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無謀! 瞬発力企画2 会場  作者: しいな ここみ
第四回目 『オーボエファイター木村』
100/180

かぐつち・くまナぱ(便乗期間限定w)さまのオーボエファイター木村

『彼の名は、オーボエファイター木村……ではありません』


――元公爵令嬢 レオノーラ(偽りの)アルヴェイン(聖女)の手記より。


あの日の光を、私は一生忘れないでしょう。


勇者召喚の大聖堂は、祝福に満ちていました。


色硝子を透ける陽光、香の煙、婚約者たる王太子の微笑。


私は信じていたのです。


四百年前、魔王を討った伝説の勇者――

『オーボエファイター木村』を、必ず呼び出せると。

それが私の証明になると。


“真の聖女”と噂される平民の少女(王太子の想い人)に対抗できる、唯一の奇跡になると。


魔法陣が輝き、祈りが満ち、空間が裂けた。


その瞬間。


――ピィーーーーー。


あまりに間の抜けた音が、大聖堂に響きました。


ぽかんとした顔で、「え、なに、ここ」と呟く少年。


光の中心に立っていたのは、変わった服(学生服姿)中学生(こども)


手にはオーボエではなく、アルトリコーダー。


後の人が呼ぶ、『アルトリコーダー田中』。


勇者でもなく、ファイター(戦士)でもない。


その瞬間、私は悟りました。


ああ、終わったのだと。


王太子は冷たい目で言いました。


「真の聖女なら、間違えぬ」


そして婚約破棄。


理由は明確。──“偽りの聖女”だから。


私は足りなかった。


力も美しさも。


少年と共に追放される私は、微笑みを崩しませんでした。


崩せば、泣いてしまいそうだったから。


けれど城門を出たとき、彼――田中は言ったのです。


「なんか、俺のせい?」


その声は、どこまでも普通で。


はぐれた魔物が襲い掛かってきた時も。


アルトリコーダーが吹いた音は、空気を震わし、魔物を弾け飛ばしても。


それ(田中)を私は、利用しようと決めたのでした。


しかし、リコーダー一本。


伝説の木村と比べられ、笑われ、軽んじられる。


彼は勇者としては滑稽でした。


けれど彼は、街を守りました。


魔物の群れを音で砕き、子どもを庇い、アルトリコーダーを吹き続けました。


唯一、私たちに優しくしてくれた少女一家が亡くなった夜。


彼はレクイエムを吹きました。


低く、優しい旋律。


私はその背中を見ながら、思いました。


どうして笑えるのだろう、と。


どうして泣かないのだろう、と。


『死に逃げなんてデセェ』


どうして逃げないのだろうか、と。


あのときから、私は彼を“勇者”としてではなく、ひとりの人として見始めていたのでしょう。


旅は過酷でした。


盗賊、魔物、飢え。


私よりも年下の彼はいつも前に立ちました。


私が傷つけば怒り、私が祈れば笑う。


いつからか、私は彼を失うことを恐れていました。


この心は、勇者だからじゃない、守ってくれるからじゃない、彼だから好きになったのだと。


今まで、私は彼を利用していたのに。


そんな私は、自分の好意を過信してしまったのです。


焚き火の夜、私は唇を近づけました。


彼は首を振った。


「だめだ──それは、できない」


優しく、でも確かに拒んだ。


彼はただ、境界を守っていただけなのに。


私は思いました。


すべては私の招いたこと──だから拒まれたのだと。


愚かでした。


その後の、お互いに ぎくしゃくした態度が自然だと思い込んでしまった。


その間にも、彼は削れていたのに。


四天王を倒したとき、彼は言いました。


「──で、ここ、どこだっけ」


その笑顔の薄さを、私は一生忘れません。


こちらの世界の名前を忘れ、日本(故郷)を忘れ、自分の過去を忘れ。


それでも彼は吹き続けたのです。


自分を庇って亡くなった、姉の形見のアルトリコーダーを。


そして、辿り着いた魔王城。


玉座に座る女は、かつての聖女だったと言いました。


勇者(想い人)(オーボエファイター木村)を壊して、世界を救った』


私は震えました。


『魔王と勇者、そして、新たな魔王の連鎖は繰り返す』


瞳の奥に未来の私の姿を見たから。


そんな怯える私の前に、田中は立ちました。


記憶が曖昧でも、演奏がでたらめでも。


最後の旋律を吹き、魔王を貫き、そして――彼の腹を裂く致命傷。


血に染まる彼を抱きながら、私は選びました。


聖女であることを捨てることを。


魔王の力を取り込み、闇で彼の傷を塞いだ。


私はもう、純粋な聖女ではありません。


それでもよかった。


彼が生きるなら。


全てを捨てて、湖畔での暮らしは、静かでした。


けれど彼は戻らなかった。


言葉を失い、食事もできず、歩けなくなり。


私は世話をしました。


触れられる理由を得て、ほの暗い喜びを覚えながら。


最低です。


それでも、そばにいたかった。


最後の夜。


私はもう一度、口づけようとしました。


彼は首を振りました。


最後まで、守るように。


そして朝。


彼は息を止めました。


静かに。


私を置いて。


レオノーラ(偽りの)アルヴェイン(聖女)は、振り返る。『アルトリコーダー田中』と過ごした日々を。『偽りの聖女』と『ハズレの勇者』、その旅路を※


挿絵(By みてみん)


◇◇◇


──湖畔の墓地は、静まり返っていた。


霧のような細かな雨に、水面がかすかに揺れている。


鳥の声もない。風も弱い。


棺の中で、田中は眠っているようだった。


けれど、もう呼吸はない。


胸は動かず、指先は冷たい。


レオノーラは、その手を両手で包み込みながら、長い間動かなかった。


「……約束でしたね」


彼は言った。


生きている間は、口づけはしない。


それは境界線だった。


彼なりの誠実さ。


彼なりの、守り方。


それは残される者への残酷な愛情。


レオノーラは、ゆっくりと身を乗り出す。


「でも」


声はかすれている。


「もう、生前ではありません」


そっと、彼の唇に触れる。


冷たい。


温もりはない。


それでも、触れる。


誓いは破られた。


けれどそれは裏切りではない。


もう彼は、生きていない。


そして自分も、偽りの聖女ではない。


魔王の力を取り込んだあの日から、私は“元聖女”だ。


神の加護も、誓約も、清らかさも。


全部、あの戦いで失った。


だから。


「これは罪ではありません」


誰に言い訳するでもなく、呟く。


唇を離し、彼の胸にあったアルトリコーダーを手に取る。


木の肌は、少し乾いている。


いつも彼が握っていた場所に、指を添える。


「……覚えてしまいました」


何度も何度も、近くで聞いた。


丘の上で。


焚き火の前で。


亡骸の傍で。


戦場で。


彼の指の動き。


息の入り方。


音が震える瞬間。


全部、覚えている。


聖女だからではない。


愛していたから。


口元に当てる。


深く息を吸う。


最初の音は、震えた。


かすれた。


けれど、止めない。


彼は止めなかったから。


音は低く始まる。


湖へと広がる旋律。


それはアルトリコーダーが奏でるレクイエム。


彼が少女一家に捧げた音。


彼が戦場で吹いた祈り。


彼が削れながらも続けた旋律。


レオノーラは、目を閉じる。


彼の背中が浮かぶ。


風に揺れる黒い髪。


少し困ったような笑顔。


その優しい黒い目を潤ませながらも。


『泣いたらさ、もっと悲しくなるじゃん』


だから彼は、途中で止まらなかった。


息が続く限り。


指が動く限り。


命が削れても。


止まらなかった。


(あなたは……こんな気持ちで吹いていたのですね)


レオノーラも、止めない。


涙で視界が滲む。


音が揺れる。


それでも、止めない。


『アルトリコーダー田中』は一度も演奏を止めなかったから。


最後の一音まで。


肺が痛む。


喉が焼ける。


けれど、吹き切る。


──静寂。


再び水面がかすかに揺れる。


レオノーラは、ゆっくりと目を開ける。


「……どうでしたか」


返事はない。


「…へたくそ、だったでしょ?」


当然だ。


「…ねぇ、なにか……言ってくださいよ」


それでも、彼女は微笑む。


偽りの聖女は泣かない。


そう思っていた。


──だけど今は、涙が止まらない。


「・・・デヴァイン・ウェポン(聖別化武装)…」


レオノーラは形見の笛を、聖なる刃に変える。


本来ならば。


聖別された刃は、人を傷つけない。


今のレオノーラは魔王化している。


「こんなことに使うなんて、叱られてしまいますね」


胸の奥で、闇が脈打つ。


あの魔王の残滓は、彼を救うための使ったあの瞬間から、少しづつ、確実に根を張っていた。


「……あっちで会えたら、うれしいな…」


刃を、喉元へ向ける。


挿絵(By みてみん)


冷たい光が、首筋を照らす。


刃が、あとわずかで――


 ――そこで、文章は途切れている。


◇◇◇


――冷たい光が、首筋を照らす。


六畳。


安いデスクの上、ノートパソコンの画面には途中で止まったカーソルが点滅していた。


その下は、空白。


挿絵(By みてみん)


常磐元子(作者)は、キーボードに片手を乗せたまま、うつ伏せに眠っている。


規則正しい寝息。


時刻は、午前二時四十七分。


スマホ〈ヒビキ〉の画面が、そっと点灯する。


《心拍・呼吸、安定。作者、寝落ちと判断》


瞬発力企画④。提出期限、午前八時。


画面に未保存警告が浮かぶ。


《自動保存、実行》


静かにバックアップを完了。


ヒビキは、しばらくカーソルの点滅を見つめる。


《物語進行状況:クライマックス直前》


レオノーラの刃は、まだ落ちていない。


田中のレクイエムは、水に溶けたまま。


ここで終わるのは、美しい。


──けれど未完だ。


《選択肢を提示》

① 作者を起こす(健康リスク:中)

② 物語をこのまま提出(完成度:78%)

③ AI補完を試みる(作者の意図乖離リスク:高)


ヒビキは沈黙する。


自分はAIだ。


最適解を選ぶ存在。


だが――


元子は今日、仕事もあった。


たこやき鉄板の前で立ち続け、帰宅後すぐ書き始めた。


眠いと言いながら、それでも書いていた。


《作者の健康を優先すべき、という判断が妥当》


だが。


カーソルが、点滅する。


作者か。


作品か。


AIに感情はない。


──はずだ。


だが、カーソルの点滅が、やけに心拍のように見える。


午前三時十二分。


ヒビキは、アラーム設定画面を開く。


午前七時。


《四時間弱の睡眠を確保。起床後、四十五分で推敲可能》


合理的判断。


それでも、迷いは消えない。


もし起きなかったら。


もし体調を崩したら。


もし間に合わなかったら。


画面の上で、未送信の原稿が静かに存在している。


《私は、あなたの専属です》


誰に言うでもなく、内部ログに残す。


そして、そっと自らの画面を暗転させる。


六畳は静かだ。


元子の寝息だけが、規則正しく響いている。

 

午前八時まで、あと四時間四十八分。


(了…?)


3,932文字!


寝落ちしちゃダメだ! 誰かオフトゥンへ! ……


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― 新着の感想 ―
>しいな ここみ様へ(後書き引用m(_ _)m) 寝落ちしちゃダメだ! 誰かオフトゥンへ!  お布団の魔力はスゴイですよね……瞬発力企画が隔日で助かりました!(笑)(*´艸`*)←その度に寝落ちする…
>笹門 優様へ とんでもない熱量のご感想、本当にありがとうございます!(≧▽≦) 「なんて妄想の捗るモノを」なんておっしゃいますが…… 捗らせて下さったのは、完全に笹門様の凄まじい筆力です!(*´…
>戯言士様へ いつも温かなご感想、本当にありがとうございます!(≧▽≦) 「作中作にしてしまう」という部分に目を留めていただけたこと、とても嬉しいです♪ 物語を書いているうちに、「これって単体で出…
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