第5話 「そしてぼくらは途方にくれる」
ドラムの音量が安定し始めると、暗闇の中を幽霊船が、その全貌をゆっくりと現わし始めた。
幽霊船は全体的に真っ黒に焼け焦げており、3本マストは全て半分くらいの所で焼け落ちていて、もちろん帆などは見当たらないが、いくつもの青白い人魂が、フワフワと浮かびながら揺れている。
帆の代わりとでもいいたいのだろうか?
さらに甲板の上には、武器を高く掲げながらスケルトン達がケタケタと歯を鳴らしているのだから、間違いなく幽霊船だろう。仮装にしては度が過ぎている。
夜目が効くというのも考えたもんだな。
「甲板上にスケルトンを確認!数およそ20!いや!きっちり20だな!」
俺は大声でそう叫んだ。
ベッキー 『あっちゃ~。やっぱりホネホネの方だったか~。屍体の方がよかったな~。』
カーミラ 『最悪だ。』
エドワード 『やはりそうなったか…。』
俺 『幽霊船だもんな~。ホネホネだわな~。』
D 『やはりこうなったか…。』
「よっしゃー!俺の出番が来たぜー!」
アンサーは真っ赤な拳をポンポンと合わせ、かなり興奮しながら叫んだ。
ベッキー 「相手はホネホネだもんね~!アンサーからすれば、お得意様だもんね~!」
カーミラ 「ホネホネは苦手だー!杖でぶん殴っちゃうぞー!」
エドワード 「俺はハンマーでいくぞ!」
俺達は幽霊船に乗るスケルトン達を見ながら、精一杯強がりながら叫んだ。
なぜ俺達が強がってるかって?
はっきり言おう。
俺達のPTはこの時、ゲームを始めてから一度もアンデッドと戦った事がなかったのだよ。
ハッハッハッハッ!
なぜアンデットと戦った事がないかって?
パゴス大陸にはアンデッドがいなかったのだから、戦った事などあるはずがないじゃないか。
ハッハッハッハッ!
驚いた事にパゴス大陸には、ホネホネや屍体なんかのアンデッドがいなかったんだよな~。
どこかにいるかも知れないが、誰も一度もアンデットと遭遇した事がないのだから、当然今回が初めてのアンデッド戦になるわけなのだよ。
ハッハッハッハッー!
おい運営!ゲームバランスはどうなってるんだ?
とはいえ俺達もバカではないし、アンデッドの弱点も対策方法も、もちろん知っていたのさ。
しかしこれは開拓者の英雄讃である。情報なんて流れてこない。
しかも初めてのアンデッド戦なのだから、知ってる知識が通用するかすらわからないのだが、知ってる知識で戦うしかない。
アンデッドの中でもスケルトンの弱点は、格闘武器や杖、ハンマーなどの打撃系の武器である。
槍や弓矢などの貫通系の攻撃や、剣などの斬撃はあまり効かないのだ。
普通のゲームならな…。
という事は、格闘家のアンサーやハンマーを使うエドワードの攻撃は有効だが、狩人の俺に出番はない。
魔法で言えば神聖魔法が一番効果があるが、アンデットと戦った事がない、ベッキーの神聖魔法スキルに期待は出来ないし、魔術師のカーミラは神聖魔法が使えないし、属性魔法もほとんど使えない状態だ。
それならカーミラは、杖でぶん殴った方がいいかも知れないし、Dの鞭は使い方によっては、効果が期待出来るだろうが問題は俺である。
弓と短剣しか満足に使えない俺は、戦力外どころか完全な死に体と言ってもいいだろう。
これなら同じアンデット系でも、屍体の方が戦いやすいのだが、話はうまくはいかなかったようだ。
役立たずってのは肩身が狭いな。
『なんだこのスケルトン達は?』
俺はスケルトン達を見て首を捻った。
普通スケルトンといえば、真っ白なホネホネを想像するだろうがとんでもない。
こいつらの中には、そんなにきれいなスケルトンはいなかったのだ。
真っ黒な焦げなスケルトンや、ススまみれのスケルトンもいれば、骨の表面にヒビが入り、傷だらけになっているスケルトン。
明らかに何かに頭を噛み砕かれたとわかる、頭蓋骨が割れたスケルトンもいる。
一体何に噛みつかれたのだろうか?
しかもこいつらは全員?全体?どっちが正確な表現かは判らないが、手には見るからにうす汚なくて、ボロボロに錆びた剣や斧を手に持ち、頭には焼け焦げたバンダナを巻いていて、中にはボロボロになった服や、焼け焦げて真っ黒になった服を着ているやつもいるし、明らかにずぶ濡れのやつもいる。
かなり開放的な姿のやつもいるが。
なんともバリエーションに富んだスケルトン達じゃないか。
開発がなぜここまで力を入れたのかはわらかないが、かなりの迫力と不気味さである。
ホラーが苦手な人なら卒倒するかも知れないな。
だいぶ趣味が悪いがな。
それにしてもこいつらは何かおかしい。
名前もゲージも一切表示されないのだ。
アンデッドはみんなこうなのだろうか?
だとしたら戦いにくくて仕方がないぞ?
俺がそんな事を考えていると、突然甲板の上のスケルトン達が大合唱を始めた。
スケルトンA 「カ…エ…セ…。」
スケルトンB 「カ…エ…セ…。」
スケルトンC 「カ…エ…セ…。」
スケルトンD 「カ…エ…セ…。」
スケルトンE 「カ…エ…セ…。」
『何を?』俺がそう思う間もなく、ホネホネ達は武器を振り上げながらカーバンクルテイル号に乗り移ってきた。
おまえらこの間の海賊達のなれの果てか?
アイテムを返せって言ってるのか?
死んでからも追いかけてくるのは見上げた根性だが、誰が返すかバカタレ共め!
カタカタカタカタカタ!
まるで笑っているかのように、歯を鳴らしながら襲い来るホネホネダンサーズ。
さすがはホネホネ。
究極のダイエットに成功しただけあって相当身が軽いな。
ひらりひらりと船に飛び移ってきやがる。
しかしここまでダイエットに成功してると、ちゃんと食べてるか?と聞く気にもなれないな。
食っても身に付きそうにないからだろうか?
そんなに軽いなら、風に吹かれてどっかに飛んで行ってくれねぇかな?そう思ったのは俺だけか?
いつでも来やがれ骨野郎!
俺はそう思うと、かなりのスピードで襲いかかってくるホネホネ達に向かってナックルを構えた。
このナックルは「パゴスバッファロー」というモンスターの骨と羽から作った「バッファローナックル」という格闘武器で、そこそこの物だ。
「パゴスバッファロー」は骨と羽が素材になり、その肉は調理するとステーキやジャーキーにもなる。
ウィリーに渡した「バッファロージャーキー」もこれで作った。
ちょっと待てぃ!
バッファローに羽ってなんだ!
そう思った人も多いだろうが、パゴスバッファローには羽が生えとるのだ。
空飛ぶ牛か?
そう思うかも知れないが、ありがたい事にパゴスバッファローは空を飛べない。
あんな背中の小さい羽であの巨体が浮くなど、神様が許しても万有引力の法則は許してはくれないだろう。
パゴスバッファローの背中の羽は、たかってくる虫を叩き落とすためだけにあるのだ。
尻尾でいいじゃないか!
そのご意見はごもっともだ。
俺だってそう思うが、パゴス大陸にいるNPCの動物学者曰く、何のための羽なのかはわかっていないらしい。
全くもって訳のわからん牛である。
それにしても、パゴスバッファローが飛ばなくてよかったと思う。
だって想像してみ?
群れをなして空飛ぶパゴスバッファロー達が、一斉に牛フン絨毯爆撃をしているところを。
地獄だぜ?
まさに阿鼻叫喚の地獄だぜ?
パゴスバッファローは巨体の割にはあまり強くないモンスターなのだが、こいつは厄介な習性をもっている。
パゴスバッファローは大人しい性格のノンアクティブモンスターなのだが、仲間が襲われているところを他の仲間が見つけると、その途端に群れ全体で襲ってくるのである。
ちなみにパゴスバッファローは常に群れで行動しており、一つの群れには1頭のボスパゴスバッファローと、29頭のパゴスバッファローがいるんだ。
合わせて30頭だぞ30頭?
パゴスバッファローを狩っていると、突然大きな地響きをたてながら、29頭のパゴスバッファローが一斉に襲いかかってくるんだぞ?
しかもパゴスバッファローの生息域には全部で5つの群れがいて、逃げているうちに他の群れのパゴスバッファローに見つかったらさあ大変!
迫り来るパゴスバッファローの数は倍になるのよね。
俺の言いたい事がわかるかな?
最大150頭。いや、151頭のパゴスバッファローに追いかけられるハメになるわけさ。
1頭多いじゃないかって?
そう。1頭増えちゃうのよ。
とんでもない1頭がね…。
その1頭の名前は「モウモウバッファロー」
普通のパゴスバッファローの倍大きいボスの、さらに倍大きいパゴスバッファローである。
こいつは群れの中でも桁外れに強くて速い。
我先にと駆け出すと、もの凄いスピードでまっすぐと冒険者に向かってきて、暴走トラックのように跳ね飛ばしやがるんだ。
こいつらを倒す方法があって、俺はその方法で倒していたんだが、その骨で作ったナックルがホネホネに効くだろうか?
人の骨とバッファローの骨。
どっちが硬いかわからないがやってみるしかない。
牛の骨を舐めるなよ?
俺がそう思ってナックル構えていると、予想もしなかった事が起きた。
なんとホネホネ達は俺達などには見向きもせず、Dに向かって一直線に走っていったのだ。
アンサー 「なんだ?」
エドワード 「どうしたんだ?」
ベッキー 「なんなの?」
カーミラ 「どうしたどうした?」
俺 「なんでだ?」
D 「なぜ俺が人気者なのかはわからんが、ちょうどいい。俺が囮になるから、その隙にみんなで各個撃破してくれ。」
アンサー 「わかったぜ!」
エドワード 「そうだな!」
ベッキー 「私はDをヒールしてみるわ!」
カーミラ 「ぶん殴ってやる!」
「俺も下に降りる。」
俺はそう言って甲板へと飛び降りた。
Dはホネホネ達を引き連れながら、素早く甲板の上を走った。
ベッキー以外のメンバーは、それぞれ武器を掲げながらホネホネ達を追いかけたが、ホネホネ達は軽量を活かして、軽々とした足取りで素早くDの後を追う。
ケタケタと歯を鳴らしながら追いかけるその姿は、まるで狩りを楽しんでいるようだ。
アンサー 「骨野郎は意外と速いんだな!」
エドワード 「全くだ!」
ベッキー 「結構速いね!」
カーミラ 「待ちやがれホネホネ!」
『それにしてもすごいなDは…。』
俺はDの動きを見ながら舌を巻いた。
Dは鞭を操りながら船上を飛び回りながら動き続け、巧みにホネホネ達と距離を取っている。
実に大したものである。
間違いなく俺には真似が出来ない。
「待ちやがれホネ野郎!」
アンサーはホネホネを追いかけつつ、後ろからホネホネの右のあばら骨に向かってボディブローを放った。
アンサーの赤い拳は、流星のようなスピードでホネホネの右脇腹に吸い込まれていく。
ガシャーン!
アンサーの放った右のボディブローは、ホネホネのあばら骨と背骨を見事に粉砕し、上半身と下半身に分断されたホネホネは、その場でバラバラと崩れ落ちていった。
「見たかホネホネ野郎!」
甲板の上に崩れ落ちた、数々の骨の上のしゃれこうべに向かって、アンサーがそう言うと、しゃれこうべはカタカタと歯を鳴らし始めた。
「何だ?」
アンサーはしゃれこうべを見ながら眉をひそめた。
すると突然しゃれこうべが宙に浮かび上がると、甲板に散らばった骨がしゃれこうべの下に、次々とくっついて元のホネホネに戻ると、何事もなかったようにDを追いかけ始めたのだ。
砕けた骨すらくっつきやがったから驚きだ。
「ひでぇ!インチキじゃねぇか!」
アンサーはホネホネを指さしながら叫んだ。
エドワード 「全くだ!」
ベッキー 「ヒールって効くのかしら?」
「神聖魔法の方がいいんじゃない?今の私は使っても効果がないけど。」
カーミラは黒檀の杖を振り上げながら、ホネホネ達の後を追いかけている。
今は魔術師のカーミラの神聖魔法に効果などあるはずない。
てか、カーミラは攻撃魔法が好きなので、神聖魔法はあまり使わないので、スキルの方は大丈夫なのか心配だ。
「D!そっちは大丈夫か!」
俺はDに向かって叫んだ。
スケルトンは生体感知なのだから、叫んでも何も気にする必要はないだろうが、ホネホネ達はDに首ったけで聞いちゃいないようだ。耳もないがな。
「こっちはなんとかするが、数を減らしてくれると嬉しいな。」
Dはそう言いながらマストに鞭を絡ませながら、軽快な動きで船上を飛び回っている。
「カーミラ!頭を狙ってみてくれ!」
俺はもう一度叫んだ。
「わかったやってみる!」
カーミラはそう言うと背中を見せながら目の前を走る、スケルトンの右側頭部を黒檀の杖で横から叩きつけた。
カーミラ渾身のフルスイングである。
グシャッ!
カーミラに右側頭部を黒檀の杖で割られたスケルトンの体は、その場でガラガラと崩れ落ち、甲板の上にバラバラとその骨を撒き散らした。
カーミラ 「どうだ!見たか!」
アンサー 「やったか!」
エドワード 「どうだ!」
ベッキー 「いけた?」
俺 「俺が様子を見ておく!みんなは攻撃に専念してくれ!」
アンサー 「わかった!」
エドワード 「任せろ!」
カーミラ 「いくよ!」
ベッキー 「お願い!万が一の時のヒールは任せて!」
みんながそう言ってスケルトン達を追いかけて戦闘に専念している間に、俺はしばらくの間カーミラのフルスイングを食らったスケルトンを見ていたが、再び復活する気配はなかった。
俺 「いけそうだ!このまま攻略してみよう!」
アンサー 「わかった!」
エドワード 「オーケーだ!」
カーミラ 「いっくよ~!」
ベッキー 「私も殴っちゃおう!」
みんながそう言って攻撃に出て、俺がナックルを手にみんなと合流しようとした時だった。
「ロック。お前はマストの火をよく見ておいてくれ。」
Dから直接会話が入ってきた。
「どうしたD?何か気になる事でもあるのか?」
俺はDに尋ねた。
「少し気になる事があってな。ちなみに今はいくつの火が灯っている?」
Dからそう言われて俺は、慌ててマストを見た。
「19個だ。」
「わかった。」
Dはそう言うと叫んだ。
「みんなは甲板の1番広いところに集まってくれ。俺がスケルトン達をそこまで誘導する。」
アンサー 「わかった!」
エドワード 「任せろ!」
カーミラ 「了解!」
ベッキー 「頼んだわよ。」
みんなはそう言って舟の先にある、1番甲板の広い場所へと向かった。
アンサー 「準備オッケーだ。」
エドワード 「いつでもいいぞ。」
カーミラ 「ばっちこーい!」
ベッキー 「粉々に砕いてやるわ!」
全員が甲板に集まり、Dがくるりと体を反転させてみんながいる所へと向かって進路を変えると、Dを追いかけるスケルトン達も慌てて進路を変えた。
それにしてもスケルトンどものDに対する執着心がすごい。
Dがみんなと合流すると、しばらくしてからスケルトン達がわらわらとやって来た。
「いっくぜ~!」
そう言って真っ先に走り出したのはアンサーだった。
「うりゃー!」
アンサーは素早い動きでパンチを繰り出し、スケルトン達の頭を粉砕していく。
「消え去れ醜い者どもめ!」
エドワードはそう叫びながらハンマーを振り下ろし、スケルトン達の頭を体ごと粉砕していく。
「それいいじゃない!」
カーミラはエドワードに向かってそう言うと、黒檀の杖を両手に持ち、大きく振りかぶってジャンプしながら頭めがけて振り下ろした。
スケルトンの頭はグシャグシャに割れたが、カーミラは意外と力持ちのようだ。
「ベッキー頼む。」
Dはそう言うと、スケルトンの頭に鞭を巻きつけてから引き抜くようにすると、外れた頭をベッキーの足元に転がした。
「オッケー任せて!このこのこのこの!」
ベッキーもそう言って飛んで来たスケルトンの頭を、一角獣の短杖で何度も何度も叩き続けると、スケルトンの頭は見事に割れた。
「なに!」
Dに言われてマストの人魂を見ていた俺は、思わず声をあげた。
スケルトンが倒されていく度に、マストの人魂が一つづつ消えていったのだ。
「D!スケルトンが倒される度に、マストの火が消えていってる!」
俺がDに直接会話でそう言うと
「そうか。」
Dは短く答えた。
Dは巧みにスケルトンの攻撃を避けながら、他のみんなは全員でスケルトンを各個撃破していく。
俺は戦闘には参加せず黙って見ていた。
俺が参加する事で戦場が混乱するのを避けたのである。
『あと3体…。』
俺は青白い火を見ながらカウントダウンに入った。
青白い火が一つフッと消えた。
『あと2体…。』
しばらくするとバキッ!という音と共に、青白い火がフッと消えた。
残りはあと一つ。
「これでしまいやー!」
アンサーがそう叫びながら、正面からスケルトンの頭に正拳を叩き込んだ。
スケルトンはその場でバラバラと崩れ落ち、最後の火がフッと消えた。
アンサー 「どないや!」
エドワード 「やったか!」
カーミラ 「よくやった脳筋!」
ベッキー 「これで終わりね!」
4人は歓喜の声をあげた!
俺 「待て!」
D 「まだだ!マストを見てみろ!」
俺とDは同時に叫んだ!
ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!
マストの周りに再び火がつき始めた。
エドワード 「復活するのか!」
アンサー 「なんぼでもこいや!」
カーミラ 「しつこい!」
ベッキー 「またくるの!」
再び20個の火がつくと一斉に一つに集まり、ゆらゆらと揺れる大きな青白い炎になった。
すると突然、空には暗雲が立ち込め激しい雨が降り始めた。
強い風も吹き荒れ無数の稲光まで走り始めた。
ザーザーザー。ピカピカピカッ!ゴロゴロゴロ~!
アンサー 「なんだなんだ!」
エドワード 「いきなりか!」
カーミラ 「びちょびちょじゃないか!」
ベッキー 「なによこれ!」
4人が騒ぐ中、俺とDは青白い炎をじっと見ていた。
青白い炎は天候などものともせず、ゆらゆらと揺れながら俺達の元へと近づいてくる。
俺達は青白い炎から距離をとりつつ、すかさず陣を構えた。
半年近くもPTを組んで来たのである。
まさにあうんの呼吸というやつだ。
青白い炎が俺達の前で止まるとDが叫んだ。
「気をつけろ!来るぞ!」
パン!
Dの叫びを合図に青白い炎がはじけ飛ぶと、そこには一体のスケルトンが立っていた。
そのスケルトンは異様異形の姿をしていた。
明らかに海賊船の船長のような出で立ちだが、普通のスケルトンの倍はある体には4本の腕が生えている。
しかもそれぞれの腕には大きくて見事な装飾が施された、闇夜にキラリと光る切れ味のよさそうな剣を持っていて、なぜか左眼にはアイパッチをしている。
ご丁寧な事に、全ての剣からは白いモヤまで出ているのだから、気味が悪くてしかたない。
アンサー 「Dは一人でこんなのを倒したのか?」
エドワード 「何を着ていても醜いものは醜いな。」
カーミラ 「元はどんな姿だったのかな?」
ベッキー 「想像したくもないわ。」
D 「俺が倒した時はただの人間だった。アイパッチはしていたがな。」
「カエセ…。カエセ…。」
ホネホネ4本腕船長はそう言って、Dを目がけて襲いかかった。
Dはすかさず体を翻したが、ホネホネ船長の剣速は思いのほか速かった。
『はやい!』
Dは内心驚きながらホネホネ船長の攻撃を避け続けるが、いかんせん相手は4本腕である。
間髪を入れず追撃を入れてくるしスピードもかなり早い。
一回でも攻撃を捌けば、その間に追撃の雨あられをくらってしまうだろう。
こうなれば回避に専念するしなないだろうし、俺ならそうする。
Dも同じ考えだったのだろう。
決して捌こうとはせず回避に徹している。
俺はホネホネ船長の標的が、アンサーやエドワードだと想像してゾッとした。
あの2人なら確実に攻撃を捌ききれないだろうし、ダメージを負う事になるだろう。
あれだけの剣で切られたら、どれだけのダメージを食らうかもわからない。
下手すりゃ即死もないとは言えない。
しかしDの回避能力はすごい。
これだけの雨風が吹きすさぶ中でも、うまく攻撃を避けている。
アンサー 「やらせるか!」
エドワード 「私を無視するな!」
二人はそう叫ぶと、左右から挟み込むようにしてホネホネ船長に向かって突っ込んだ。
カンカン!カンカン!
ホネホネ船長は2本の腕を使って、アンサーとエドワードの攻撃を軽々と弾きながら、残りの2本の腕でDに攻撃を繰り出す。
「こいつ早ぇぞ!」
アンサーはホネホネ船長に、拳の嵐を振らしながら言った。
「さすがにハンマーでは手数が出せん!」
エドワードも巨大なハンマーを振りまわしながら言う。
「俺もずいぶんと好かれたもんだが、相手は選ばせて欲しいもんだな。」
Dも減らず口を叩きながら、ホネホネ船長の攻撃を避け続けているが、その動きに余裕は見えない。
アンサー 「剣圧がすげえ!」
エドワード 「重い!」
2人はそう言って歯を食いしばった。
「近すぎて魔法が撃てないぞ~!」
カーミラはそう言ってブーたれたが、この状況で魔法なんか撃ったら絶対に被害が出るぞ?
「誰かダメージを受けろ~。ヒマだよ~。」
ベッキー…。Dの頑張りを真っ向から否定するな…。
それからヒマじゃない必死だ。
「うわ!」
アンサーがホネホネ船長の一撃を食らい弾き飛ばされHPが1/5くらい減った。
「くそ!」
エドワードも攻撃を受けダメージを受けた。
HPの1/4近く持っていかれたようだ。
『まずい攻撃力が高い!』
俺はそう思ったがカーミラとベッキーは違った。
カーミラ 「やった!ヒール!」
ベッキー 「よし!痛いの痛いの飛んでいけ~!」
2人はそう言って、嬉しそうにアンサーとエドワードにヒールを飛ばしたのだ。
ヒールをもらったアンサーとエドワードのHPは全回復したが、ヒールを浴びたホネホネ船長の額がキラリと光り、一瞬だがその動きをピタリと止めた。
ベッキー 「止まった?」
カーミラ 「ヒールは効果があるんだ。」
アンサー 「額がピカッと光ったぞ?」
エドワード 「黒い石みたいなのが付いているな。」
D 「ロック。あの石を狙えるか?」
「この状況じゃあ俺しか出来ないよな。もう一回試してみて、効果があるようならやってみる!」
Dとアンサーとエドワードが慌ててホネホネ船長から距離をとると、ホネホネ船長は再びDに向かって攻撃を再開した。
俺 「ベッキー!カーミラ!今度はホネホネ野郎に直接ヒールをしてみてくれ!」
カーミラ 「オッケー!ヒール!」
ベッキー 「ヒール!」
カーミラとベッキーの放ったヒールが、時間差でホネホネ船長にヒットすると、ホネホネ船長の額がキラッキラッと2回光り、さっきより長い時間動きを止めた。
どうやら直接ヒールをする方が効き目があるようだ。
俺はホネホネ船長の額を見た。
よく見ると六角形の小さな黒い石が付いている。
『あれか…。あまり手の内を晒したくはないが、やってみるしかないな。』
俺 「ベッキー!おれが合図をしたらすぐにヒールを撃ってくれ!カーミラはその2秒後に撃ってくれ!」
ベッキー 「わかった!」
カーミラ 「オッケー!」
俺 「前衛はホネ野郎をそこで足止めしててくれ!」
アンサー 「わかった!」
エドワード 「任せろ!」
D 「わかった。」
俺は3人の返事を待たずDの後ろに移動を始めた。
俺はDの後ろに回ると射線を確保し、矢筒から最後に残った鉄の矢を引き抜き弓を構えて矢を引き絞ると、ホネホネ船長の額の黒い石に照準を当てた。
3人がうまく足止めをしてくれているので、この位置ならいけそうだ。
「今だベッキー!」
「いくよ!痛いの痛いの飛んでいけ~!」
ベッキーのヒールを受けたホネホネ船長の額がキラリと光り、ホネホネ船長は動きを止めると、俺はその隙に照準を合わせた。
「ヒール!」
カーミラの放ったヒールが、ホネホネ船長の動きを再び止めた。
「俺のとびっきりをくらいやがれ。」
俺は小さくそう呟くと、スキルが発動し俺は弦から指を放した。
このスキルは弾丸の矢といい、俺が現時点で使える弓の最高のスキルだ。
弾丸の矢。は弓のスキルだが狩人で覚えられるスキルではない。
狩人の上級ジョブの一つ「銃士」というジョブで覚えるスキルの一つである。
弾丸の矢はその名の通り、矢が弾丸のように回転しながら飛んでいくスキルで、その貫通力はかなり高く、しかも俺には、別スキルの追跡者というホーミングのスキルが常時かかっているので、おいそれと外す事はない。
銀鹿の弓から放たれた矢は、激しい雨風すらものともせず、弾のように回転しながら、ホネホネ船長の額の黒い石めがけて飛んでいった。
鉄の矢は若干弓なりの軌道をとりながら、今までで最速のスピードで、ホネホネの額の黒い石に向かって飛んでいったが、ホネホネ船長は頭を横にずらして矢を避けようとしたが、矢はホネホネ船長に当たる前にポップした。
ピシッ!パリーン!
鉄の矢は見事に黒い石に当たり、石は粉々に砕け散った。
アァァァァァァァァ~。
大きく口を開けながら嘆きのような悲鳴をあげ、ホネホネ船長の体から青白い炎がたったかと思うと、全身火だるまになりながらボロボロと体が崩れ落ちていき、マストの大きな青白い炎が少しづつ小さくなっていく。
俺達は激しい雨と風にうたれながら、じっとその様子を見ていた。
アァァァァァァァァ~。
ホネホネ船長が、断末魔の悲鳴をあげながら燃え尽きると、マストの炎が完全に消えた。
すると雨と風がピタリと止み、雷も止まると空も晴れてきた。
アンサー 「やったか。」
エドワード 「終わったみたいだな…。」
ベッキー 「勝ったの?」
カーミラ 「これだけやってアイテムも称号もないの?」
アンサー 「ほんまや!なんにもあらへんやんけ!」
エドワード 「称号もないのか?」
ベッキー 「ないね。」
俺 「確かにないな。」
D 「とりあえず終わったんだ。それでいいじゃないか。」
見れば幽霊船は闇に溶け込むように徐々にその姿を消していき、最後はまるで何もなかったように消えていった。
アンサー 「それもそうやな。」
エドワード 「文句を言ってもないものはないからな。」
ベッキー 「杖で我慢しときますか。」
カーミラ 「しょうがないね。」
俺 「それにしてもやつら、ずいぶんとDにご執心だったな。」
D 「俺がアイテムを取ってきたからだろう。」
アンサー 「そうだろうな。」
エドワード 「多分そうだろう。」
カーミラ 「Dには貧乏くじを引かせちゃったね~。」
ベッキー 「ごめんね~。」
D 「自分でした事だ。気にしなくていい。」
俺達はリベンジの可能性を考え、朝になるまで甲板の上で過ごした。
東の水平線から朝日が昇ると、部屋にいた用心棒達が甲板に出てきて俺達は揉みくちゃにされた。
「生きてたか!」
「生きてたぞ!」
「すごいな!」
「無事でよかった!」
みんな大はしゃぎだ。
「ロック兄ちゃん!」
ウィリーはそう言って、真っ先に俺に向かって走ってきた。
「ウィリー。」
「幽霊船に勝ったの?」
「なんとかな。」
「すごいや!兄ちゃんすごいや!」
「俺一人でやったんじゃない。みんなで協力したから勝てたんだ。」
俺はそう言ってウィリーの頭を撫でた。
船がスアレスの港に着き、俺達は船を降りた。
事務所に行ってクエストを終わらせた俺達は、みんなで港に集まった。
アンサー 「やっとアンゴール大陸に着いたな。ここから新しい冒険が始まるんだな。」
ベッキー 「そうね~。楽しみだわ~。」
エドワード 「それじゃあここでお別れだな。」
カーミラ 「そうだね。みんな自分の冒険を楽しんでね。」
D 「また会おう。」
俺 「そうだな。また会おう。」
アンサー 「それも冒険の1つだからな。」
「それじゃあみんな元気でね。」
カーミラがそう言って歩きだした。
「またね~。」
ベッキーもそう言って歩きだす。
「元気でな!また会えるのを楽しみにしてるぜ!」
次はアンサーだった。
「みな息災でな。」
エドワードは相変わらずのかっこつけだ。
「また会おう。」
Dもそう言って背中を向けた。
「じゃあな!また会おうぜ!」
俺もそう言って背中を向けて歩きだした。
こうして俺達のPTは解散したのだ。
その後俺はウィリーとおちあって街の食堂に行った。
「なんでも好きなもんを食べな。」
「いいの!」
ウィリーは嬉しそうに言った。
料理が運ばれてくると、ウィリーは美味そうに食事を始めた。
夜にはまた船に乗るらしい。
「無理するなよ。危なくなったら隠れてやり過ごすんだぞ。」
「うん。」
「逃げるのは恥じゃないぞ。生き残ってなんぼなんだからな。」
「うん。」
「渡した鎧は魔法がかかっているから、体が大きくなっても着れるからな。」
「そうなの!」
「ショートソードは買い換えなきゃならないがな。」
俺はそう言って笑った。
食事が終わり、ウィリーとの別れの時が来た。
「じゃあな。達者で暮らせよ。」
「また会えるよね!」
「きっとまた会えるさ。」
「スアレスの北にセレナって村があるんだ。俺の家がそこにあるから、セレナに来たら顔を出してよ。」
「わかった。必ず顔を出すよ。」
「村で一番貧乏だから、行ったらすぐにわかるよ。でも俺が稼いで村一番の金持ちにするから、その時にはわからなくなってるかもな~。」
ウィリーはそう言って笑った。
「それは楽しみだ。」
「それとこれを兄ちゃんにあげる。」
ウィリーはそう言うと、腰の革袋から何かを取り出した。
「なんだこれ?」
俺はウィリーからもらったものを見た。
それは木で出来た人形だった。
粗末な作りだが、かわいらしい顔が彫られていて、鼻が伸びた温かみのある人形だ。
「妹からもらったお守りなんだ。兄ちゃんにあげるよ。」
「そんな大事なものはもらえないな。」
「お兄ちゃんはおっちょこちょいだから、1個じゃ心配だって妹達から言われて2つ持ってるんだ。兄ちゃんにはよくしてもらったから何かお返しをしたいけど、俺が一番大事にしてるのはこれだから、半分兄ちゃんにあげる。」
「本当にいいのか?」
「兄ちゃんにはすごい鎧をもらったからね。」
ウィリーはそう言って笑った。
「ありがとう。」
「ありがとうはこっちのセリフだよ。ありがとう兄ちゃん。」
「じゃあな。用心棒頑張れよ。」
「うん!それじゃあまたね!兄ちゃん!」
ウィリーはそう言うと、元気よく駆け出して行った。
俺は港にホームポイントを設定してから部屋に入った。
「ご主人さまおかえりなさいだブー。」
「ただいまブーとん。」
「ご主人さまにお手紙がいっぱい届いているブー。」
「手紙?誰からだ?」
「Dさんとベッキーさんとカーミラさんと、アンサーさんとエドワードさんからだブー。全員お友達申請のお手紙だ
ブー。」
「友達申請か!」
俺はびっくりした。
そう言えばパゴス大陸にいた頃は申請してなかったな。
人が少ないからする必要もなかったからな。
そんな機能がある事すら忘れてた。
「すぐに承認して、今からいう言葉を手紙にして全員に送ってくれ。」
「なんて書くブーか?」
「よい冒険を。また会おう。」
「わかったブー。すぐに送るブー。」
「速達でな。」
「速達ってなんだブー?」
ブーとんはそう言って首をかしげた。




