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『僕らが英雄にならずして、一体誰がなるというのか⁉︎』


もっとも嫌いで憎んだ奴が、偉そうに叫んだ。

英雄だって⁉︎ お前らみたいな下衆がなれるはずないだろ!

なる⁉︎だって、そんな資格があるなんて思っていたのか⁉︎

だったら滅べ、こんな世界なんて……。




現在日本、もうすぐ私は死ぬ。

中年から初老と呼ばれる年齢に差し掛かろうとしている息子2人、その子供達に囲まれて逝こうとしていた。

東北地方で生まれ京都で就職し、30年フルローンで建てた私の城と呼ぶべき、すっかり古くはなった家の中、暖かな布団の中で私は死ぬことが出来るのだ。


こんなに幸せなことはない。


「親父ありがとうな。

早くに母さんが死んで、苦労しながら俺達を一生懸命に育ててくれて」


「親父の息子に生まれて良かったよ」


薄っすらとしか見えなくなった2人に、私は最後の力を振り絞り言う。


「ありがとう、私の子供に生まれてくれて……。

幸せだった……楽しかった。

そろそろ佐那と佐理の元へ行くよ……ありがとう」


そう言い終えた途端に目が見えなくなった。

最後の力すら尽きたようだ。

しかし、家族の啜り泣く声達だけは聞こえている。

私が一生懸命に生きて愛されていた証なのだからだ。

もう満足だ、思い残すことなど無い。


私は死んだ……この世界の私は死んだのだ。



……これで、この世界の役目は終わった。

もう欲しかった力は手に入れている。


さぁ帰ったら、またカリオ・ベガリュートとしての人生が再び始まる。 さて何から始めようか⁉︎

決まっていた。まずは佐那を優先にするべきだ。


そう考えていた、そんな矢先だ。

何も感じなくなっていた目に、いきなり光が飛び込んで来た。

しかも先ほどまでの暖かく柔らかい感覚は背には無く、冷たく硬い木のベッドの上だ。

これには思わず手で目を覆い顔を顰めるしかなかった。

異世界に送られる前に聞いてはいたが、想像した以上に強烈で、あまり気持ちの良いものではない。

そもそも、いきなり予告も無しに戻されたのだ。

まだ慣れていないと言うべきか、それとも拒否と言うべきか、本来の身体のはずなのに思ったように動いてくれない。

おかげで僅かに薄目、目を覆ったはずの手も僅かにずれていた。

おかげで不快感からは脱出出来ないままだ。

そんな俺に中年男と中年女の2人から、容赦無い質問が押し寄せてきた。

こいつらは俺を向こうの世界へ転生させた賢者と呼ばれる、俺にとっては憎しみしかない2人。

しかし現在では感謝している存在達だった。


「カリオ、どうだった⁉︎あちら側は?」


「後に送った6人には接触したか?

どうなったかわからないか?

お前しか帰って来れないんだ、もう1年も経ってもだ!

これは、どういうことだ⁉︎」


未だに不快感と戦い続ける俺への気遣い無しに、その6人の心配しかしていなかった。

この態度だけで辟易としてしまう。

でも、そりゃそうだ。

俺は彼ら6人の安全のために予行演習として異世界へと送られた役立たずのテイマー。

その力はS〜F級まであるランクの中で、せいぜいE級に届くかどうか。

だから動物かスライムなどの小型モンスターくらいしか使役出来ない。

かたや6人は『級』なんて人間規格で語るなんてものには該当しない、いわゆる生まれた時から素養に恵まれた勇者クラスの存在だ。

だから納得せざるを得ない。


「いや……全く会ってない。

本当に6人様の魂を異世界へ無事に転生出来たのですか?」


「前以て成功しているお前と同じようして、しかもお前を起点にして転生させた。

場所や時間軸は多少変化していても、必ず接触しているはずだが」


「でも見もしなかった、同じ世界の人間が異世界で出会ったなら、互いに存在を感知出来るはずですよね。

まったく、そんな感じはなかった。

体感時間80年以上は向こうにいましたが、6人とは一度も……」


「まさか何か想定外が……」


「いや、こいつが偶々成功しただけで彼らは失敗したのか……」


2人が絶望感満載の表情になった。

この世界を魔王ユーグベルクから救うため、勇者と呼ばれる6人へ更なる力と知恵を授けるため、長年の研鑽を重ねて編み出した転生魔術『アザーワールドリー・レルム』の失敗。

しかも実験動物、こっちの世界では彼らの下僕、向こうの世界でも彼らの奴隷として扱われる予定だった役立たずだけが帰還してしまった事実。

それは、この世界には終わりしか残されていないという未来だけが決まったいうことだ。


そんな彼らに俺は敢えて言う。

これは前々から、これを予想し考えていたことだ。

あっちの世界で学んだことを実践した。


「確証はありませんが、向こうの世界での転生には成功していると思います。

あの世界には196ヵ国もあり、だいたい魔術なんてものも想像上的扱いでした。

そんな概念すら無い世界では、いくら勇者クラスでも感覚の消失があっても不思議ではありません」


「なんだと196ヵ国もあるのか⁉︎

さながら群雄割拠の時代ではないか!」


「魔術の概念が無いだと⁉︎

そのような原始世界なのか、ならば……あり得るか」


「ですから、もう少し待ってみては。

あの勇者クラスの6人様です。必ず帰還されましょう!」


2人は僅かに笑みを浮かび始めた。

思ったとおり、やはり向こうの世界の学びと経験は間違っていなかった。

絶望している奴には、多少の事実を混ぜた愚かな希望を与えれば必ず縋り付いてくるという人間の本能についてだ。


「ならば、今暫くは待つとしよう。

あの6人ことだ、必ず新たな力を得て帰還して来るだろう!」


「そうですね。

後に送ったから、きっと時間のずれがあっても不思議ではありませんよ」


僅かな安心、一時的な絶望感の消失には寄与したようだ。

すぐに互いに笑みを送り合い、6人の帰還という絶対にあり得るはずの無い希望に訳もなく縋り付いている。

上手くいった。

このまま、かねてよりの計画を実行していくとしよう。


まずは、もう一度絶望感に打ち震えて貰おうか。

もちろん、すぐに安心を与えてやるけど。


「しかし不安が無い訳では無いのですが……」


「なっ、なんだ不安とは⁉︎」


「私を起点にしたということです」


「それが今更どうした?」


「むしろ向こうから帰って来る時にこそ、私が起点なるのではないかと思いまして……」


「帰りにこそ起点?」


「私が最初に向こうの世界に行ったから、多少は場所や時間がずれても6人様は転生出来ているはずです。

いわば私が道先案内人の役目になった。 

ならば確実性を上げるためき、私が6人の近くにいる方が良いのではないかと思いまして」


「なるほど、確かに考えられる」


「確実性は上げておく方が良いでしょうね」


「6人様のお身体の世話などを兼ねて、お側に置いて頂ければ。 これまでの恩もありますゆえに」


お側に。 この言葉に多少は嫌悪感を感じるみたいだ。

この世界を救う、その可能性を秘めた存在の6人、重要人物達なのだ。

そんな現在のところ魂の無い生きた彼らの死体に、下僕だった俺が近づくことへ一抹の不安を感じたのだろう。

そして過去に俺が彼らに、どんな理不尽に合わされてきたかを知っていたから不安を感じているのだ。

そもそも本来なら、俺は向こうの世界に転生するはずじゃなかった。

あいつらが自己保身と安全性を見極めるために、無理矢理俺を先に転生させたのだ。

こういう事情を知っているからこそ、それは当然だと思う。

だが帰って来れないかもしれない、そんな最大の不安がある以上は些細な不安など必ず無視、必ず見て見ぬふりをすると向こうの世界で学んでいた俺には確信があった。

やはり、そう動いた。


「献身的に世話せよ」


それだけ言い、すぐに6人の眠れる身体が収められた一室に案内してくれた。

豪華な天蓋付きの暖かそうな柔らかそうなベッドの上に彼らはいた。

体感時間80年以上振りの対面、やはり憎しみしか湧いてこない。

だが、ここで感情を露わにする訳にはいかない。


「お久しぶりにございます、6人様」


こちらの世界の大袈裟な演劇ではなく、向こうの世界で観ていたTVドラマのような自然な演技を心掛けた。

深々と頭を下げて礼は忘れない。

功を奏したのか、2人は安心した顔を見せてから退出していった。

おそらく自分達が同室にいることで、起点の邪魔になるかもしれないと危惧したのかもしれない。

次の手を用意していただけに、拍子抜けになった。

でも最大の目的には、さっそく取り掛かれる。


「さて……一応確認しておかないとな」


すぐさま6人の内の1人、可憐な若い女の元へと走り寄った。

手首をとり脈を確認すると、力強く拍動を感じる。

顔を見ても頬は赤みを帯び、見た目だけなら健康的だ。


「これで魂があるなら絶対に目覚めているだろうけど。

でも残念だったな、クルスナ。

あっちで成仏してろよ……そりゃ無理か」


クルスナ・マイバイト。

この世界では最高の治癒術師。

生まれ出た時より天才と呼ばれ、数々の功績と人々を救い続けた治癒術師だった。

その名声は比類なきものにはなったが、その容赦とは裏腹に『一定』の者達にしか慈悲を与えなかった女だ。

『一定』とは地位や金、そういうものを持ち合わる者達にしか与えず、弱者達には興味も慈悲も無かった。

当然ながら俺にも同じだった。

何度も死ぬような怪我をしたが治癒すらされず、むしろ苦しむ様を楽しみながら眺めるの楽しみとしたサディストだ。


だから見捨ててやった。

いや勝手に自殺したと言って良いのかもしれない。

実は、あの2人には嘘を言った。

あっちの世界で俺は6人と出会えているのだ。

最初に出会えたのが、このクルスナ・マイバイトだった。

向こうでの俺が25歳の頃、就職していた化学会社で主任に昇進した頃だ。

昇進したことにより忙しくなり、午前様になりかけた帰途途中、まだ若いのに浮浪者のようになっているのを発見した。

そもそもの話、あの転生は完全に人選を間違えていたのだ。

確かに、こっちの世界では優秀な勇者クラスの6人なのかもしれない。

しかし向こうの世界では、魔術そして力も無い普通の人間。 ましてや可憐な容姿も転生のおかげで無い。

更には先の世界で育まれた自尊心が邪魔をして社会不適合者に堕ちていくなど、普通に考えれば想像など容易いことだ。


そんなクルスナは俺の存在を発見するや、すぐさま感じとり偉そうに大声で言ってきやがった。


「おいゴミ、また私に尽くせ!」


だから遠慮なく警察に突き出してやった。

侮辱された上に、金まで要求され付き纏って来たと。

でも、こんなのは些細なことだ。

ある程度の注意されただけで釈放されたクルスナだったが、それからも俺に付き纏いは辞めなかった。

この世界でも、自分に対して尽くして当たり前だと思っていたのだ。

だから何度も通報をする、そんな繰り返しになった。

やがて精神的疾患があると判断されたのか、そういう病院に入って行った。

そして、ある日警察から連絡が来た。

詳しくは教えてもらえなかったが、要は自殺したと。


「やはり自殺じゃあ、こっちには帰って来れなかったか。

まぁ、この身体の新しい主は決まっているから安心しろよ」


さぁ、ここからが本番だ。

あの2人についた嘘の一つを実行する。

転生先が東北地方だったおかげで、新たな力を手に入れた。

俺は現在では数の少なくなった『イタコ』の家系に生まれ、テイマーとしての力を改良することに成功していた。


「口寄せの術。

我が身に降ろした片桐佐那の魂よ、今より我から離れ姿を現せ」


ここからが心配だ。

こっちで向こうの世界の魔術が可能なのか?

そして俺の魂に刻み込んだまま、佐那や他十数人を連れて来ることが出来たのかがだ。


片桐佐那とは、向こうの世界での俺の妻だ。

若くして亡くなったけど、すぐに自身の魂に刻み込んでいる。


「居てくれよ……頼む」


しかし、そんな心配は余計だったみたいだ。

俺の胸のあたりから白い靄が、薄っすらと出てきた。


「一歩目は成功だな。

佐那、これから約束を果たすぞ。

よしテイム!」


今度はクルスナに向かってテイムの術を放つ。

予想通りなら、いくら勇者クラスの身体とはいえた魂の無い状態ならば無防備になっているはず、だったら簡単にテイム出来ないか?

そう考えていたが、さすがは勇者クラス。

そよ風のようものが肌を触った後、すぐに俺の身体を衝撃波のようなものが貫いていくのがわかった。

無防備状態でも、俺程度の術なんて防がれてしまったのだ。

そもそもテイムを人間に放つなんてのが、大きな間違いだ。


「やはり普通のでは根本的にダメか。

だが俺の考えは間違ってなかった、それにタイミングはわかった。

今度は向こうの世界の呪術とミックスされたテイムだ!」


イタコは亡き他者の魂を呼び寄せ、本来は我が身に降ろす。

だから俺は考えた。

テイムで服従を求めながら、その肉体への軌道を確保し、それに沿って魂を他者の身体へ降ろすことは出来ないかと。

そして、さっきので正解だとわかった。

防がれたとはいえ、勇者の身体には届いていたのだ。


「よし行くぞ、俺の新たな術。

憑依テイム発動!」


我ながらダサいネーミングだ。

だが発動し成功さえすれば、それだけで良い。


俺の胸にある白い靄が、ゆらゆら揺らぎ出番を待っているのがわかる。

タイミングは弾かれる寸前、その瞬間に一気に押し込む!


「まだだ、焦るな。

あの衝撃波が来る前、あのそよ風が肌に触れた瞬間がチャンスだ」


そして、待ち望んだ爽やか風が肌に触れた。


「ここだ!

片桐佐那、この新たな器に憑依し宿り甦れ!」


最後の抵抗なのだろうか、それとも魂はいないはずのクルスナの反抗なのだろうか、先程とは段違いの衝撃波が俺の身体を突き抜けていく。

それだけでなく、嵐でも発生したかのような惨事になってしまい、おかげで白い埃に部屋全体が包まれてしまった。


「何事だ、どうした?」


あの2人にも聴こえたのか、すぐに部屋へ飛び込んで来た。


「何が起こった⁉︎ 何をした?」


「何をと言われましても……、クルスナ・マイバイト様がご帰還された」


「なんだと、まことか⁉︎」


白い埃の中、1人の可憐な女性が立っている。

未だ正確には目覚めていないのか、どこか呆然とした様子は仕方ない。

しかし、やがて口を開いた。


「クルスナ・マイバイト、只今帰還致しました」


「おぉー、クルスナ殿」


「無事で幸いです!」


「ですが、今少し調子が優れません。

もう暫くは時を頂きとうございます」


「それはもちろん、ゆるりとなさって下され。

ならば別室の用意などを」


「いえ、ここで結構。

今少しカリオとも、あの世界の出来事を確認し合いたいので」


ようやく自分達の『アザーワールドリー・レルム』の成功と、他の5人の帰還への目処がついたことへの確信に安心出来たのか、すんなりと退室していった。


これで佐那、いやクルスナ・マイバイトと話しが出来る。


「佐那、いやクルスナ。

ようやく生身で逢えた、これで約束は果たせたかな」


「拓郎、こちらではカリオだったね。

約束を果たしてくれてありがとう」


久しぶりの生身で会話、クルスナの声と身体というのは慣れていくしかないが、それでも嬉しい。


「どうだ、その身体を使いこなせそうか?」


「うん大丈夫。 少しずつだけど根を伸ばしていくように魂の支配が進んでいるみたい」


「そうか。 なら問題は無さそうだな。

とりあえずはクルスナ・マイバイトの記憶や魔術に慣れていくことから始めていけば良い」


「そうね。でも拓郎に説明されていたから時間は掛からなそうね」


「なら安心だ。さて……悪いけど少し休ませてもらう。

さすがは勇者クラスだ……ごっそり力を持っていかれた」


「じゃあ、久しぶりにどうぞ!」


クルスナ、いや佐那が正座し、自分の膝をポンポンと叩いた。


俺は遠慮なく頭を預け目を閉じた。

久しぶりの佐那の膝枕、この世界でもあっちの世界でも初めて人は暖かいと教えてくれたもの。


このまま色々と話たいことはあったが、どうやら眠気には勝てそうにない。


「ゆっくり寝て、起きたら始めましょう。

私達の世界征服と貴方の復讐を」


「そうだね……皆も待っているから……」


あまりの気持ち良さから、早々に眠りに落ちていきそうだ。

まだ9人を蘇らせねばならないのに……。

でも俺の身体の中からの声は違った。


『ゆっくり休め、慌てなくて良い』


こんな声達に安心して俺は眠りに落ちた。







































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