28 逃走
私はエド王子から逃げないといけない。
でもどうやって?
いい考えが浮かばない。
「エド様、私はそろそろお暇しようと思います」
「なら俺が部屋まで送ろう」
げっ…それは勘弁。
「1人で帰れますよ」
私は笑顔を貼り付けて言う。
「どこに?」
エド王子に冷静に問われる。
「えっと…」
ヤバい!男子寮だ!
「えっとですね…まずこのドレスを着替えて…」
「ではそうするか」
手を引かれた。
エド王子の腕に手を誘導される。
エスコートというやつだよね。
腕に掴まって歩く。
さっきも会場に入って来るときにやったけど。
あの時は、緊張と混乱で頭が真っ白だったから。
今の状況はすごく照れるなぁ。
自然に手を誘導された。
うわ、どうしよう。
こんな事でドキドキしてしまう。
王女の控え室に着いた。
お姉ちゃんがエド王子に連絡してくれていたようだ。
そういえば、私の荷物もここに置いてあるんだった。
肩から掛けられる4次元カバンで、そんなに大きくはない。
エド王子は外で待っているという。
王城から呼ばれたであろう侍女さん達が数名待機していて、
ドレスを脱がせるのを手伝ってくれた。
髪型も慣れた感じであっという間に整えてくれた。
さすが、王城の侍女さん達は優秀だなと思った。
それにしても、本当は男装に戻りたかったんだけど。
女子の服装をするしかなかったんだ。
無難にワンピースを着る。
レベッカに比べると地味な女子だ。
よし、地味最高。
それでも、他の出口がないか一応聞いてみる。
「エドモント殿下が待っていらっしゃいますよ」
と、にこやかに言われてしまった。
そうか…たぶんここにいる侍女さんはエド王子の味方だ。
お礼を言って、諦めて部屋から出る。
エド王子は私を見ると、嬉しそうに笑う。
それを見ると、心臓がギュッとなる。
これってエド王子にときめいている…のかな?
ダメダメ。絶対そんなことあるわけない。
ドレスを脱いでこんなに地味になった自分を見ても、
彼は嬉しそうだった。
また腕を組んで歩いていく。
「エド様。一人で帰れます」
「エスコートするっていうのは、家に送り届けるまでだ。
もう外も暗いし、疲れただろう。送っていく」
えー。
私だって男装のコリンになれば容易いよ。
そうすれば走って帰るよ。
ダンスホールの前で、エド王子は馬車を呼んでくれるみたいだ。
御者さんと何か話している。
私は彼の注意が逸れたその隙に、建物の陰に隠れた。
すると、なんとそこにはキャロルさんがいた。
「風子、こっち」
腕を引っ張っていかれる。
逃げやすい道に誘導してくれているようだ。
一緒に小走りで移動した。
「何でここに?」
「心配だったんだよ。
あんたのことだから、今になってエド様から逃げたいんでしょ?」
「うん…」
「あんたが思っている以上に執着していると思うよ、あれは。
気をつけた方がいい。
私たちの用意してる控え室があるからそこで着替えたらいいよ。
そこなら男性に戻るのも大丈夫だから」
「…うん」
良かった。何とかなりそうだ。
「それにしてもすごいね。前世の風子だよね、その顔。
変身したんだ?」
「エド王子とレベッカを一緒に踊らせたくなくて。
前から用意してたんだ」
「そっかー。それでか」
「あかりちゃんは、コリンと踊るはずだったんじゃないの?」
「それはないよ。初めからあんた達が入れ替わる予定で動いていたから。
ごめんね、あまり早い段階で計画を明かすことができなかったんだ。
もしかして誤解してた?」
「私の婚約者が取られたと思って」
「やっぱりそうなるよね。ヒナタ、詰めが甘いな。
風子の気持ちや行動力を甘く見ていたよね。
それでこんな困った状況になってるのに」
ダンスホールから比較的近い建物の一階部分。
そこに控え室があるそうだ。
私たちは建物に入って、廊下を少し進んだ。
あるドアの前に立って入ろうとしたところで、後ろから腕が伸びてきた。
「あっ?ーーー」
「あかりには悪いけど、風子は貰っていくよ?」
エド王子が後ろから私を抱きしめるように拘束していた。
そして、もう片方の手を伸ばしてあかりちゃんを瞬時に眠らせてしまった。
彼は彼女のことも倒れる寸前で抱きとめ、ドアと反対側の廊下の隅に移動させた。
物音に気付いた侍女が部屋から出てきた。
レベッカの侍女、マーサだった。
私はあとちょっとの所で捕まってしまったみたいだ。
マーサはエド王子に何も言わない。
きっと王族相手だから何も言えないのだろう。
驚き、戸惑っている様子だった。
「彼女を頼む」
エド王子はあかりちゃんを見ながらマーサに向かいそう言うと、
私を抱きかかえてその場を去った。
あかりちゃんはヒナタ側というよりも、
単純に私を心配して助けようとしてくれていたんだろうと思った。
でも、今さら気付いても遅いのかもしれない。
不機嫌そうなエド王子は、私を横抱きに抱っこして、ズンズンと来た道を戻っていく。
私はどうなってしまうんだろう。




