第7話 「予想外のクエスト」
俺とミコミコさんは揃って部屋から出ると、スレアスの町を散策しながらクエストを受けて回った。
スアレスという名前は、昔この港にいた伝説的英雄の漁師の名前からとったそうだが、何をしたのかまでは聞けなかった。
スアレスの町を全部回るのには、かなり時間がかかったがなんとか終わり、ミコミコさんから頼まれたクエストは「森の略奪者」という名前で、内容はスレアスの北にある森に出るというモンスターの退治だった。
森に入ってきた人間を襲っているから倒して欲しいそうだ。報酬もはずむと言ってたな。
どうやらモンスターは夜行性らしく、日が落ちてからでないと行動しないようで、クエストの発生時刻は日没から夜明けまでの間らしい。
「クエストは受けたけど、どんなモンスターが出るんだろう?」
歩きながら俺がそう言うとミコミコさんが笑いながら言った。
「ゴブリンだよ。たしか6匹だったと思う。この前他のプレイヤーがクエストをやってるのを見たんだ。」
「ゴブリンか…。強いのかな?」
「ゴブリンと戦った事がないの?」
「ないよ。」
「ウソ!」
ミコミコさんはかなり驚いたが、俺はゴブリンと戦った事はない。
パゴス大陸にはゴブリンがいなかったのだから、戦う事など出来るはずがないのよね~。
ミコミコさんが言うにはゴブリンは数が多く群れで暮らしており、町や村などの人の住む場所はうろつかないが、日の光が嫌いで夜行性であり、人里離れた森や山、洞窟に住んでいるらしい。
似たような種族でバグベアーというのもいるが、バグベアーはゴブリンと違って体も大きく日の光を嫌わない。
ゴブリンを引き連れているバグベアーもいるそうだ。
ゴブリンは単体では弱いモンスターで、基本的には群れで行動しており単独で動く事はないので、複数のゴブリンを相手にする事になるのだろう。
「ジョブはどうしようか?」
「後衛は出来る?」
「一通りは出来るけど後衛の方がいいかな?」
「前衛は何が得意?」
「なんでもある程度は出来るけど、狩人系が得意かな?」
「狩人か…。」
ミコミコさんはそう言って腕を組んだ。
「戦士は出来る?」
「出来るよ」
「じゃあ戦士でお願い出来るかな?」
「武器はどうしようか?」
「武器はなんでもいいよ?」
「わかった。ミコミコさんはどうする?」
「私は僧侶でいくわ。前衛二人よりその方がいいでしょう?」
「だね。それじゃあさっそく準備をしてからいこうか?」
「それじゃあ、ホームポイントの前に集合ね。」
「わかった。」
俺達はいったんホームポイントに戻り、支度を整えてから北の森へと向かうために集まった。
「両手剣でいくの?」
俺の姿を見るなり、ミコミコさんはそう言って驚いた。
今の俺は背中に大きな両手剣を背負い、額に鉢がねをつけて『ちょっと硬い鎧』をの上からスケイルメイルを着て、腕にはスケイルガントレットを付けてスケイルスカートとスケイルグリーブを履いている。
普通の甲虫装備では中に着込む事は出来ないが、HQの殻虫装備は薄いので中に着込む事が出来るのだ。
薄く青い装備だが、出来るだけ見栄えのよい目立たない装備にしたつもりだがどうだろうか?
ちなみにスケイルとは魚の鱗の事であり、本来はウロコ状の金属のプレートを貼り付けたものだが、俺のスケイルシリーズは全て本物のモンスターのウロコだ。
生臭くはないと思うので匂いは大丈夫だが、ダサくないかが心配だ。
「変かな?『一刀両断剣』が一番使いやすいんだ。」
そう言って俺は背中の両手剣を見せた。
青白い刀身の剣は持ち手が真っ黒で、かなりの長さがある割に軽い。
両手剣の割に重心が取りやすく扱いやすい。
結構切れ味がよかったので一刀両断剣と名付けたのだ。
「これって金属?」
「石だよ。石を研いで作った石剣なんだ。」
「石なんだ!すごいね~石の剣なんて初めて見たよ!」
ミコミコさんは目を輝かせている。
「俺がいた所は鉱石なんかが全然採れなかったんだ。代わりに変わった石が採れたから石で作ったんだ。」
「へぇ~。これって斬れるの?」
「斬れるよ。金属の剣より切れ味は落ちるかもしれないけど。」
「金属の剣は持ってないの?」
「持ってるけど銅だけだな。後は石とか骨とか殻ばっかりだ。」
「お金ないの?」
あらまぁ。ずいぶんとストレートにおっしゃるのね。
そういう正直なところは好きよ。
「お金もないけど鉄製品は高かったんだ。だから買わなかったんだけど武器はいるだろう?しかたがないから自分で素材を集めて作ってたんだ。」
「すごいね~。冒険を楽しんでるね~。」
ミコミコさんはそう言って笑った。
空に満月が輝きだすと、俺達はスアレスの町で馬を借り北の森へと向かった。
月明かりが照らす鬱蒼と生い茂る木々の間を抜けると拓けた場所に出た。
かなりの数の切り株があり古びた小屋も見える。
点々と切株があるので伐採の途中みたいだが、おそらくモンスターが出たから放棄されたという設定なのだろう。
俺達は近くの木に馬をつなぐと小屋に向かって歩き出した。
地面には小さな足跡がたくさん付いているが獣のような4足歩行ではなく、明らかに二足歩行のものだ。
おそらくゴブリンのものだろうが、ぬかるんでもいない地面に体の小さいゴブリンの足跡が残っているのはおかしいとは思うが、これも演出の一つなのだろう。
ドシンドシン ドシンドシン
俺達が小屋に近づくと、突然森の奥から大きな足音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「なんの音?」
俺達は同時に音のする方向を見た。
背の高い木々の間から、ドシンドシンと地響きをたてながら現れたモンスターを見て俺は思わず顔を上げた。
そのモンスターは大きな棍棒を肩に担ぎ、腰みの一つの格好で薄緑色の巨体を揺らしながら現れた。
ずいぶんと顔色が悪いと思うが大丈夫だろうか?
頭には2本の角を生やし、口に歯2本の大きな牙が生えていて、かなり引き締まった体で筋肉質だ。
ブヨブヨのお肉の塊の方がよかったのだが残念だ。
しかも二匹もいやがる。
顔はまぁ…。ブサイクだな。
初めて見たが、これはゴブリンじゃなくて多分トロルだな。
身の丈3mはあるモンスターを小鬼とは言わないだろう。
トロルとはジャイアントやトロールと呼ばれる、巨人族の一種である。
中にはかなり神聖な存在の巨人族もいると聞くが、出会った事はない。
主に森や洞窟に住んでいるらしいがよく知らん。
知り合いもいないし言葉も通じないしな。
という事は、3m以上ある大きな洞窟には気をつけなきゃならんね。
洞窟の中でトロルとお見合いなんざまっぴらごめんだ。
今わかることはただ一つ。
ゴブリンよりも全然強いって事だけだな。
人食い鬼じゃなくてよかったと喜ぶべきかな?
つかそんな大きな足跡は一つもなかったぞ?
これじゃあまるで詐欺じゃねぇか。
「あれはゴブリンじゃなくてトロルだよね?」
「だよね?でもそんなはずは…。」
ミコミコさんは驚いている。
「出たものはしかたがない。やってみよう。」
「仕切り直しにしない?危ないよ。私もトロルと戦ったことがないし強さがわからないわ。」
「トロルと戦った事はないの?」
「ないわ。見るのも初めてだもん。」
「そっか。それじゃあとりあえずやってみよう。人食い鬼じゃないだけまだマシだ。俺が相手をするから、ミコミコさんは危なくなったら逃げて。」
俺はそう言って背中の一刀両断剣を抜いた。
「え?」
ミコミコさんはそう言ってなぜか不思議そうな顔をしたが、俺が何かおかしな事を言っただろうか?
「一人で二匹も相手をするの?」
ミコミコさんはそう言って驚いた。
「うん。」
「いやいやそれは無理でしょう。」
「やってみないとわからないだろう?」
「それはそうだけど…。」
「ならやってみよう。」
「ずいぶんとポジティブなのね…。」
「ネガティブに道は開けない。」
俺はそう言ってトロルに向かって突っ込んだ。
それにしても解せない。
ゴブリンならまだしも、こんな町の近くにトロルが現れるだろうか?
前にやっていたゲームなら、トロルはもっと人里離れた場所に生息していたし、なにせ熊ですらトロルにはおいそれとは近づかなければ、もちろんゴブリンも近づかない。
クエストを受けていつも思うのだが、問題が起こる理由の大半は人間が他の生物の生息域への侵入だ。
テリトリーに関しては動物の方が生態系がはっきりしている分、人間よりもしっかりとしている。
アンゴール大陸はパゴス大陸とは違って、強いモンスターばかりが棲んでいるのだろうか?
二匹のトロルは俺の姿を確認すると、ぶっとい棍棒を手にドスドスと地響きをたてながら真っ直ぐ俺に向かってきた。
自分のテリトリーに入ってきた侵入者に対して怒っているのだろうか?
なんにしろやる気は充分あるようだ。
俺は一刀両断剣を肩に担ぎ、出来るだけ姿勢を低くしながらトロルに向かって走っていった。
デカイのとやる時は体を丸めて、足で掻き回すほうがいい。
これはDが俺に教えてくれた戦法である。
Dとは二人とも似たようなジョブだったのもあって、パゴス大陸では一番パーティーを組んでいたし、パゴス大陸には亜人種のモンスターはいなかったが、トロルより大きなモンスターはかなりいたので盗賊系の素早さがあるジョブでの、体の大きいモンスターとの戦い方は熟知している。
戦士系のジョブならトロル相手でもパワーで押し切れるが、シーフ系のジョブがデカブツと戦う時は、パワーではなく敵をいかに足でひっかきまわすかが重要になってくる。
俊敏さを活かして相手を撹乱し、無駄打ちをさせて隙を作るのだ。
俺は左に回り込みながらトロルと距離と間合いを詰めていく。
俺に向かって駆けてくるトロルの動きは、俺が思っていたよりもかなり遅い。
これだけの巨体である。
いくら筋肉が付いているとはいえ、動きが遅くなるのもしかたがないだろう。
シーフ系の得意な俺は、戦士ジョブとは言えシーフの攻め方をすることにしたが、さてさてどう攻めるか?
俺がそう思いつつトロルの棍棒の射程圏内に入った途端、一匹のトロルが振り上げた棍棒を俺目がけて一気に振り下ろした。
ドン!ボコッ!
大きな音を立てながら棍棒は地面を大きくえぐった。
思った通り、力任せに思いきり振り切った攻撃だ。
スピードもかなり早い。
『こいつらあまり知能はないな。』
俺はトロルの一撃を避けながら思った。
亜人種と戦うのは初めてだが、体の大きなモンスターは二匹いようが三匹いようが、最初は協力して戦うという事をしない。
体の大きなモンスターは己の力に自信を持っているので、一人で倒そうとするのだ。
それは攻撃一つ見てもわかる。
トロルはまるでもぐら叩きでもするかのように、俺に向かって最速で最大の一撃を振るってくるのだから。
こいつらは人間のようなナリをしてはいるが、頭の構造は人間よりも動物の方に近い。
自分の最も得意で有効な攻撃を放ち、一撃で仕留めようとするのは、人間ではなく動物の本能なんだとDは言っていた。
それが最も効率よく相手を倒せる方法であり、技というのは基本的に弱い動物が考えて発達させていくと言うのだ。
だから狼などの弱いモンスターは群れで行動し、一斉に襲いかかって相手を仕留める。
それは狼が個体としては弱い存在であり、1対1では勝てないからである。
しかし今回のトロルは違う。
一匹でもその戦闘力は高いから、群れる必要もなければ技を鍛錬する必要すらないから、ただひたすらに重い一撃を素早く繰り出すだけでいいのだ。
だから棍棒もただ上から下へと振り下ろすだけで、袈裟斬りも出来ないはずだ。
そう言えば魔法を使うモンスターと、袈裟斬りをしてくるモンスターには気をつけろとDが言っていたな。
どちらかが出来るという事は、それだけで人間並みの知能があるという証拠らしい。
なぜなら人間に一番近い猿ですら、袈裟斬りは出来ないからだそうだ。
俺には袈裟斬りの重要性はよくわからんが、Dは観察力があって非常に頭がいい。
Dは頭がいいくせにひけらかしたりしないので信用出来るし、
なにより説明がわかりやすい。
俺は合理的な狩りの仕方をDから教わり、ソロでの狩りのヒントを得たのだ。
Dがいなかったら俺は、ダンゴムシばかりを狩って暮らしていただろう。
俺は地面に滑り込むように、ステップを切りながらトロルの回りを時計回りに回転し始めた。
ドン! ドン! ドン!
トロルはもぐら叩きの要領で俺に向かって棍棒を振り下ろすが、反応は遅いわりには棍棒の振り下ろしのスピードは予想以上に早い。
なるほど。自分でも必殺の一撃だと思っているわけだ。
俺はトロル達の周りを一周すると、そのまま二周目へと突入した。
あまりぐるぐる回っていると、足場となる地面をボコボコにされても困るしさっさと勝負を決めたい。
そう思った俺は早々に仕掛ける事にした。
二周目に入り一体のトロルのバックを取った俺は、一刀両断剣を両手で握り、すかさずトロルの右足のアキレス腱に斬り込んだ。
エドワードなら距離をおいた位置からスラッシュを飛ばすことか出来るだろうが、今の俺のジョブが剣士とはいえエドワードとは違い、俺程度のやり込みではあまり効果は期待出来ない。
せいぜい薄皮の1.2枚斬れればいいところだろう。
ズバッ!ビュッ!
一刀両断剣はトロルのアキレス腱を切り裂き、真っ赤な血が飛び散った。
トロルはその場でうずくまると、もう一体のトロルが俺に向かってすかさず棍棒を振り下ろす。
すでに回避運動に入っていた俺はなんなくサッと避けれた!
と言えればかっこ良かったのだが、残念ながらぎりぎりのところで避ける事が出来た。
仲間を傷つけられて怒っていたのか、かなりするどい一撃だったのだ。
俺はもう一体のトロルの後ろに回り込むと、今度は右膝の裏を切りつけた。
ズバッ!ビュッ!
トロルは右膝から血を噴き出しながらそのまま地面に膝をついた。
あれだけの巨体を支えているのだから、ダメージはかなりでかいだろう。
これで足は殺した。
あとはじわじわと攻めるか一気にカタを着けるかである。
俺は叫んだ。
「ミコミコさん!ファイア!ファイアを撃って!」
「え!あたし今僧侶だよ!全身火だるまってわけにはいかないよ!」
ミコミコさんも慌てて叫ぶ。
「顔顔!顔を狙ってファイアを撃って!」
「あ!目つぶしにするのね!わかった!」
ミコミコさんはそう叫ぶと、トロルに向かって走り出した。
アキレス腱を切られた方のトロルがゆっくりと立ち上がると、振りかざした棍棒を俺に向かって力いっぱい振り下ろす。
バン!
俺は両手剣で棍棒を弾き飛ばすと、トロルは一瞬あ然とした顔で俺を見たのは、俺が予想以上のパワーで弾き飛ばしたからだろう。
身長172cmだからといってなめるなよ?
今の俺は戦士なんだぜ?
俺はすかさずトロルの下腹に向かって一刀両断剣を突き刺した。
グワァァァァァ!
トロルは血が噴き出る下腹を押さえながら悲鳴をあげた。
もう一匹のトロルが、苦痛に顔を歪めながら仲間の姿に目をやる。
そいつは次に俺の方を見たが残念。
俺はお前の後ろに立ってる。
俺は一刀両断剣を大きく振りかぶりながら地面を蹴り、トロルの背中に向かってまっすぐと剣を振り下ろした。
ギャァァァァァァァァ~!
トロルは大きく背中をのけ反らせながら悲鳴を上げると、ドタンと地面に突っ伏した。
「ファイア!」
ミコミコさんの声が聞こえたかと思うと、下腹を刺されたトロルの顔が炎に包まれた。
カーミラやベッキーと比べて威力はかなり低そうだが、ダメージを求めて攻撃したわけではないから、効果としては充分だろう。
アァァァァァァ~。
嘆きのような悲鳴を上げつつ、燃え上がる炎を消そうと必死で髪の毛をばたばたとはたきだした。
火を消したり腹を押さえたり大変だな。
俺が二匹のHPゲージを見ると、二匹ともゲージは1/2以下になっており、背中を切られた方のトロルのゲージは1/3もない。
急所攻撃が思いのほか効いているようだ。
俺はあっさりとトドメを刺して戦闘を終わらせた。
いくらゲームとはいえ、俺は自ら進んで血飛沫を見たいとは思わない。
俺は殺人快楽者でもないし、血を見るのが好きでもないからだ。
この考え方は死ぬまで変わる事はないだろう。
俺達はトロルの耳を持ってクエストの依頼主の元へと持って行くと、依頼主は大層喜び報酬に一人40000Gもくれた。
俺は思いがけない報酬の額に大喜びしていたが、ミコミコさんは何やら浮かない顔をしている。
「報酬に不満があるのか?」
俺はミコミコさんに尋ねた。
「え?あ!ううん。いっぱいもらえてよかったね!」
ミコミコさんはそう言って笑った。
予想以上の報酬で驚いていたのだろうか?
クエストが思っていたより簡単に終わったから万々歳ではあるのだが、あんな顔をされると気になる。
俺達はホームポイントに戻り別れる事になった。
「それじゃあこれでPTは解散だな。ありがとうミコミコさん。助かったよ。」
俺はそう言ってミコミコさんに握手を求めた。
ミコミコさんは俺の手をじっと見た後、ニコっと笑いながら言った。
「ねぇ。しばらくPTを組んだままにしておかない?」
「え?」
「私もあなたもアンゴール大陸に来て日が浅いでしょう?しばらくは協力しながら一緒に冒険してみない?」
「う~ん…。」
俺は悩んだ。
別にPTを組むのが嫌だったわけじゃない。
ミコミコさんに倒れられるのが嫌だったのである。
どんな状況でいかなる理由があれ、ミコミコさんが倒されてしまうと、少なからずとも俺に責任が発生する。
いくら本人が俺に責任がないと言っても、俺自身が責任を感じればそれは俺の責任になるからだ。
他人の考えなんか知ったことじゃないし、責任とは押し付けられるものではなく、自分から背負うものだと俺は思っている。
たらればを言い出せばキリはないが、自分の事ならまだしも他人が絡むとどうしても気になる。
「私とPTを組むのは嫌?」
ミコミコさんは上目遣いで俺に尋ねてきた。
この何気ない行為が…。
もう説明しなくてもいいか…。
とにかく俺にとっては効果抜群なのだ。
「そうじゃないけど責任がさ…。」
俺は眉間にシワを寄せながら答えた。
「責任?別にあなたに守って欲しくて提案しているわけじゃないのよ?全部自己責任の上でPTを組まないかってて提案しているの。」
ミコミコさんはなぜか笑顔だ。
「う~ん。」
そう言われても困る。
「それに嫌になったらそう言ってくれたら、すぐにPTを解散すれば良いだけだしね。もちろん私もそうするつもりよ。」
「う~ん…。」
確かにそれはそうだ。
「それに一人で冒険するより、二人でするほうが楽しいじゃない?」
ここでもう一度ミコミコさんの上目遣いが出た。
「わかった。それじゃあしばらくPTを組んでみようか。」
俺は覚悟を決めて返事をした。
「やった!これで契約は成立ね。ところであなたは毎日どれくらいゲームをやっているの?」
「平日なら18時くらいからかな?終わるのは遅くても夜中の2時くらいまでだな。」
「休日は?」
「週末は朝までやる事もあるし、休日はほとんど入りっぱなしだなぁ。」
「わかったわ。私もあなたに合わせてログインするわ。」
「え?無理してないか?」
「仕事に差し支えがない範囲でやるから心配しないで。」
「いやでも…。」
「あなたに迷惑はかけないし、責任を押し付けるつもりもないから気にしないで。私の好きにやらせて欲しいの。」
ミコミコさんはそう言ったが、正直なところ俺は参った。
ミコミコさんから、意味のわからない異様なほど熱い熱意を感じたからだ。
とはいえ、いつPTを解散するかもわからないし、うまくいかなければPTを解散してしまえばいいだけの事である。
深く考える必要はないのかもしれない。
俺がミコミコさんに合わせる必要もないしな。
ミコミコさんもアンゴール大陸に来て、まだ間もないから不安なだけかもしれないし、飽きたり気に入った仲間が出来れば喜んで解散するだろう。
酷な言い方かも知れないが、俺は少し距離を置いて付き合っていけばいい。
俺はそう思って深く考える事をやめた。
こうして俺は、しばらくの間ミコミコさんとPTを組む事になったのである。




