8 告白
あれから1週間ほど経って、再び王都の伯爵家(別邸)に戻ってきた。
本当は伯爵領の広い本邸の方が、魔法の特訓には向いているような気がする。
王都の方が、様々な魔法書が手に入りやすいという利点はあるのだけど。
クロウには結局、この2ヶ月ほどの自分の態度で振り回してすみませんでしたと謝った。
そして、自分の秘密をある程度話すことにした。
幼少期から一緒にいてくれている、信頼できる人物だと思っているから。
家族よりも近しい存在かもしれない。
本邸で兄と話した後、考えた末に決断した。
前世の記憶を思い出して、心は女なんです。…と。
こういうことは内緒にしてたら良くないんじゃなかろうかと思ったのよ。
知らされないままモヤモヤを抱えて過ごすうちに、2人の間に溝ができるものなんだよ、きっと。
こういうのでギクシャクするのは嫌だ。
「クロウ、実は私、女なんだ。
前世の記憶が戻っちゃったの。
ここ最近ずっと避けたり振り回してごめんなさい。
これからもよろしくお願いします(ペコリ)」
いざ伝えたら、
「は?」
ポカーンとしてた。いつもしっかり者のクロウが。
「そ、それは冗談でしょう?まさかそんなことがあるわけーーーー」
「あの、見た目はコリンのままだし、コリンの記憶もあるんだよ。
ただ、考え方とかが前世の女性っぽくなってしまっただけで」
「信じられないのもわかる。私自身も最初信じられなくて混乱しちゃったし。
クロウが信じられない気持ちを持つのも当然だと思う」
「コリン様であるけれど、前世の記憶もあるーー?」
しばらく間があった。
そりゃあ混乱もするよね。仕えるお坊ちゃまがおかしいこと言い出したもんね。
クロウがしばらく考えた後、
眼鏡の奥の目が、キラーンと光った気がしたけど、気のせいだろうか。
面白いもの見つけた、って感じ。
まぁいいか。
「坊ちゃん大丈夫ですよ。私は女の子が大好きなので。
男性の身体には全く興味はないですから。
あ、でも、着替えや入浴の際は気をつけますね。
気持ちの問題もあるでしょう。
…なるほど、そういえばあの夜から私との距離感に変化がありましたね。
ほほう…なるほど」
何やらいろいろ思うところがあったらしい。
また真顔でしばらく考えこんでいた。
あ、あっちを見て、今度はニヤニヤしてる。
私に見えてないと思ってる?ニヤついてるの気づいてますよ。
しかし何を考えてるんだ?男ってわからん。
自分も今は男ですけれど。
「こんなこと言って勝手だとは思うんだけど、家族にも誰にも内緒にしてくれるかな?
心配かけたくないんだ。おかしなやつと思われるだろうし」
いや、もしかしたら家族にもおかしいとは思われてるかもしれないけど。
「承知いたしました」
その後は、兄様と打ち合わせをした。
アイリス王女との面会のことだ。
兄様にはとりあえず、私の前世の記憶のことは伏せることにした。
できれば混乱する人間を増やしたくはない。
王女がお姉ちゃんだったとする。
会いたい気持ちはある。
会いたくない気持ちも正直ある。
私だって女子だったのに、男に転生した。
お姉ちゃんだけ美しい王女ってズルくない?って気持ちはやっぱり持ってしまう。
妬ましい、羨ましい、って思う自分が嫌だな。
でも、何回か会いたいと打診されているというのは、やっぱり何か理由があるのかも。
あちらも何か気づいているのだろうか。
前世の記憶はあるのだろうか。
数日後、アイリス王女の非公式のお茶会に呼ばれることとなった。
何を話すのだろう、ドキドキする。