陛下との密約(ヒナタ視点)
侯爵令嬢であるレベッカとして、
陛下とはたまにお会いする。
陛下は気さくな方だ。
クロウからコリンのことを聞いて、
魔法学園に無理を言って入学させてもらったり。
コリンとのお見合いをどうしても実現したくて、
コリンの実家のフォレスト家に、陛下から圧力をかけてもらったり。
こうして考えると、我ながらけっこう悪どいな。
その対価として、強い魔物が出た時は率先して動くようにしている。
騎士団や魔導師団が出動するより早いからだ。
取れた素材や魔石も、お土産として何割か献上するようにしている。
騎士団や魔導師団の邪魔をするつもりはない。
魔物討伐の場所やスケジュールも流してもらい、
邪魔にならないように気をつけている。
魔物が増えすぎた場所にも率先して動く。
まぁ、私が学園に入学してからは、主に兄様が行ってくれてるんだけど。
私が実力をつけ始めてから、
私の実家のエヴァンス家は何も言わなくなった。
正妻の私の母以外に側室もいる我が一族は内部で分裂していたのだが、
私が魔物を倒して持ち帰る戦利品により経済的に潤うようになり、
王家とも繋がりを持つようにもなり、
結果的に私に何も言えなくなったのだ。
陛下には今回、コリンとの婚約を進めてもらった。
その対価として提示されたものが、私にとっては少々問題があるものだった。
エドモント王子のレベルを上げる手伝いをすること。
ライバルの手伝いじゃないか…。
コリンとの婚約の前に、
エド王子がレベッカと婚約すると騒いでいた、
例のあの事件。
公の場ではなく、私的な場でのことだったらしいが…
陛下も、息子がそこまで望むのならばと、心が揺れたそうだ。
黒髪で黒い瞳のレベッカは、外見で言えば不利だが、
身分的には第2王子の相手として申し分ない。
レベッカの強さを王族が握ることにもなり、一石二鳥、三鳥にもなる。
それを回避して、別の男性と縁を結びたいということなのだから、
陛下も何らかの見返りが欲しかったのだろう。
今、エド王子は単独で修行に出ているそうだ。
親としてはそういう危険も減らしたいのだろうなと思った。
私は、コリンとの婚約だけは絶対ということで進めてもらい、
エド王子の件はここに本人がいないことも強調し、一度話を持ち帰ることにした。
やらないならやらないで、別の形でどうにかするつもりだった。
次の週に、風子とアイリス王女は、コリンの兄のアランに秘密を話した。
風子は、アラン様に対して、色々誤魔化しがきかなくなっていたようだ。
年末からコリンになり、レベル上げに行ってしまって帰らなかった私。
その後、元に戻ってから強引に婚約を進めた私。
色々自分勝手な事をして迷惑をかけまくってしまっていた。
私からも、アラン様に説明する機会をもらい、
コリンとして時々別邸にも顔を出すことに決まった。
私の実家のエヴァンス家は、家族内で揉め事も多く、仲が悪い。
ずっと帰らなくてもそれほど問題はない。
王都に別邸も数軒所有し、帰る家も派閥に合わせてそれぞれ別にあるぐらいだ。
本妻と側室がいて、それぞれ子供がいて。
髪色や瞳の色の偏見もあり、相当複雑な家庭だったと思う。
幼い頃は本当に居心地の悪い家だった。
フォレスト家ではそういったことはなく、定期的に帰った方がいいらしい。
家によっていろいろあるんだな。
フォレスト家の別邸に出入りしていると、意外な人物に出会った。
エド王子。
いつのまにか、クロウとレベル上げに出ていたそうだ。
これがレベッカと婚約すると騒いでいたエド王子だと知って、
クロウも驚いていて、複雑そうだったが。
クロウの命の恩人らしいので、あまり揉めるようなこともなかった。
レベル上げについて話していると、
案外この3人でいけるような気がしてきた。
陛下から提案された件。
レベッカではなく、コリンでやればいいのではないだろうか。
ライバル同士という点ではあまり気は進まないが、
レベル上げということでは面白くなりそうだ。
後日、コリンの姿で陛下の元を訪ねた。
「驚いたよ。その姿は…」
「コリン・フォレストです。私の婚約者です。陛下」
頭を深く下げる。
「なるほど」
陛下は、私の事情を知っている。
私の前世が男性であることも。
術で他者と入れ替わることも、
エド王子の想い人のことも。
エド王子が想っているのは本当は私ではないことも。
爽やかな風が吹く。
《バチン》
私は陛下の鑑定を弾いたらしい。
「ハッハッハ、これは面白いな。
もうここまでレベルを上げてきたか」
「以前話があった件は、この姿でも問題ないでしょうか?」
「そうだね。問題ないよ。
存分にやってくれ」
陛下は満足そうに微笑んだ。
こうして私は、エド王子と行動を共にすることになった。




