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悪夢みたいな現実世界はイヤです!現実逃避させてください!  作者: 冴村彰
第1章 「回顧録からはじまる物語」
1/9

プロローグ 「現実逃避とMMORPG」

あんたは生まれてくる時に、重要な事って何だと思う?

タイミング?

環境?

それともどんな生き物で生まれてくるかって事かな?



急にふと思い立ってしまい、今から書き記す事にした、俺のこれまでの人生の回顧録の冒頭に書くには、少々ふさわしくない質問のような気もするが、俺の質問の内容は残念ながら、どれもこれも自分の意思では決められない事だよな?


こういうのをガチャガチャって言うんだったっけか?

それじゃあ、あんたのガチャガチャは当たりだったかい?

まだ終わってないからわからない?

逆転サヨナラホームランがあるかも知れないって?

そりゃあ羨ましい話だな。 



はっきり言って俺のガチャガチャはハズレだった。

しかもとびっきりのハズレってやつだ。

まだ終わってないから、わからないだろうって?

まぁそうあせらずに、俺の話を聞いてくれよ。


俺の人生を野球で例えれば、1回の裏が終わった時点で20対0ってところかな?

しかも俺の攻撃は、三者三球三振で終わったような気分だ。

こんな状況で逆転サヨナラが出来ると思うかい?

俺は物心がついた時には、とっくにあきらめがついていたんだよ。



今思い返してみても、俺は最悪のタイミングで最悪の環境に、最低な生き物としてこの世に生まれてきたんだなと思う。

まずはタイミングだが、非常に残念な事に俺が生まれた時には世界も社会もとっくの昔に、しっちゃかめっちゃかになっていたし、差別なんてもんは当たり前のようにあった。


人間はみんな平等だ。

命の重さは皆同じだ。

そんな言葉を信じているやつは、よほどの世間知らずか、恵まれた環境にいるやつだろうと俺は思っているし、結局は自分がどう考えて、どう動くかだけの事ではないだろうかと俺は思っている。

 

なんだかんだと言ったが、トータルで見れば俺は最悪の環境に最悪のタイミングで、最低な生き物として生まれたって事なんだろうなと思う。

世の中の大半の人達がそうであったように。



1/3ほどの確率で()()()()の家に生まれた子供は食うものや着るもの、住むところにも恵まれ、何不自由なく生きていく事が出来るし、俺みたいに2/3ほどの確率で、労働階級の家庭に生まれた人間はまぁ、あんたが今想像した通りの生活を送る事になるわけだ。

こう書けば大体はわかるだろう?

正直、今の俺は文字にするだけでも、うんざりなんだよ。


かと言って勘違いをして欲しくはないんだが、俺は両親を恨んでいるわけじゃないんだぜ?

父さんも母さんも、一生懸命俺を育ててくれたからな。



簡単に言えば、俺が生まれた国の人間は上級、中級、下級の三つの階級に分けられていた。

まずは上級だが、上級は全国民の10%にも満たない富裕層で、会社員なんか一人もいないだろうな。

なんかの経営をやっている、大金持ちというやつばっかりだ。


やつらは大きな持ち家に住んで、たくさんの召使いに(かしず)かれながら生活をしていて、なんでもかんでもやりたい放題で生きていたな。

政治家のほとんどが富裕層の出身か、富裕層に操られている傀儡なもんだから、自分達の都合のいいように法律を変えて生活していたんだ。

そりゃあ、向かうところ敵無しだわな。


次に中級だが、これは全国民の20%くらいだろうか?

こいつらは富裕層に媚びへつらう中間管理職みたいなやつらで、下級からはコメツキムシや、使い捨てカイロなどと呼ばれている。

三面記事を賑わすような、大きな事件の被害者は大抵、とばっちりをくらった中級のやつらだったな。


中級の連中は街の一軒家に住まわせてもらい、子供達に教育を施すために、毎日毎日、上級の連中に媚びへつらっていながら上と下に挟まれ、毎日胃が痛くなるような思いをしながら、下から上へのとばっちりをくらい続けていた。

最後は壊れたおもちゃのように捨てられるのに、ご苦労なこった。


最後は下級だが、全国民の70%以上は下級だった。

下級の俺は義務教育を終えると、すぐに働きに出て毎日毎日働いて、搾り取られるだけ搾り取られてきた。まるでごま油みたいな話だがこれが現実である。



俺達みたいな下級の人間が人並みの生活を送るためには、ごく限られた条件しかないんだが、どれもこれもハードルが高くってよう。

とんでもなく頭が良いか、人と違った才能を持つか、()()()()()()()を選ぶくらいしかなかったんだ。


人より優れたものがない下級は、毎日食うことに追われる生活を送る事になる。

毎日毎日、死なない程度に働かされて、経営者という名の富裕層のご主人様のために、馬車馬のように働かされていく事になるんだ。


頑張ったら会社で出世が出来るだろうって?

残念だがいくら頑張ったところで、係長止まりが精一杯なんだな~。

あんたらがどうかは知らないが、コネや賄賂が横行する俺がいた時代の、会社の課長職から上の役職は、先祖代々続くコメツキムシ達の椅子取りゲームみたいになっていた。

多少の変動はあるが、コメツキムシの子は必ずコメツキムシなるってこった。

たとえコメツキムシの子が、ゾウリムシであってもだ。


コメツキムシの子供に生まれるといいぞ~。

なんたって、食いたい物は好きなだけ食えるし、行きたいところにだって好きなだけ行けるんだ。

中には海外に留学なんて事をしている奴もいたそうだからな。羨ましいったらありゃしないよ。



俺なんか狭い社宅のワンルーム住まいだったし、食事は三食とも「牢屋飯」と呼ばれる、インスタントが合成パウチだった。

入院でもすれば話は別だろうが、よほどの事とかなりの覚悟がないと、本物の肉や魚や野菜、フルーツなんて滅多に口にできやしなかったな。


なんせ一房のバナナが、昼飯代の10日分もしたんだぜ?

たとえ体を壊して入院をしても、高価な生のフルーツをお見舞いに持ってきてくれる人など、数えるほどもいなかったよ。


バナナどころか缶詰を貰えただけでも大喜びだし、もし貰えたら退院してから一週間は、お礼を言い続けただろう。

この人は缶詰をくれたいい人だって、周りに言いふらしていただろうな。

バナナだろうがイチゴだろうが、好きな時に好きなだけ食える今から思えば、バカみたいな話だけどな。



そういえば世の中には、テーブルマナーなんてものがあるが、そんなもんも知らなかった。

箸かフォークかスプーンがあれば、合成パウチの食料なんていくらでも食えるんだし、そんな店に行く事もないから、マナーを覚える必要もないかったからな。

そもそも家にナイフがなかったからな。

今はテーブルマナーなんか、お茶の子さいさいだけどな。



たまには贅沢でもするかと外食に出たとしても、街にあるのは富裕層が経営するチェーン店ばかりだし、レストランだろうが飲み屋だろうが、味はそんなに変わらなかった。


個人経営の店がないんだから仕方がないんだが、個人で店を持つなんて夢は見るだけ無駄だし、頑張って店を出したところで、あっという間に潰されてしまうだろう。

富裕層ってのは、新参者の参入を嫌うからな。



俺みたいな独り者の食事は、三食とも社食で提供される牢屋飯がメインだし、料理なんて出来やしない。

たまには近所のスーパーやコンビニに買い物に行くこともあるが、都市部だと、どこの店に行っても富裕層が経営するチェーン店しかないし、品揃えも値段もさほど変わりがない。

どこで何を買っても、おんなじってことだ。


昔のTVを見ていて、街中華なんてものを初めて知った時は、昔はそんな店があったのか!うまそうだな!とすごく驚いたもんだ。

旅行だってそうだ。

自慢じゃないが俺は、自分の家から会社以上の距離があるところには、数えられるほどしか行った事がなかったし、たいていの人間はそうじゃないだろうか?


旅行に行こうと思えば行けない事もないが、そうなると面倒くさい手続きをいくつもしなきゃならないし、場合によっては仕事を休まなければならない。


仕事を休んでしまうと、休んでいる間に他の奴らに仕事を奪われる心配も出てくるし、1週間も会社を休めば、間違いなく俺の仕事は誰かに奪われるだろう。

俺はそんなリスクを背負ってまでして、遊びに行く気にはなれなかったな。



旅行も出来ないような生活は、つらくて大変だろうって?

そんな事はないんだな。

まずは、味もしゃしゃりもない牢屋飯をかき込んでからPCの前に座るだろ?

次にゴーグルをつければ、世界中のどんな場所でも目の前に広がっているんだ。頭の中での話だけどな。


だからいつでも好きな時に、好きな所に行きたい放題行けるってわけさ。

さすがに味も匂いも食感もわからないから、名物料理を目にすることがあっても、口にする事は出来ないし、これを旅行と呼ぶかどうかは、個人の判断によるだろうけどな。



じゃあ何を楽しみに生きてるんだって?

俺がいた世界の楽しみは大きく分けて三つあったな。

一つは酒やタバコなんかの嗜好品を嗜む事。

もう一つはギャンブルをやる事。

そして最後の三つ目は、趣味に没頭することだ。


食料品は合成パウチだろうが、インスタントだろうが冷凍食品だろうが、そこそこの値段だったが、酒とタバコだけは安かった。

たからみんなよく酒を飲むし、タバコもよく吸っている。


酒でも飲まなければ、体の疲れが取れないほど過酷な仕事も多かったし、タバコでも吸わなきゃならないほど、精神的にストレスだって溜まっていくから、そうなると酒、タバコ、それにギャンブルに走る人が増えるのは、当たり前のようになってくるんだ。



あんたらの平均寿命がいくつかは知らないが、俺がいた世界じゃ中級、下級は60才まで生きられたら御の字だな。

死因の大半は過労死で、男も女も15才になればいつでも結婚出来るし、30代で孫がいる人も少なくはない。50代後半でひ孫が生まれたなんて人はざらにいたな。

反面、俺みたいに24才で独身てのも珍しいほどでもなかったが、俺みたいに20代で独身の人は大抵、ゲームにのめり込んでいるな。

それが三つ目の趣味なんだ。


もちろん趣味は人それぞれだが、PCゲームは人気があるな。

世の中には数えきれないほど、いろいろなゲームがあるが、PCゲームはすべてダウンロード購入になっているから、PCショップにもゲームソフトなんて売っていないし、そもそもおもちゃ屋になんて行った覚えがないな。


基本的におもちゃは目玉が飛び出るような値段だから、買えもしないものをわざわざ見に行く気にはなれないし、おもちゃなんて買ってもらった日には、学校で大いに自慢が出来たな。

俺はそんな自慢をした事がないがね。

 

そんな時は味もしゃしゃりもない、牢屋飯を腹に流しこんでからPCの前に座るだろ?

次に耳にデバイスをつけて、さらにゴーグルをつければ、目の前にはゲームという異世界ってやつが広がるんだ。


だけどゲームにのめり込めばのめり込むほど、婚期は遅れていく傾向が高かったな。

中にはゲームにのめり込み過ぎて「ゲームが現実で日常がゲームだ。」なんて宣言する人はたくさんいたし、俺もその意見には同感だった。


ゲームにのめり込んでいる人の中には、ゲームの中に恋人がいる人も多かった。

中にはゲームで出会って、現実世界で結婚する人もかなりいたみたいだし、逆に次から次へと相手を変えていく人もかなりいたみたいだが、ゲーム内での恋愛は当たり前だったな。

かくいう俺もゲーム内で恋愛をしていたしな。


現実世界には夢も希望もなかったが、ゲームの中なら好きな事が好きなだけ出来るだろ?

ゲームの中でなら俺だってヒーローにも悪役にもなれるし、その気になればヒロインにもなれるんだぜ?

恋愛だって出来るじゃないか。


現実なんてゲームと比べれば、圧倒的に自由度が低いんだから、現実なんてタチの悪い悪夢みたいなもんさ。

Life is bad dream.

この言葉はまさに真理だな。



恋人だけじゃなく、友達も現実よりもゲームの中の方が遥かに多かった。

モニター越しに会話をするだけだけれど、それでも互いに親友と呼びあえる人だっていたからな。

「いつか会って話がしてみたいな。」ってセリフは大半の人が口にする、合言葉みたいなもんだった。


だって現実世界で会う人達のほとんどが、血の気の引いた顔をしていたしみんな覇気がないもんだから、顔を合わせてもお互い愚痴しか出てこないんだぜ?

たま~にある祝い事の話ならまだしも、そんな中で楽しい会話なんて、生まれてくるはずがないだろう?

傷の舐め合いにも限度ってもんがあるんだ。


現実では無口でも、ゲームの中では饒舌だったりして、人格を使い分けている人も多かったみたいで、変わった人も多かった。

そう言えばゲームの中で知り合った人に、お化けが見えると言っていた人がいたな。

仲がよかった俺には教えてくれたが、身近にいる人には絶対に話さないそうだ。

言ったところで、誰も信じてくれるわけではないし、信じて欲しいとも思っていないらしい。 

それはまぁ、そうだろうな。


「だって、見えない人にいくら見えるって言っても、確かめられないんだから、嘘かどうかがわからないでしょ?せいぜい嘘つき呼ばわりされるか、変人扱いされて終わりよ。」

その人はそう言って笑っていたが、結局はそういう事なんだろう。



少し話が逸れたが、要するに俺は最低最悪の環境にいたってことさ。

俺がゲームにのめり込む気持ちも、少しはわかってくれるだろうか?

俺は悪夢みたいな現実には、なんの魅力も感じていなかったんだよ。

そんな俺は当時、あるMMORPGにハマっていたんだ。




MMORPG(Massively(マッシブリー)Multi(マルチ)player(プレイヤー)Online(オンライン)Role(ロール)- Playing(プレイング)Game(ゲーム))とは、「大規模多人数同時参加型オンラインRPG」のことであり、「Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)」は対象年齢15歳以上の、国内ユーザー向けのMMORPGである。

月に4日分の昼飯代を払えば楽しめる、Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)は、数多(あまた)あるMMORPGの中でも人気の高い、実在しないくせに実にリアルなゲームなのだ。


ゲームを始めると、俺の脳内には現実と見紛うような美しい自然に溢れた広大な世界が広がり、エルフや小人(ドワーフ)、妖精などのファンタジー感溢れるメジャーなキャラクターは当然のこと、和洋折衷がおり混ざった、あまり知られていない、超マイナーなモンスターまで闊歩している。



今思い返してみても「Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)」というMMORPGは、かなり不思議でおかしなゲームだった。

一度に説明するのはかなり大変なので、順を追って書き記していくが、一番不思議だったのはゲームシステムだった。


Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)にはLvという概念はなく、LvやHPなどのステータスを始めとする、能力値のパラメータなどの普通なら可視化されるはずの数値が、一切表示されていなかったのだ。

唯一表示される数字はゴールドだけだった。



俺が言いたい事がわかるだろうか?

自分だろうがPTメンバーだろうが、モンスターだろうが、HPのゲージは見えるのだが数値が全くわからないのである。

殴ろうが殴られようが、ゲージは減っても数字は表示されないから、モンスターどころか、自分のHPとMPの数値がわからないのである。


ダメージを与えれば敵のHPゲージが減り、ダメージを負えば自分のHPゲージが減る。

魔法を使えば自分のMPゲージが減り、HPゲージが無くなれば戦闘不能になるか死ぬ。

それだけなのだ。


もちろん武器や装備の攻撃力も防御力もわからないし、魔法やアイテムの持つ効果の正確な数値もわからない。

ジョブをマスターするためには当然、経験値が必要だか、モンスターを倒しても経験値をどれだけ得られたのかが、わからないのである。


なんて不親切なゲームだろう。

五里霧中もいいところだ。

そう思う人ももちろんいるだろうが、逆の考えを持つ人もいる。

一般的なゲームと照らし合わせれば、確かに不親切で先の見えないゲームに思えるだろうが、現実と照らし合わせてみればどうだろう?

現実世界で数値化されているものは、いくつくらいあるのだろうか?


例えば道行く人の、力や素早さが見てとれるだろうか?

目の前を歩くよぼよぼのお爺さんが、自分より弱い存在だと断言出来るのだろうか?

ひょっとしたら、すごく高名な武道家かも知れないし、とんでもない策士である可能性もあるではないか。

むしろそう考える方が自然ではないだろうか?


Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)というゲームはそういうゲームなんだと思えば、すんなりと受け入れる事が出来るし、俺はそう受け入れたのだ。

 


一度受け入れてしまえばあとは簡単だった。

Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)というゲームは、俺の中では今までにはない、画期的で面白いゲームになったのである。


Pioneer(開拓者の) Saga(英雄讃)には他にも、まだまだたくさんの魅力があるのだが、さすがに一度には書き切れないので、これからを楽しみにしていただきたい。

少なくとも、起きて働いて食って寝るだけの夢も希望もない悪夢みたいな現実とは、比べものにならないくらい楽しい世界だという事が伝われば幸いだ。


おっと。

どうやら妻が俺を呼んでいるみたいだから、今日はここまでにしよう。

声から察すると、今日も妻は機嫌がいいらしい。

昨日は大きな肉の塊が安く買えたと喜んでいたし、一昨日は隣のおばさんから、芋をたくさん分けてもらったと喜んでいたけど、今日はどんな良い事があったんだろう?

話を聞くのが今から楽しみだ。

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