29 一人で帰れます
私はエド王子にお姫様抱っこをされてしまっていた。
逃げ出さないようにだ。
「離してください」
って言ってみたけど、
「それは無理だ」
って言われて睨まれた。怖かった。
大声を上げたいけど、目立つのは嫌だ。
そして、大声を上げたところで相手は王子。
たとえ誰かが助けてくれようとしたとしても、
さっきのマーサのように何も言えなくなってしまうのだろう。
暴れてみても全然降りられない。
ビクともしない。
今の自分は非力。単なるか弱い女子だ。
どうしてこうなってしまったんだろう。
エド王子が待たせていた馬車にそのまま乗り込む。
登場した時とは別の、目立ちにくい普通の馬車だった。
馬車の中でもそのまま抱っこされていた。
ここまで執着する意味がわからない。
「何でですか、エド様。…私に対しての執着がわかりませんよ?」
恨みがましい感じで、ヤケになって聞いてみる。
「フッ。…そういうところだろう。
見た目が風子だし。
逃げられると追いかけたくなる」
追いかけたくなる?
逃げなければいいのかなぁ。
今逃げるのをやめても遅いか。
最初から逃げてばっかりだったしな。
それにしても、密着度がすごいよね。
お姫様抱っこ…
あまり考えちゃいけない。
でも、赤面するのは止められない。
馬車が停止した。
「ローブ持ってるか?」
「ありますよ」
お姫様抱っこからやっと解放され、
ドレスなどを入れていた4次元カバンから黒いローブを取り出す。
男子寮に女子を連れて入るのはまずいので、
目立たないようにフードを被って行くことになったのだった。
「一人で行けますよ」
って言ったけど、エド王子は結局寮の部屋の前までついてきてしまった。
コリンの部屋。二階の端っこの部屋だ。
誰かに見つかった時に記憶を操作してくれるという理由だった。
確かにありがたい申し出だった。
幸い誰にも出会わなかったけれど。
そろそろ寮に戻ってくる人もいるだろう。
馬車の御者さんは問題ないらしい。
王家で雇ってる口の硬い人を連れてきたそうだ。
私たちは部屋の前で揉めた。
一応、防音結界を張ってある。
「エド様、離れてください、部屋に入れないじゃないですか」
私は部屋の鍵を出し、手に持っているけれど、
開けたらエド王子が入ってくるかもと思うと、どうしても開ける気になれなかった。
「何もしないから、早く部屋に入れよ。
誰か来たらどうするんだよ」
「だったらもっと離れてくださいよ。そうしたら安心できますから」
「何もしねーよ」
信用できない。
いつも優しかったレベッカ(ヒナタ)だって、
何もしないって言ったのに嘘だったんだ。
あの後私がどうなったか…
そもそも、エド王子に付きまとわれたのも、
レベッカと入れ替わってからだ。
それに、今ここに誰か来ることより、
エド王子がここにいる方が危険な気がする。
彼の部屋は、コリンの部屋の真上だ。
ここで別れても問題ないはずなのに、
なかなか離れていってくれないのは何故なんだ。
押し問答を続けていると、
階下から、微かに人の声が聞こえてきた。
本当に人が来た。
それに気づいたエド王子は私から5メートルぐらい離れた。
「早くしろ」
エド王子がやっと離れてくれた。
私は焦って鍵を開け、ドアを開いた。




