二角ゆうさまのひとつのおおきな(略)
午前零時二十分、中央魔導塔上空──。
「上級レベル以上の炎属性の魔法弾を観測」
上空で最初の赤い閃光が確認された。
その後、頻度も方向もばらばらの赤い閃光が数十分おきに観測。
どうやら魔法弾を放つ何かはかなりの遠方からこの大陸へ攻撃しているようだ。
目標物があるのかないのか──。
我が国・アラベル王国にはまだ着弾していない。
そう思った直後に大きな赤い閃光がこちらに近づいてきた。
顔を夜空へ上げて姿を追うとそれは北の方へ飛んでいった。
最初の赤い閃光から数分後、鐘がなった。
この国に張り巡らされる魔法陣に則って配置された鐘。
人々に呼びかけまた、すべての鐘を鳴らすと国を覆う大きな障壁が出来上がる我が国特有の防御だ。
上級魔導師・アランは魔塔の屋根からその様子を見ている。
鐘が鳴らされると魔力を含んだ衝撃波が放たれる。アランはそれを可視化出来るため、仄かに光る鐘の点を眺めていた。
「警鐘隊急げよ⋯⋯」
アランは呟くと大魔導師に報告、また魔塔所属の魔導師に指令を出す。
『赤い閃光を放つ巨大な物体がこちらに接近中、交戦準備を開始!』
カラーンカラーン、カラーン。
その間にも小さな鐘の音がそこかしこで鳴り始める。
アランは魔法陣を作り出すと、王都へ向かって落ちる閃光にぶつけた。
(あまりにも大きすぎる!)
閃光は軌道を変えて遠くに茂る森へと滑り込んでいった。しかし、ぶつかった魔法弾は角度を変えた。閃光とぶつかった衝撃で大半は消滅。残った小さな破片は王都の大鐘塔の足元へとぶつかった。
軋轢音と共に傾く大鐘塔。それを見て苦虫を噛み潰したような顔をするアランは叫んだ。
『緊急レベル最大! 至急招集されたし!!』
直ちに魔導師たちが集められ、上級・中級魔導師たちに状況説明。班分けをし、交戦の配置を議論する。
ざわり、背中が逆撫でられた。
その感覚は正しく振り返ると遠くから“確かに”こちらへ向かってくる閃光が見て取れる。
閃光はすでに上空に近づいていた。
だが、上空にはまだ障壁が整っていなかった。
最後の鐘がまだ鳴らされていない。
それもそのはず、傾いた大鐘塔は登ることが出来ず、警鐘隊の応援待ちに時間がかかった。
どこの部隊か見たこともない二人の警鐘隊員は大型鷲に乗っていた。
鐘は一つ鳴らされたがあと二つはこれから。
アランは魔塔の屋根まで登ると杖を出した。
「世界を巡る理の力よ。
我が前に盾を築き、我が背を守れ。
《ガーディアン・ウォール》」
ゴゥゥーン──二回目の鐘。
上空に作った巨大な盾を突破する閃光。
アランは焦りから鐘を一瞥する。
「鐘が落ちていく⋯⋯嘘だろ!?」
しかし鐘の下方を落ちる警鐘隊員は鐘の舌に向かって手を伸ばしていた。
ゴウゥウウゥゥゥン──。
三回目の鐘の音をきっかけに透明な分厚い障壁がぴったりと出来上がった。
アランは二人の警鐘隊員の顔を忘れぬよう記憶に刻んだ。
「勇敢な警鐘隊員、感謝する」
* * *
「アラベル王国は警鐘隊のおかげで障壁が作られた。我々は隣国・リインドールでの交戦に参加する」
今回参加するのは騎乗隊だ。
魔力を持つ剣士と魔導師の混合隊。
魔力を持つ剣士はグリフォンや大型鷲に乗り、魔導師は風魔法で空を飛ぶ。
巨大モンスターにはタイミングをみて、大型攻撃を仕掛ける必要がある。
まだ騎乗隊の誰も敵が何であるか知らなかった。
騎乗隊が先に着くとそれは今まで見たこともない大きさのドラゴン。
「巨大赤龍⋯⋯」
城が動いているほどの人が蟻に見える大きさ。
書物でしか聞いたことのない空想の生物、だと言われてきた。
リインドールの討伐隊と合流し騎乗隊は攻撃するタイミングを窺う。
魔導師たちは外から全体を俯瞰し、口から吐き出される炎魔法を防ぐ。
まさに獲物にたかる討伐隊と騎乗隊は大きな塊となって蠢いている。
アランは他の上級・中級魔導師に班長を任せギガントレッドドラゴンを四方から防御、攻撃の隙を探らせることにした。
リインドール討伐魔導指揮長のガントンに戦況を聞く。
「皮膚がとにかく硬く攻撃が効かない。このままだと消耗すると、こっち(人間)が不利だ」
アランは頷きながら森にぽつぽつと浮かび上がる炎を指さす。
すると大きな火の玉が無造作に飛んでいく。音は聞こえないが村の近くに着弾した。
説明を聞くまでもない。
あのドラゴンが戦いの最中に吐き出した気まぐれの災厄だ。
いくつもの小さなかけらを散りばめながら恐怖は全域へとゆっくりと⋯⋯しかし着実に広がっている。
それにしても何がおかしい。
この違和感が何であるかはアラン自身も分からなかった。
「変だと思いませんか? 突然、別の大陸から来た。しかも夜に閃光を吐きながら水辺で暴れている」
光が苦手なのかと思った。
しかしドラゴン自信が明るい炎を吐いている。それに炎属性のドラゴンが苦手ははずの水辺にいる⋯⋯。
「ガントン殿、指揮をお任せしても? 私はドラゴンを近くで見てきます。何か分かるかもしれない!」
「承知! だが、急いでくれよ!」
アランはすぐに宙に浮くとドラゴンの真正面を目指して進んだ。
ドラゴンは鱗のように滑らかな皮膚が途切れなく艶めいている。
尾も足も爪も牙も綺麗な状態だ。
それに皮膚の様子、変なところは見られない。
混乱魔法でもかけられたのか?
内臓に異変はないようで四肢をどっしり地面につけている。
それでも攻撃的に口を何度も開け炎を出しながら、顔を左右に振っている。
(なぜ顔を振るんだ⋯⋯?)
顔が見える位置にやってきた。
ドラゴンはアランに気がついた。
ドラゴンの身体が反応している。
だが──。
「俺を目で追っていない?」
アランはドラゴンの目を覗いた。
焦点が合わない。
その不自然な動きを決定づけるように言葉にした。
「誰かに操られている?
『月の光よ、
絡みし魔を静かに解き放て。
眠りにつくように消えよ。
《ルナ・ディスペル》』」
温かな光がドラゴンの顔に近づく。
パアァアアン、強烈な破裂音。
アランはバランスを崩し回転しながら落下した。地面に着く前に体勢を戻す。
その時、確信した。
ドラゴンは誰かに操られている。
アランはガントンを呼ぶと作戦を伝える。
ガントンは目を大きくしたままアランを見て、声を低くした。
「アラン殿、ご自身のことはお考えで?」
「可能性の高い方に懸けるだけです」
一呼吸の間、ガントンはアランの瞳に合わせる。
「貴方も損な道を選びますね⋯⋯恩に着ます」
頭を下げたガントンをアランは思いを汲み取ってくれたように胸を焦がした。
頭を上げたガントンは声を張り上げた。
「ここにいるすべての魔導師たち、ドラゴンの前で時間領域支配だ! アランが術式破壊を行う。構えてくれ!」
それを聞いた魔導師たちが凍りつく。
その視線はアランへと集まる。
ピンと来ない討伐隊と騎乗隊の剣士たち。
「術式破壊⋯⋯?」
「ドラゴンは誰かに操られていたということだ。しかし術式破壊をするには相手の懐に入らなければならない。巨大赤龍を操った術者は相当な手練だ。戻ってこられるか⋯⋯」
それを聞いて青ざめる討伐隊と騎乗隊の剣士たち。
魔導師たちはすぐさまドラゴンの前に集まってくる。
ドラゴンの口と身体を数十人で魔縛鎖で拘束する。
数十本になる鎖はいとも簡単に千切られる。
魔縛鎖を出した魔導師が後ろへと引くと、代わりに控えていた魔導師が一斉に上を向けた。
声が重なる。
『過去、現在、未来を巡る刻よ。
我が意思のもとに統べられよ。
時の流れはここに支配される。
時間領域支配』
透明な氷が張り付くように頭から順に体、足、尾が固まった。
そこへアランが魔導師たちの群衆から突き出る。
手に持った魔法の杖は強い緑光を放つ。
『結ばれし魔の理よ、
今ここに契約を断つ』
アランの声とともにアランと巨大赤龍の間─アランの杖の正面に魔法陣が浮かび上がる。
そこへアランは躊躇もせずに腕を入れた。
魔法陣の先は術者。
『組み上げられし術式は崩れよ。
術式破壊!!』
強い瞳に闇がさす。
「ぐっ⋯⋯ぅぁあああ!!」
アランは仰け反りながら痛みに耐えかね絶叫する。
アランの全身の力が抜けた。
すると魔法陣がなくなり、腕が戻ってくる。
鮮血が止め処無く流れている。
そのまま空を落ちる。
時が戻ったドラゴンは大人しくなった。
左右を確かめて、ひと鳴き。
またひと鳴き。
何かを感じだったのか翼を広げ、飛んで行ってしまった。
* * *
ナナは病院の廊下を歩いていた。
「お父さんの病室はどこかな?」
扉の空いていた部屋を覗き込むと、知らない男の人が眠っていた。
何かが聞こえる。
ナナはそれをオウム返しするように言葉にした。
『生命の鼓動よ、
今ここに満ちよ。
傷つきし肉体を再び立たせよ』
それに反応するように彼の手が宙を彷徨った。
『再生』
ナナは首を傾げた。
「あれ? 私ここで何をやっているんだろう? ⋯⋯お兄さんも目を覚ますといいね」
ナナは走って部屋を出ていった。
それとすれ違うように部屋には上級魔導師たちが入ってきた。
「まさか、アラン殿の腕が使えなくなるなんて⋯⋯」
「神経が完全に切れているみたいです⋯⋯」
ナナが出てきた部屋で何かあったのか嬉しそうな声が聞こえる。
そして、ナナは父の病室を見つけた。
「あっお父さん!」
(おしまい(ここで終わり!?))
3,682文字
そこで終わり!?Σ(゜Д゜)




