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久しぶりの膝の暖かさに導かれたのか、俺は懐かしい夢を見ていた。

転生した青森県の古い実家の縁側。 差し込む穏やかな日差しの中で、新たな人生へと導いてくれた師と座っている夢だ。


「拓郎はおかしな子だね」


不意な一言に、一瞬ドキっとした。 事情を悟られたのかと勘繰ったからだ。

この突然の事態には、どうして良いかわからない。

自然と相手の目を眺めるだけという行為に、否応なく追い込まれていく。

しかし、それはそれで怖いものがある。

その見つめる目が、別世界から転生して来た俺にとっても、異様として映っていたからだ。

強大な魔力を振るう魔族や神に選抜されたような人間、そして恐ろしい魔獣と数多く遭遇してきた俺でさえ、それらを遥かに凌駕していると感じざるへなかった。

魔術は幻想であると、一応は定義付けられている世界でである。

何故なら、その目は穏やかながら全てを見通し、それでいて暖かいとも冷たいとも感じる白い目だったからだ。

その主は、この世界での俺の曾祖母。

当時4歳位の俺に対して、悠に100歳を超えていた婆さんだった。


暫く考えあぐね、やっとのことで答えを見つけた。


「どうして、そう思うの?」


「よくわからないんだよ」


俺を見ず表情も変えずに、答えにならない返答をしてきた。

但し次に繋がる言葉はある。


「どうして拓郎に『イタコ』の素養があるのかがわからん。 女だけなはずなのに……」


イタコとは死者の霊を憑依させて言葉を伝える口寄せの術を使う盲目または弱視の女性巫女・霊媒師のことだ。

長年、イタコとして生きてきた曾祖母からすれば、かなり不思議なことなのだろう。

しかし、おおよそながらも俺には理解出来た。

魂自体は、あっちの世界から来ているのだ。

それが何らかの影響を与えているのだろう。

おそらくテイマーとしての能力がイトコの素養に通じるものがあるのか⁉︎と考えたからだ。

そこで聞いてみた。

聞くに相応しい人物だからだ。

曾祖母:片桐登美は数いるイタコの中でも抜きん出た能力の持つ霊媒師だった。

自国人はもちろん、例え他国人であろうとも、いとも簡単に呼び出したからだ。

当然ながら他国の依頼者との魂の会話は、その母国語となる。

標準語すらまともに操れない、下北弁の曾祖母がだ。

特に(フランス)語を流暢に話し始めた時は皆が驚き、依頼者は涙を流した。 

どうやら訛りの強く出る仏語だったらしく、故人そのもの。 おまけに、その場には居ない依頼者の兄弟の名前まで話したらしい。

これらのことから多くの人々からは喜ばれ感謝もされたが、当然ながら起こってくるものもあった。

疑いと冷やかしだ。

その能力を信じない否定派が、挙って押し寄せるなんてのは日常茶飯事だった。

だが、その1人1人は曾祖母と少し話すと簡単に帰く。

冷や汗を流し、真っ青な顔して帰っていった。


「どんな人にだって、誰にも話せない隠しておきたい恥部はある。 それを奴らの先祖から聞いて言っただけ」


「じゃあ信じたの?」


「いや……人間なんてものは一度疑ったら中々信じようとはしない。 そもそも信じて貰おうとも思っておらん」


こんな曾祖母だから聞いた。


「じゃあ僕も修行とかすればイタコになれるのかな?」


もし、この能力を修得出来れば帰還した際に、何か役立つこともあるのではないかと考えたからだ。

何よりも、あっちの世界での俺の立ち位置も関係していた。

だいたいが年齢にして12歳前後で能力の器が完成してしまう世界。

俺には導いてくれるはずの師や手助けしてくれる仲間もいなかったからだ。

よって高レベル帯の魔物をテイムしようにも、それに見合ったレベルに到達出来ずに年齢を重ねて終わらせてしまっていた。

何故なら、生まれた途端に親に下僕として貴族に売られたからだ。

そうなれば高レベルなテイム能力なんていらない。

荷物を運ぶ程度の動物をテイム出来れば十分。

高レベルのテイム能力なんて、反抗のきっかけを与えるだけだと判断された。

後に勇者クラス達の下僕として売られたが、そこでも同じ。 何しろ、ほぼ全てを完結させられる勇者クラス達なのだ。 俺を育てよう、サポートしよう、なんて気はさらさら無かったのは当然だった。

欲しいのは荷物運びとストレス発散要員だけだ。


だから思う。

もし俺が両親に売られていなかったら⁉︎

もし俺に師がいて導いてくれていたなら⁉︎

もし俺にサポートしてくれるような仲間がいたなら⁉︎

きっと俺は、もっと上に行けたのかもしれない!

そう思い、常に悔いを残していた。


しかし曾祖母の言葉は意外なものだった。

予想だにしなかった言葉をだ。


「すぐにでも出来るようにはなる。

但し拓郎の場合は条件もあるようだ」


「条件って?」


「魂の質が違うからな」


「質?」


「魂の質というか器というか……とにかく普通の人間とは感覚が違うように思う」


これには残念には思うが、納得せざるを得ない。

しょせんは別世界の魂、それが災いし何か反発を起こしてしまうのだろうと思った。

けど、曾祖母の言葉は続いた。


「しかし完全な口寄せは出来ずとも、かなりの(えにし)を結んでおれば憑依は出来る」


「かなりの縁?」


「愛情、友情、尊敬などの繋がりが深ければ出来る」


愛情、友情、尊敬……そんなものなんて、あっちの世界で下僕だった俺には一切無かった。

口寄せや憑依とか以前に、遥かに難しいと思わざる得ない。

だから、思わず口に出た。


「……僕には難しいかな」


「まだまだ拓郎は生きていく、これから育めば良い。

長い人生の中で多くの人々に出会い、遠くにも行くだろう。 私には羨ましい話だ」


少しの笑顔を浮かべた曾祖母に希望を貰った気がした。

確かに魂だけは転生し肉体を残して別世界に来たとはいえ、これは現実に起こっていること。

現在の俺は間違いなく4歳という年少、この世界であればやり直すことが可能なはずだ。

少しポジティブになれた。 と同時に疑問が湧いた。

曾祖母は、最後に『羨ましい』と付けたのだ。


「どうして羨ましいの?」


そう聞くと、少し俯き加減になった。


「私には、この家と恐山しか無かったからな」


曾祖母は盲目ゆえに、イタコとして限られた範囲内でしか生きなければならなかった。

尊敬され感謝されても、それらが曾祖母を縛り、この地から離れられなかったのだ。

更には時代背景もあった。

まだまだ土着が当たり前の時代。 そして針仕事や工場務めなどの出稼ぎはあっても、目が見えなければ話にならない。

何よりも戦争、曾祖母の人生は日本の動乱期と重なっているのだ。 

盲目の人間が、生まれた地を離れて生きていくなど難しい時代だった。


「最近では他国の人も偶にやって来ることもある。

だからか、魂を通じて見えるよ。

他国の風景や人々の暮らしがな。

私もああいう場所に行き、色々な風景や建物を観て、色々な体験をしてみたかったよ。 もう『時間』も残されていないがね」


そう俺と似た悔いをしみじみと話す、そんな曾祖母を見て考えた。

縁を結んだ相手なら、俺には完全な口寄せ出来ずとも憑依くらいは出来るらしい。

すなわち『縁』という力によって、他人の魂を自身の魂に刻むということなのだろう。


だったら、この世界の他県や他国は無理でも、俺の本来の世界を曾祖母に見せてあげることが可能なのかもしれない。

曾祖母が亡くなってからにはなるが……。


「ねぇ婆ちゃん、僕にイタコの修行をしてよ。

そうすれば婆ちゃんが死んでも、僕が他国に行った時に景色を見せてあげられるから。

どんな他国になるかはわからないけど」


「では呼んでくれることを楽しみにしよう」


そう言うと曾祖母は大きく口を開け笑い、この数日の後にイタコとしての修行が始まっていく。

この曾祖母が、初めての憑依となった。


その曾祖母が俺の夢で、いや俺の魂に語り掛けている。


「憑依し、拓郎の事情を聞いてからも半信半疑だったが、本当に異世界なんてものがあるとは……。

世の中とは広いなぁ」


「いや、ごめん。

巻き込んだみたいになって……」


「謝る必要などない。

他国どころか、他世界にも連れて来てくれたのだから」


「そう言って貰えれば助かるよ」


「しかし……本当に私は蘇るなど出来るのか⁉︎

佐那さんの時を見ておっても、未だ信じられんが……」


「器となる身体の本人からは事前の承諾もあるから大丈夫だよ。 対処策も聞いてある。

それに今は佐那も助けてくれるから!」


「そうか、拓郎を信じておるよ」


そう言うと曾祖母は消えていき、俺は夢から覚めた。

じんわりと頬に暖かな感触を感じた。

少し顔を向けると、笑みを浮かべたクルスナ・マイバイトの顔がある。

一瞬だけ日和りそうになった。

この顔の本来の持ち主から受けて来た理不尽を思い出したからだ。

しかし前とは違い、これは優しげで愛を感じる笑み。

もうクルスナではなく片桐佐那なのだ、安心して良い。


「佐那、おはよう。ありがとう」


「おはよう。でも佐那ではなくてクルスナね」


「ああ、そうだね。

これからはクルスナ・マイバイトと呼ばなくちゃな。

悲しいけど」


俺よりも佐那の方が、よほど覚悟を決めているようだ。

当たり前だ。 俺達には、この世界での最大且つ崇高な目的がある。

それを果たすまでは、気を抜けないと考えているのだろう。

俺も気を引き締めないと。


「クルスナ、さっそくだけど婆ちゃんを蘇えらせる。

これからを考えると、やはりサエルミアが最優先だから」


「やりましょう。 必ず富美婆ちゃんなら力になってくれるから」


こうして俺達は1人の女が寝るベッドの前に立った。

この世界でも、そうは居ない輝きを放つ銀髪の齢千歳以上を生きる女。

鋭角を模したような耳を持つ、いわゆる『ハイエルフ』という種族の女だ。


「さてさて承諾は貰っているとはいえ、サエルミアの言うとおりなら、婆ちゃんくらいしか対応出来ないらしいからな。けど婆ちゃん大丈夫かな」


「大丈夫よ、きっと富美さんなら!」


「そうだね、婆ちゃんを信じよう。

じゃあ始めるよ!」


これからサエルミアの身体に片桐富美の魂を憑依させる。

ある意味で、強大な霊力を持つ者同士の戦いが始まろうとしていた。





































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