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第2話 お兄ちゃん、"せいすい"って、なあに?

 やったああ! さすがお兄ちゃんだあ。アンケートで何聞くか決まったぞぉ、あっさり。テーマはこれっきゃない! "せいすい"! えっと、漢字はどうやって書くのかなあ? 


 少年は自室に一度入って何だか満足した後、疑問を解消するために、兄の部屋へと向かった。今の時間は兄は鯉の餌やりをしていて容易にその部屋に少年は入ることができたのだった。少年が探したのは部屋のゴミ箱。その中にあった一つの空き缶。昨日少年がそれが何か尋ねたとき、兄は異様な焦りを見せたのだ。そのため、興味が湧いたがじっくりそれを観察することができなかったのだ。少年はそれを拾い上げ、まじまじと観察し始めた。


 えっと、ないなに? お○様聖水ねえ。 ○ってなんて読むんだろう? 漢字難しくて分からないや。 あ、でも、この絵、きれいな女の人だなあ。えっと、こういう人をなんていうんだっけ? 女の人。そのまんまだなあ。美人さん。うーん、そうなんだけどなんか違うなあ? お兄ちゃんはなんて言ってたけぇ?


 少年は記憶を辿り、昨日の兄との遣り取りを鮮明に思い出そうとする。場所は兄の部屋。時間は16時。登場人物は、少年、兄、兄の彼女。少年は瞑想に入った。


   *


 うーん、もう16時かあ。あ~、でも暑っついなあ。どうしよう。アイスクリームももうないし、お外は暑いし。う~ん。あ、そうだ、お兄ちゃんが言ってた。暑い日は鯉を見るに限る、って。中庭中庭! 鯉、来い。お、なんかきれいに言えた気がする。

 お、中庭に到着~。うん? あれ? おっかしいなあ。鯉元気ないなあ。夏バテかなあ。あれ、これもしかしてお兄ちゃん餌あげてないっぽい? 仕方ないなあ。鯉かわいそうだし、餌ぱっぱ、ぱっぱ、ぱっぱらぱ。よしよし、食べてる食べてる。お兄ちゃんに一応知らせとこ。ちょっと今忙しかっただけかもしれないし。


 少年はそのまま兄の部屋へと向かう。少年は兄の部屋の扉を開けた。すると、部屋の中央にあるちゃぶ台の上に、未開封の何だかの飲み物の缶が一つだけ置いてあった。扉を少年が開けたとき、その部屋には二人の人がいたのにである。

 一人は少年の兄である。現在高校生で、ばりばりの運動部……ではなく、帰宅部だった。その割に日焼けして筋肉ムキムキで180cm程の巨体であるが。さらに、少年が女の友だちを連れてくると誰もがその兄のことを、ジャ○ーズみたいでかっこいいと目を輝かせるのだ。少年はそれを見ていつも得意げそうにしていた。

 もう一人は少年の兄の彼女である。○カちゃん人形が人のサイズになったような感じの身長170cm程度のボンキュッボンである。少年からすれば、オーラがすんごいお姉ちゃん、であった。最もその中身はリ○ちゃん人形とは程遠いのだが。

「よっ、チヒロちゃ~ん! おいでおいで!」

少年は笑顔で一目散に馳せ参じる。頭を差し出して。

「よしよし、えらいえらい。」

こうすると、少年の頭を彼女はごしごし撫でるのだ。少年はその感覚が好きであった。犬系男子なのだ。

「おい……、チヒロ~、ノックしろって言っといただろ~。しょうがないヤツめ!」

兄も少年の頭を彼女といっしょになって撫でる。少年は数分間撫でちゃんちゃんこにされた。


「で、お前何しにきたの?」

「えっとね、鯉の餌やっといたからね。それだけ~。じゃあね~!」

そう言って駆け出そうとしたその時、少年の目にそれが入ってしまった。標的を見つけてしまったのだ。少年は急に動きを止めた。そして、兄の方を振り向く。

「ねえねえ、その飲み物なんなの? きれいなお姉さんの絵が書いてあるけど。でも一本だけしかないよね。」

にやにやしながら少年は座っている兄の傍まで寄って来る。兄は気まずい顔をして少年から顔を逸らす。しかし、横にいる彼女がその問いに答えようとしてしまっていたのだ。嬉々として。何か悪い笑みを浮かべて。それはその顔に似合わない下種な笑いだった。

「それはね、私が買って来たのよ。最近話題になっているのよ。それ。その名も、お○様聖水。名前の由来はね、――!」

間一髪のところで兄が彼女の口を手で塞ぐ。必死の形相で、そのまま彼女を押し倒した。そして、必死な顔のまま懇願する。

「頼む、やめて! こいつはピュアなんだ。頼むから汚さないでくれよ。汚れるんは俺だけで十分やから……。」

顔を赤く染めた彼女はこくこくと小さく頷く。それを確認した兄は落ち着きを取り戻し、彼女を起き上がらせ、自身もその場に座った。


「その疑問には俺が答えてやる。それは、"聖水"だ。聖なる水と書いて聖水。もんのすん~~~んごいきれいな水だって思っとけばいい。」

兄は両手を組み、偉そうに少年に説いた。ところが、その努力を邪魔する者が一人、兄の隣にいることをすっかり兄は忘れていたらしい。

「おじょうさま。」

少し小さめの声でそう呟く。それはしっかりと少年の耳に届いていた。


「お兄ちゃん、それきっとウソだよね! ホントはどういう意味なの? あ、おじょうさまの絵が描かれた、せいすい! ってことかあ? あれ、どういう意味なんだろう?」

少年の無邪気な一言。しかし、その言葉はナイフであった。兄の何かをざっくりと削り去った。

「すまん、勘弁してくれ……。聖水っていうのはな、聖なる水や。神様とかが人に渡すすんごい力持った水。これで許してくれ……。」

少年には分かった。兄がウソを言っていないことを。しかし、質問にもまともに答えていないように感じられた。

「頼む、頼むから、父ちゃん母ちゃんには言うのやめて……。せいすいって何とか、そんな質問でたら、まず俺がやばい。やばいんやああああ!」

少年の両肩をしっかり押さえて、前後にぶんぶんする兄。動揺の度合いがこれまでの比ではなかった。顔は真っ赤になっており、少々泣き顔になっていたようにも見て取れる。


 しらばくして兄が落ち着いた。

「お兄ちゃん、言わないから、ね、ね。」

そうして少年は肩を落してのそのそと兄の部屋から出ていった。

 そう見せかけつつ、少年は扉を閉めた後、そこに待機して聞き耳を立てていた。さらに、扉の隙間からその様子を観察する。答えがぼそっと聞けることを期待して。


「おいぃぃ、勘弁してくれよ、リカ。こいつは危険物過ぎるだろ、全く!」

兄はまだびくびくしていた。

「いっやぁ、期待通りの反応してくれるね。まったく。コウくんは私を飽きさせないから好きよ。」

彼女はそんな兄をおちょくってのろけている。平和なものである。

「あいつ、明日なったらまた言い出しそうだよなあ、せいすいってなあに、って。そうなったらまずい、俺どうすればいいの?」

彼女ののろけをスルーしてまだびくびくな兄。少年はそれを見て呆れる。

「ぷっ。いや、ごめんごめん。悪いとは思っているわよ。どうすればいいか私はもう思いついてるわよ。でも、タダで教えるのは面白くないわね。」

「ちょ~、またそれかぁ……! よし、最後まで付き合ってやるよ、こうなったらな。何でも来いやあ!」

兄は血迷った。彼女の手の上で踊っている。ピエロな兄。でもそんな兄が彼女は好き。

「そのジュースあるでしょ。ネットで見つけたんだけどさぁ、それね、面白い飲み方があるのよ、やってみてくれな~ぃ?」

そこに居たのは彼女というよりは悪魔だった。兄にとって。どうすればいいか予想がついてしまった兄はしくしく泣き始めた。そして、その缶を裏向け、缶切りで穴を開けた。

「飲めば……、しく、しく、い、い、んだろっ、うっ、しくしく……。」

缶に空けた穴に口を当てたまま、兄は体を急激に逸らせる。そして、それを飲み干した。若干咽せて、その一部を撒き散らす。

「げほっ、ごほっ……、しくしくしく、うわあああああんん!!!」

兄は彼女の膝の上に滑り込んでそこでめそめそ泣き始めた。少年は、その情けない兄と、飛び散った液体を代わる代わる見ていた。その液体は、ビールのような、紅茶のような、そんな色だった。


   *


 あっ、そっか。おじょうさまって読むんだ。すっきり、すっきり! あ、でもやっぱり、せいすい、ってどういう意味が分からずじまいだったなあ。あ、それでいいんだ。アンケートで聞くんだから! よ~し、そうと決まればやるぞ~!


 えっと、お兄ちゃんのアンケート結果だけはとりあえず書いとこう。えんぴつよ~し、ノートよ~し。

----------

一人目


・聞いた人…兄

・答え…聖なる水と書いて聖水。もんのすん~~~んごいきれいな水だって思っとけばいい。

・判定…ウソ

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 自室へと戻った少年はノートと鉛筆を探し出し、そう記入した。そして、ノートと鉛筆を持って外へ飛び出していったのだった。


 さーて、聞いて聞いて聞きまくるぞぉ~!

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