思い出は呪いとなる
お久しぶりです。お待たせ致しました。
短編小説です。
人生は色々とありますね。
結婚したばかりの妻を亡くした。
俺は仕事中で、その知らせを受け取ったのは忙しくなる時間帯だった。
仕事中に電話がなるなんて滅多にないことで、上司に伝えてから休憩室で掛かってきた非通知の電話番号に折り返す。
「もしもし。」
「もしもし、樹さんの携帯でよろしかったでしょうか?」
「はい、そうですが。どちら様ですか?」
「こちら丹波警察署です。一織さんのご主人ですね。
実は奥様が交通事故に遭いまして」
そこから警察の人と会話をしたが俺は平静を装うことができなかった。
嘘だと信じたい、まだ妻の姿を見ていない。
そんな希望も虚しく病院へ向かった俺が案内されたのは霊安室だった。
音ひとつしない静かな空間。
白い布をかけられて横たわる、それはなんだ?
思考が上手く処理されない。
どうして。朝は生きていた。なぜ。
俺は君がいなければ生きていけないのに。
医者がなにかをいっていたが、わからなかった。
君と一緒に行った場所。
わがままを言われて付き合った遊園地。
君が好きだと笑っていた景色。
好きな曲を一緒に聞いた。
俺の過ごす場所にはいつも傍に君は居た。
俺に消えない傷を残して君は先に逝くなんて。
過ごす度に嫌でも思い出してしまうじゃないか。
「なぁ、どうすればいいんだよ。俺の過ごした場所に全部、一織がいるんだよ。忘れられないよ。」
しばらくの間、泣きまくって酒を飲んで。
自暴自棄になっていたのかもしれない。
君の居ない日々なんてつまらない。
妻を亡くしたあと、寄り添ってくる女性もいた。
だが俺は妻の事が好きで、愛している。
他の女性に靡くわけがなかった。
いつまでも好きで、忘れさせてくれはしない。
もっと君に愛していると伝えれば良かった。
傍にいれば。出張ばかりで寂しい思いをさせていた。
君の好きな曲を今日も聴いているよ。
今更言葉にしたって君にはもう届かないけれど。
自己満足だけれど、言わせてほしい。
「いつまでも愛してるよ。君が残した思い出と一緒に生きていくから待っててね。」