エピローグ
ついに馬車に戻った私とアーロは人目も気にせず、深く腰掛けた。
「酷い目にあった」
「あぁ、本当に」
頑強なはずのアーロすらゲッソリしているのだから、相当である。
私たちの他にも次から次へと貴族たちが馬車に戻っており、なかなか列が進まない。
今日はルクサリカの王太子殿下の成人を祝うパーティだった。
そう、そのはずだったのだのである。
それがまさか、王太子殿下婚約破棄発表かつ男爵令嬢との婚約発表パーティーになるとは思わなかった。
王太子殿下とその周辺はとても盛り上がりを見せていたが、私には全く理解できずに、両親やアーロに何度も説明を求め、首を左右に振られてしまった。三人にとっても寝耳に水の出来事だったのだろう。
まぁ、それは当たり前ではある。母は病気で臥せっていたし、父とアーロは隣国と戦をしていたのだから。
しかし、他の貴族たちにとっても寝耳に水だったらしい。
国王陛下は顔色を赤くした後に青くして震え、王后は王太子殿下をこの場で殺さんばかりの瞳で睨みつけてた。そして、王太子殿下と婚約し大衆の面前で辱められた公爵令嬢の父親にいたっては、この場で王太子殿下に決闘を挑まんばかりの顔をしていた。殺伐とした雰囲気とはこのことである。
「学園で愛人を作ったとは聞いていたが、まさかこんな・・・・・・」
ひそひそと囁かれた内容を纏めると、そういう風なものだった。貴族は王太子殿下に愛人がいることは知っていたが、まさかここまでのめり込んでしまうとは思っていなかったのだろう。
ここまでくると、父とアーロは「グリトシュバ砦を打ち破り、クレセルテの伯爵との戦いに勝利しました」と国王陛下への直接の報告ができなくなった。もちろん、私も「この間までクレセンテに攫われていた公爵令嬢です!」と元気に挨拶周りすることなど、できるわけがない。会場の空気は重く沈んで、濁りきっていた。
そして、驚くべきことに王太子殿下が連れてきた男爵令嬢は、あのルーベンの愛人、エルシィだったのである。
あまりの衝撃に思わず、父に「あの男爵令嬢、クレセルテのコリンズ伯爵の息子の愛人です」とそのまま報告してしまった。
すると、
「何! あの女! 我が国に攻め込み続けるあの伯爵の愛人なのか!?」
と父親が吃驚するほど大きな声で間違った内容を反復した。その言葉に私たちの周囲にいた人間が飛び跳ね、国王陛下の眉間に深い皺が刻まれた。
そこからは更に大騒ぎである。
どこからともなく、処刑しろと野次が飛び「公爵令嬢に続き、他の貴族令嬢も攫うつもりなのよ!」というヒステリックな叫びが響く。
国王陛下が立ち上がり、両手をあげて何か喋っているが、騒ぎは全く収まらない。ついに、王太子殿下と愛人に誰かが襲いかかった。見間違いでなければ、婚約破棄された令嬢の父親だったと思う。それからは、雪崩のように人々が王太子殿下の方へと押し寄せていった。
もはや、暴動のような有様である。
やむなく、私とアーロ、そして公爵夫婦は王宮から撤退した。
「・・・・・・君の父上は爆発魔法で鼓膜がやられていてな。それで、あのように聞き間違えた上に、大声を出してしまったんだ」
「・・・・・・」
そういえば、騎士団の魔法使いは、喜びを表明するために爆発するのだったか。
戦の勝利を喜んでさぞや爆発したのだろう。
その爆発で鼓膜に穴があいたのか。
「それにしても・・・・・・」
私は王宮を窓から見上げる。
まさか、ここにエルシィがいるなんて思わなかった。
クレセルテが攻め込まれたから逃げたのだろうか?
クレセルテから逃れて、この国まで辿り着き、男爵令嬢になって王太子殿下と婚約までするなんて、本当に信じられない。
自分の力だろうか、それとも、王太子殿下と公爵令嬢を婚約破棄させたい誰かの協力を得られたのだろうか。
「どちらにしても、すごいガッツだ・・・・・・」
そのへこたれなさに感心する。
すごい、野心家だったんだな、エルシィ。
「え、王太子殿下、廃嫡されたんですが!?」
聞き覚えのある馬鹿デカい声が外から響いてくる。
「父上、本当に声デカいな・・・・・・」
これ、ここに止まっている馬車どころか、王宮にまで届いているんじゃないだろうか。
「えぇ、あなたの父上は本当に素晴らしい方です」
それにアーロが頷く。
「・・・・・・いや、別に今の褒めてないんだよね」




