もー休もうよー」
立ち往生してさっぱり進みません。
こんなに重いとは思わなかったのです。
といって、ちょっとだけ削って持って帰るのはプライドが許しません。
「んー、おいっ、フトミっ勝手にかじるな!」
「アゴエだってちょっと舐めてたじゃん!」
「お前らいい加減にしろ!……ん?」
クロコが風に湿気を感じます。
次の瞬間
ドザアアアアアアア!
と、いきなり豪雨が降り注ぎました。
「「「うああああ!?」」」
奇跡的に雨は数十秒で止みました。しかし
「うごごごご!?」
「さ、砂糖が、」
「お、溺れっ!?」
雨に溶けた砂糖が粘液となってクロコたちを呑み込みました。
このままでは三匹とも溺れてしまいます。
と、クロコは何かが自分の頭を叩いているのに気付きます。
必死に上を見るとそこにはネコジャラシが。
「おーい、早く掴めー、助けてやるぞー」
様子を見にきたチョビコたちが、とっさにネコジャラシを長く折ってクロコたちに伸ばしていたのです。
ネコジャラシに掴まったクロコたち三匹を数十匹で引っ張り上げ、なんとか救助したのでした。
「なにか言うことはないかい?」
「ごめんなさい」
「もうしません」
「ありがとう」
さすがに三匹も反省したようです。
「さあ、それじゃ溶けた砂糖を小さな砂糖水玉にして持って帰ろうか。皆、砂糖水に呑まれないよう気を付けてねー」
チョビコの呼び掛けに皆で「おー!」と答え、アリたちは砂糖水に向かって行くのでした。
私がビールの海に溺れるようなもんか……
溺れたいッ!(๑•̀ㅂ•́)و✧ 死んでも




