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駅から徒歩五分。敷金礼金ゼロ、2LDK家賃マイナス10万円。

作者: 結城 からく
掲載日:2026/02/06

「駅から徒歩五分。敷金礼金ゼロ、2LDK家賃マイナス10万円。絶好の条件となっております。いかがでしょう?」


 担当者の言葉に、加納は懐疑的な表情を見せる。

 小綺麗な一室を見回しつつ、彼は担当者に尋ねた。


「マイナス10万円……って何ですか」


「こちらに住んでいただくと、毎月10万円をお振込みいたします」


「え? お金を貰えるってことですか」


「左様でございます」


 担当者は笑顔のまま頷いた。

 加納はますます険しい顔で唸る。


「あの、なんでそんな物件あるんですか。どう考えても怪しいっていうか……」


「こちら実は事故物件でして。皆様に利用していただくことで、悪いイメージを払拭したいのですよ」


「なるほど……霊感とかはないけど、事故物件はちょっと気味悪いなぁ」


 加納は家の中を見て回りながらぼやく。

 彼の脳裏には、学生時代からの舎弟である梶の顔が浮かんでいた。

 心霊があまり得意ではない加納は、恐怖と苛立ちで誤魔化す。


(梶の奴、妙な家を紹介しやがって。今度会ったらぶん殴っとくか)


 室内を一周した加納は、入居を断ろうとする。

 しかし、それを遮るように担当者が笑顔で言った。


「加納様は梶様のご紹介ですので、ご希望の家具や電化製品もお付けしますよ。もちろん退去後に回収するようなこともございません」


「うおっ、マジですか。そんなにサービスしてくれるんですね」


「もちろんお断りなさっても問題ありませんが、こちらは人気物件です。お早めに契約することを推奨いたします」


「そっかー。でも事故物件だもんな……」


 加納は大いに悩む。

 金欠の彼にとって、この物件は非常に魅力的だった。

 一年暮らすだけで大金や家具家電が手に入る。

 事故物件という点にさえ我慢すれば、断る理由がないほどの好条件であった。


 数分ほど悩んだ末、加納は担当者に宣言する。


「よし! 俺ここに住みます!」


「ありがとうございます。それではすぐに準備しますね。少々お待ちください」


 踵を返した担当者は玄関から外に出る。

 その際、扉を施錠する音がした。

 しばらく経っても担当者は一向に戻ってこない。

 不審に思った加納が扉を開けようとするが、びくともしなかった。


「あれ? ちょっ、おい、どういうことだよこれ」


『加納さーん。こっち見てくださーい』


 インターホンから担当者の音声が発せられていた。

 画面に映る担当者は、先ほどまでと同じ笑顔のまま説明する。


『入居の意思が確認できましたので、あなたを監禁させていただきました。これから一か月、外に出ることはできません』


「は? 何言ってんだよ。ふざけんじゃねえ!」


『この家には悪質な霊が棲んでいるので気を付けてください。ちなみに最長生存記録は十四日です』


「早く出しやがれ! おい! 聞こえてんだろッ!」


『依頼者の梶様より伝言があります。くたばれクソ野郎、だそうです』


 そこでインターホンの音声が途切れる。

 怒鳴り散らして玄関扉を蹴る加納の背後には、無数の靄ような人間が密集し、枯れた手を彼に伸ばそうとしていた。

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