第14話 ぼくたちのおでかけ
今日は8月30日。
バンッ!
ブルルルルっ、ブゥーン!
ブォーーーーーーーッ……。
「マリーちゃん? どうしたの、そんなかたくなって?」
「……。」
「マリーちゃん?」
どうしたんだろう? マリーちゃんらしくないなあ。さっきまでそわそわしてて百面相してたのに。
うーん、石になっちゃったみたい。
つんつん。
ぷにっ。
うんうん。そんなことなかったね。マリーちゃんのほっぺはやわやわだ。
「ひゃい!」
ぴくんって、ぷるぷるふるえて、跳び上がったマリーちゃんは顔を真っ赤にして、ぼくを叩いた。なにも言わないし、涙目だし。よく、わからないなあ。
でも、なんだか、見覚えがあるんだよな~。
あっ! お兄ちゃんがむかし―…
ギュッ。
「……。」
ぼくの腕にしがみついてたマリーちゃんは、何だか熱っぽかった。つかれたのかな。けっこう車に乗ってるじかん、長かったし。
きょうはおじいちゃんとおばあちゃんにあいにきたんだ。マリーちゃんをつれて。だって、おじいちゃんがどうしてもつれてきてって、ダダこねるんだもん。
おにいちゃんたちはこなかったし、おとうさんもおかあさんも、ぼくたちをおろしてゆーたーんしちゃったし。
坂のてっぺんくらい。見わたすと、大きなおうちばっかり。
ぼくの家も大きいけど、みんなみんな、ずっとずっと大きい。
ぼくの家とはちがって、おじいちゃんたちの家は、ようかん、ってやつだから、いつまでも入らずに立ってるわけにもいかないし、どうしよう。
大きな門の前。ちょっとだけ開いてて、まっすぐ行くと、石の道と、しばふと池と木のお庭を突っ切って、屋根のある入口のドアが待ち構えている。
そこの鐘を鳴らせば、ゴール。
マリーちゃんは、まだ、ぼくの腕にしがみついて、離れない。
「マリーちゃん。行こうよ。ねっ?」
マリーちゃんは返事してくれない。顔すら上げてくれない。しかたがないマリーちゃん。だからぼくは、
ズズズズズズズ――
マリーちゃんをひきずってでも、連れてくことにした。おいていくわけにはいかないもんね。
*
門を押して、開けて、石の絨毯を歩いて、屋根があるドア。青緑と黒の、縦に一本にぶらさがった鐘。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁぁ……」
とってもつかれた。マリーちゃんが途中からは半分くらい自分の足で歩いてくれてたけど。
いっつも、鐘を鳴らすのはぼくのしごと。たまにお兄ちゃんによこどりされたけど。
マリーちゃんは――ぼくの腕にさっきより強くしがみついてて、離れない。
「……。」
まだ、だめっぽい。
もったいないなあ、でもでも、マリーちゃんが鳴らさないなら、ぼくが鳴らすしかないよね!
リリンン! リリンン! リリンン!
片手で鳴らすのははじめてだけど、けっこう響くなあ。ぼくも大きくなったってことなのかなあ。
マリーちゃんの方を見たけど、相変わらずだった。
マリーちゃんこういうの大好きそうなのに、ぎゅううって、ぼくの腕にだきついたままだよ……。
なんだか、きょうのマリーちゃん、へんだなぁ……。
ガチャッ!
「はいはい~」
おっとりと、ステラおばあちゃんの声が聞こえてきた。
「マリーちゃん。おばあちゃんがでてきちゃうよ?」
「……。」
だめっぽい。でももう呼んじゃったし……。
ガチャンッ、ギィィ。
しろいみじかいかみのけと、あおいふたつのめ、とびらから、よこに、まっしろなかおだけでて、きのこみたいなシルエット。にっこりわらってる、けど、
「ステラおばあちゃん、それ、ちょっとこわいこわい。ほら。」
ぼくは、お兄ちゃんがしょうもないことしたときみたいな冷たい目をして、ぼくのマリーちゃんついてる腕のほうを、頭で指した。
「まあまああらあら、ごめんなさいねえ」
って、ステラおばあちゃんは、扉から今度はちゃんと出てきた。
しまった、ってぼくは思った。
だって、ステラおばあちゃんは、めっちゃでかい! たてにも。よこにも。
あ、でも、だいじょうぶだよね! って。マリーちゃんまだぼくの腕に抱きついたままだし。
ステラおばあちゃんは腰を低くして、
「マリーちゃん、だったかしらね。こわくないよ。こわくない。こわくない。チヒロちゃんのおばあちゃんだからねぇ。」
何だか無茶なことを言ってる……。
のほほんと言ってるけど、勢いで押し切るつもり? みたいな? だってステラおばあちゃんでかいんだもん。でかいなんてもんじゃなくらい、でかいんだもん。
「……っ。」
マリーちゃんの声が漏れたのが聞こえた。
マリーちゃん……、泣い、てる……?
「ステラおばあちゃん! こわい! マリーちゃんこわがってるから!」
ぎゅぅぅ……。
「マリーちゃん、大丈夫?」
「ちがうの、チヒロくん……。」
マリーちゃんは鼻水をべとっとさせながら、目元を赤らめて泣いていたし、ぼくの腕はべとっとしちゃったけど、
「?」
ちがうって、何がちがうんだろう? どうして、泣いてるんだろう?
ぼくは頭をアニメみたいにきっと、大きく傾げたんだと思う。
「ぅぅ、ぁぁぁ、ごめ"ん"な"ざい"い"ぃ"ぃ"――。」
えっ? えっ? な、なにが……? えっ?
「じゃっ、中に、入りましょうねぇ。」
ステラおばあちゃんは強引だった。
ぼくと、マリーちゃんを掴んで、右肩と左肩に乗せ抱えた。
マリーちゃん、声も出ず涙も止まって固まっちゃってるじゃん。おばあちゃんさあ……。
扉の奥へと。ステラおばあちゃんは退路を断つかのように、扉を足で蹴って閉めた。




