27 ダンスホール
私はダンスホールの前で、
目立つ登場をしたエド王子とレベッカの前に立った。
「エド様」
声をかけた。
エド王子も、ついでにメガネ姿のレベッカも、驚いたように目を見開いた。
「風子…?」
エド王子が呟く。
しばし、沈黙が訪れた。
私はレベッカの容姿でエド王子の横に並びたくなかった。
前世の自分の顔を少しだけ今世風にアレンジして変身したのだ。
前世の、高校生ぐらいのイメージだ。
髪の毛はコリンと同じ茶色にした。
瞳はそのままの緑色だ。
体型はレベッカのドレスを着るために、レベッカと合わせてある。
それにしても、もうちょっと反応があっても良さそうなんだけど。
やっぱりおかしかったのかな?
不安になってきた。
エド王子に贈られた青いドレスと、それに合わせたコーディネート。
髪も、侍女さんが結ってくれた。
変じゃないはずだ。
やっぱり前世の自分では顔が地味すぎたのかな…?
この顔ならすぐに私だとわかってもらえると思ったんだけどな。
「…あのー…」
爽やかな風が吹いた。
これは鑑定?
エド王子がツカツカと寄ってきて私の肩を抱いた。
「レベッカ、今回は俺の勝ちみたいだな」
不敵に笑った。
レベッカ…ヒナタ、悔しそう…。
私はエド王子に、そのままダンスホールに連れていかれてしまった。
周囲の人たちは呆気に取られていた。
「エド様、ヒナタと踊るつもりだったんですか?」
「ああ、そうするしかなかっただろう。そういう罠だったんだろうし。
寮に迎えに行った時にレベッカがヒナタになっている時点で、
俺の負けだと思っていたけどな」
勝ち負けの問題だろうか?
この雰囲気からすると、私、ここまで頑張らなくても良かった気がする。
エド王子にとんでもなく自信を与えてしまったかもしれない。
これで良かったのだろうかと、不安が胸に押し寄せた。
「お前が来てくれて本当に嬉しい」
うわっ、イケメン王子のスマイル。
眩しすぎる。
本気で嬉しそうな笑顔。
後ろから女子達のため息が聞こえた。
ど、どうしよう、ドキドキが止まらない。
ダンスホールの中央に連れていかれる。
一番注目される場所だ。
頭が真っ白になってしまった。
地味に生きていきたいのに、これはない…。
なんて事をしてしまったんだ!自分!
「おい、お前大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃないです!」
泣きそうになってくる。
「俺だけを見てろ」
「………」
「って、言いたいけど、やめとく。緊張してるんだろ?
俺も緊張してる」
抱きしめられる。
エド王子も鼓動が早い。
完全無欠のように思っていたけど、そうでもないの?
ぼーっとしてきた。
どっかで女子の悲鳴が聞こえた気がする。
それはそうか。目立つ所で抱き合ってしまったんだから。
「いつもの練習通りでいい」
もう音楽は始まってる。
私達も踊り始めた。
緊張も通り越してしまった感じだ。
そう、これは練習だと思うことにする。
夢だ。夢の中で練習してるというイメージで行こう。
実際、眩しくて夢みたいなんだ。
自分が王子と踊る日が来ようとは。
エド王子はリードが上手い。
練習の時も思っていたけど、自分がダンスが得意だと錯覚してしまう。
楽しい。
そんな感じで3曲目に突入したんだけれど、
レベッカの時のようには体力が続かなかった。
やっぱり変身に魔力だけでなく体力も使われてるんだ。
3曲目が終わって、私達はダンスを終えることになった。
エド王子と踊りたい令嬢も集まってきたが、彼は上手く躱していた。
どうやってあの誘いの数々を躱せるのだろう。
でも私はもう考える余裕がなかった。
疲れていた。
それでもやらないといけないことがある。
会場の脇に、ビュッフェコーナーがあり、
軽食が食べられる。
その辺で寛ぎつつ、エド王子から離れるチャンスを伺うのだ。
実際に、エド王子はどうしても外せない用事で数回離れていった。
でもお腹が空いていた私は、ある程度お腹を満たす。
腹が減っては戦はできぬと言うよね。
そういうことなんだよ。
私は食い意地が張った女なのだ。
そろそろ本格的に逃げないと、と考えて、1人で出口に向かっていると、
レベッカ…ヒナタ…が目に入った。
レベッカは伊達メガネを外している。
そうだね。元々の黒い瞳を隠す必要はない。
レベッカは若い男性とダンスを踊っている。
若い男性はコリンに似ているけど、コリンは私。ここにいるわけで。
誰だろう?
その男性のほうはメガネをかけている。濃い緑色の瞳。
よく知らない人が見れば、コリンだと思うんじゃないかな。
気にはなったけど、この場を離れようと思った。
すると、公爵令嬢のイザベラ様がすぐ側に立っていた。
「レベッカさんですよね?」
小声で言う。
私は戸惑った。
「大丈夫ですよ。事情は知ってます。
内緒にしますから。ふふふ」
楽しそうに笑われてしまう。
「驚かないでね。
あそこにいるレベッカさんが踊っているお相手は、陛下ですよ」
そう、伝えてきた。
えっ?陛下?
国王陛下?
あのコリンが…?
「こっちのレベッカさんと同じように、変身したのでしょう。
粋なことをしますよね」
「粋なこと?」
「ああ、来たわ…私はこれで」
彼女は私の疑問に答えることなく、にこやかに去って行った。
振り返ると、エド王子が立っていた。
うわ、私、逃げようとしたのにイザベラ様に引き止められたらしい。
エド王子も微笑んでいる。
元婚約者同士、2人で内緒のアイコンタクトですか?
なんだか怖い。
レベッカも、陛下に足止めを食ってるのかもしれない。
だとしたら、エド王子と一緒にいるのは、
私にとって、ますますマズいことになるのではないだろうか。
嫌な予感がした。




