第1話 さて、どうしよっかなあ?
ある片田舎の住宅街。そこにある一軒の昔ながらの日本家屋。中庭縁側付き。その縁側で寝そべっている一人の少年がいた。スポーツ刈りの身長130cm程の小柄な色白の少年である。顔つきは、常に楽しそうにしてるからか、笑顔が張り付いている。丸いにこにこ顔である。
彼の名前はチヒロ。いろいろなことに疑問を持って人に尋ねるようにという意味を込められて付けられた名前だが、その効果が大きく出すぎて、彼は疑問が湧くとそれをすぐに人に聞いて解消しようとする。それが答え難いような質問であったとしてもだ。だって小学4年生なんだから。
今日は8月24日。夏休みは残り一週間だ。さて、宿題ももう全部終わらせてあるし、たっぷりのんびりするだけだな。ごろごろするぞー、一日中。ぽりぽり食べるぞ~、三時のおやつ。その後はちょっとだけお外で遊ぶぞ~。ぼちぼち近所のトモくんと遊ぶ時間だな。えっと確か、セミの抜け殻集めに行くんだったな。隣町の神社に集合だったけなあ。トモくん自由研究まだ終わってないって言ってたし。……あれ? 自由研究? あれ? 僕、今年まだやってないような気がしてきたぞ。確認だああああっ!
うわあ、これはまずいぞ。やってない、自由研究。それ以外全部終わってるのに。期間はあと一週間。自由研究だけは手を抜きたくないんだよなあ。忘れてたけどさ。うーんどうしよっか。1時間経過した。何も思いつかない。うーん、どうしよ。うーん、うん、まあいっか。だらだらしてよっと。そうして僕はトモくんとの約束をすっぽかして縁側でぽかぽかごろごろしているのだった。
今日は8月25日。時間は、お、朝6時か。ラジオ体操行けるな、これは。あ、やっぱやめとこ。めんどくさいし。えっと、今日やることは、まずはトモくんに謝らないとな。どうせ家にいるだろうし、今日ならいつでもいっか。次にやることは、そう、自由研究! テーマーどうしよっかなあ。これまでずっと凝ってたのやってたし、先生からすんごいほめられてたし、手は抜けないかなあ。まあいいや、とりあえず朝ごはんたべよっと。
朝早いのでまだ少年しかその家では目を覚ましていなかった。こういうときはバナナだね、バナナ。冷蔵庫にバナナあるかた取り出して、と。一房。あとはリビングでポリポリだな。大型液晶テレビの電源をぽちっとして、畳で横になりながらバナナをほおばるんだ。うん、バナナバナナ。とっても幸せ。学校休みだからこんなことできるんだよね~。
そのとき少年が目に入れていたテレビ番組は、街中の人にアンケートするという休日の朝の番組だった。リポーターが人通りの多い都会の駅の歩道橋の上で通り過ぎる人たちに何やら質問している。それを聞いたリポーターは板にそれをまとめる。そして、後ほどスタジオでその集計結果を発表するというものだった。少年はそれを見てバナナの皮を投げ出して走り出した。
おお、これや、これ、これ。インタビュー。俺も何かきけばいいんだあ! でも、何聞こうかなあ? うーん、うーん、うーん……。zzz……。
少年は眠りに落ちた。折角の早起きもこれでは台無しである。しかし、夏の畳の上というのはとても気持ちがいいのだ。少年があっさり眠りに落ちるのもわけはないのである。そして時間はただ過ぎていく。少年が目を覚ますともう15時を回っていたのだ。
はっ、うわあ、やってしまったかも。時間は~、15時間15分。うわあ、もう三時のおやつの時間だし。でもバナナ食べたからお腹へってないよう。今日はおやつはやめとこう。えっと、何考えてたっけ? あ、そうだ。インタビューだ。でも何聞くかが思い浮かばなくて……。あ、そうだ。こういうときは誰かに聞けばいいんだ。お父さんかな、いや、お母さんかなあ。いや、いや。こういうときはお兄ちゃんだ! どんなときでも僕の質問に分かりやすく答えてくれるんだから!
少年は家の中を駆け抜ける。向かう先は中庭。この時間なら、少年の兄は庭の鯉に餌を与えている時間だからだ。
「おにいちゃ~~ん! 聞きたいことあるんだけど、いい?」
嬉々として少年はしゃがんで鯉に向けて餌を投下している兄に話しかける。
「チヒロ、どうした? まさか昨日のことじゃないよなあ……。」
いつもと違って兄は明らかに不機嫌だった。何か心配事でもあるように、隠し事でもあるように。引き気味に少年の方を向く。
「あああ、そうだぁ~! お兄ちゃん、ありがとうねぇ!」
何か突然思いついたようで少年はその場から走り去っていった。
「お~い、どうしたっていうんだ! チヒローっ、はぁ。」
兄の呼びかけは少年の耳に全く届かなかったらしく、少年はその場から居なくなっていたのだった。