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なにもない

成人迎えてから「見えない」現象に驚いて、いやぁ初めての経験だったなぁと思ったけど、いや待てよ……なんかどっかで……と思ったら、小学生の時の自分の方が「見えてなかった」話。単体でも読めるよ。どっちから読んでも別にどうって事ない。

 小学生の頃、幼なじみの女の子がいた。

 同じマンションに住んでいる同い年の子供だ。

 彼女の名前をTちゃんとしよう。


 Tちゃんと毎朝一緒に学校へ行くし、帰りも時々は合わせていた。性格が全然違うので、あまり話が合わないけど、まあ朝行く時間は同じなので一緒に行くようなあっさりした関係だった。


 ところで学校で一番のドキドキイベントはなんだろうか。一番頻繁に皆をワクワクさせるイベント……そう、それは席替えだ。

 小学生の席替えイベントは大変盛り上がる。

 席替えの前日までワクワクで、引いた後はそんなでもない感想を抱きがちだけども。


 隣のクラスだけ席替えずるい!となるので、6クラスあった私の学校では、1、2か月に1回同日で席替えが行われていた。



 とある朝、Tちゃんが言った。


「私の隣ね、格好いい人になったの!」


 ふふふ、と嬉しそうに話してきたので、イケメンに全く興味がなかったけど一目見たい気持ちになった。


「良かったね」


「しかも一番後ろの席だからランドセルも仕舞いやすいの!」


「いいなぁ」


 どこの席?と聞いて、真ん中の列の一番後ろと答えられたので分かりやすいから見れるなと話し合った。Tちゃんは格好いい人の隣になれたのが嬉しいらしく自慢げに「見に来て」と言っていたので、その日のうちに私は見に行った。


 休憩時間、チラッと教室の後ろのドアから覗き見る私。

 なにせ子供の数が多い小学校だったので、休憩時間は教室も廊下も校庭も子供がわちゃわちゃする。私のそっと覗き見る行動は特に誰にも気にされずに流されていた。


 しかし、ここで驚くべき事が起こる。


 なんと、Tちゃんが言っていた席の隣には『机も椅子も何もない』のだ。

 奇数のクラスだと、一番後ろは1人席になる事もある。

 私はTちゃんが見栄を張ったのだと思って、多分イケメンは斜め前の席の子かなと納得した。


 次の日Tちゃんにその事を伝えると、隣にいる!と言う。

 馬鹿じゃないのか、隣には机もない。アホかと思って喧嘩が始まった。

 当時、男子をボコボコにしていた私は体力はあったけど口は回らなかった。負けた。


 お互いにフンっとなってその日から数日は一緒に行くのもやめた。


 人生で初めての喧嘩に、私は内心オロオロしていた。

 あんなにTちゃんは隣にいるという。

 うそだぁ。と思いつつ、もう一回見に行った。私が間違えてるのかな?と。でも、ないのだ。本当に。

 時間を分けて休憩時間に見に行くが、やっぱりない。


 隣のクラスの子を一人呼び止めて、Tちゃんの隣の席の男の子の名前教えて?と聞いてみた。

 なんと、Tちゃんと同じ名前を言うのだ。

 私は驚いて、その子とTちゃんの隣を交互にガン見した。いや見えない。私、遊ばれてるのだろうか。


「あの席の子の名前は?」


 斜め前の席の子の名前は、全然違う名前だった。誰や。

 見えない。

 見えないのに、いるらしい。

 おいSくん。お前どこの誰だ。

 私は自分の目が信じられなくなった。


 どうやら、見えない事がおかしいと気づいて、私からTちゃんに謝って仲直りした。

 Sくんを見に行く為に何度も教室へ行ってTちゃんの隣を見ていたけど、なにやらTちゃんに謝る為に赴いていたと勘違いされたらしくあっさり許された。


 いないけど、いるらしい存在のSくんかっこいいところを話すTちゃんに話を合わせつつ、どこの誰だろうなぁと私は毎朝話を聞いていた。




※※※※※※※※



 ある日、それは課外授業として近隣の公園や道をボランティアのママさんたちと共に歩いて町の探検をしよう!というなんかよく分からない地理のお勉強をしていた時だ。


 一緒に歩いていたママさんが「早く帰るよ!」と突然慌てた様子で、私のグループを学校へと帰した。

 もっと遊びたかったねーと同じグループの仲間と話しながら、ママさんたちを見れば、携帯を片手になにやら話し合っている。


 学校へ戻ったら、本当は行った場所を地図にしなくちゃいけないのに、そのまま帰された。


 まだ子供だった私はポカンとしながらも、やったー!とダッシュで帰った。

 おやつを食べるために。



 そして…翌日だったかな、数日後だったのか忘れてしまったけど、なんと1人の男の子が交通事故でお亡くなりになったと校長先生の口から全校生徒へと語られた。


 誰が?となりつつ、皆で黙祷した。

 帰り道、危ないから集団下校を呼びかけられたのでTちゃんに伝えると「あのね」とソワソワとした表情で話しかけられた。


「Sくんとね、その日日直だったから、日直サボって帰っちゃったと思ったんだけどね」


「うん」


「びっくりした」


 何が?と思ったけど、Sくんの名前にふと既視感を感じた。ああ、そう言えば交通事故にあった子供の名前も……


 私は翌日、すぐに隣のクラスを見に行った。


 Tちゃんの隣の席を見る。

 なんと、机も椅子もあった。

 そのクラスの子を捕まえて、最初からこの机と椅子はあったっけ?とちょっととぼけつつ聞いた。何をという顔をしながら子供は言った。


「最初から、この席はあったよ。だって皆2人席だもん」


 偶数のクラスだったのだから、1人余りなんてないのだ。

 私はただポカンと、しばらくその席を見ていた。

 前日まで見えなかった席だ。実は席だけではない。黙祷した時に写真を初めて見たが、優しそうな男の子だった。見に行くたびに、他の子がSくんならあっちにいるよと指さしてくれた方向を見ても見えなかった。

 Sくんの姿は、私の目からは本当に見えなかったのだ。

 なのに、今目の前に存在している。


 教室の後ろから見たその光景は、未だに目に焼き付いている。



 ──初めて見えた机には、花が飾られていた。



 あのね、私の周りでは病死でお亡くなりになった人も何人かいたけど、何も影ってないし見えなくもなってない。事故死だけなんだ。見えなくなってるの。

 だから、自分が「死ぬ予定の人が見えなくなる」とは思ってもみなかたったし、考えた事もなかった。

 病死ではなく予定外の死を迎える方って、運命とかじゃなくて、ただ何かに取り憑かれてるんじゃないかなぁって最近感じてる。

 嫌悪感は特に感じないし、私が見えなかった人達は皆から愛されるような人柄だった。どういう基準で選ばれたのか分からないけど、多分……

 気に入られちゃったんじゃないかなぁ。

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