The Time
彼は生きている。この棺桶の中に入っていても。
ただただ、目を瞑っているだけだ。意識はあるんだ。
だって、彼と今雑談をしているんだから。
「何笑っているんだ」
「なんだ。笑っていてダメなのか」
「ダメに決まってるだろ。人の死を笑うな」
「死んでないんだよ。今喋っていたんだよ。」
「は?」
お前は彼との雑談を邪魔した。
そして勝手に困惑している。何なんだ。喋っているんだ。
彼は生きている。息はしてい無いけど、生きている筈だ。
この世界は残酷だ。少し目を瞑っただけで死んだ扱いになる。まあ、実際はそうなのだが。
西暦2015年、彼はバスに轢かれた。
運転手は無表情でフロントガラスにへばり付いた血をワイパーで
除去していた。除去された血は彼に降り注ぎ、彼はより血塗れになっていた。
運転手は精神異常として罪から免れるためにこのような行動をした。
バスの乗客が心臓マッサージをするために降車を要求したが、
運転手は何も言わずドアを閉じたままだった。乗客は運転席にあるドアを開けるボタンを無理矢理押し、降車した。そして心臓マッサージを試みたが、時は既に遅かった。
彼は生前「死ぬなら絶対に自然死が良い」と言っていた。
だがその願いは惜しくも叶わなかった。私も一緒に天へ逝こうか迷ったが、
私は何とか堪えた。棺桶に入っている彼を見つめると、何故だか意識が朦朧としてくる。
「おい、電話」
電話が来た。嫁からだ。
「お父さん、亡くなったって」
「え?」
今日は眠れなかった。ベッドの上で永遠に泣き噦り、生前の写真を見ていた。明日は、何もしなくていいや。
朝だ。喧しいほど明るい日光が目に焼き付く。この太陽の中に父と彼は眠っているのだろうか。腹も空いていないのに大量の菓子を自棄喰いして、泣いていた。こんなことをしていても良いのだろうか?
ヒトは孰れ死ぬ。私も死ぬ。
御免なさい。私も自然死じゃなくて。




