シンバル
山の向こうから神々しい音が鳴り響く。どうやら日が暮れてきているようだ。夜が始まる。この瞬間は特別なのだ。何にも増して。けたたましい音を連れ歩くイノシシとシカが鼻先を覗かせたら、ここら一帯はてんやわんやの大騒ぎになるだろう。そうなる前に独り占めしておくのだ。ケーキを祭壇に捧げる前に半分ほどつまみ食いするのと同じことだ。それにしてもあの低い音は、いつもどこかずれている。左へ右へ、正面へ。どこかは知らないが、どこまでいっても変わらないだろう。オオカミの胃袋をのぞいてみたら、大西洋の海底トンネルにつながっているかもしれないのに。そんなことはお構いなしだ。リンゴが坂道を転がっていく。段差に跳ね飛ばされてバウンドする。いくら速かろうが、飛んでいようが、決して木にぶつかることはないのだ。たとえ木にぶつかったとしても。それは森の妖精の見せる幻覚に違いない。やがて止まるだろう。そよ風が吸い込んだ葉っぱは、きれいに湖に並べておかなくては。水に反射する光の粒を一つ残らず集めたら、森にまいておこう。そうしたら、亡霊もあの秋にたどり着けるだろうか。