56教室にて
私はようやくヒナタに会うことにした。
最近外してあった、例の位置情報ペンダントをつけた。
しばらくすると、ヒナタは現れた。
2人で、空いている教室に移動した。
勝手に婚約を進められてしまったことに文句を言おうと思ったんだけど。
「急ぎ過ぎてごめんね」と、謝られた。
「そういう縛りがないと、風子がどこかに行ってしまうと思って不安だったんだ」
「何で?」
「俺が女子に戻った途端、キスするの拒まれるしさ。
また入れ替われたとしても、
クロウのところに行ってしまうんじゃないかとか心配だったんだよ」
ああ、そうなんだ。
確かにクロウは誘ってきそうだよね。
実際私もフラフラ行ってしまったこともあったし。
…でも、クロウの前世の人物とは、あまり良い思い出がなかったと思う。
どういうきっかけで付き合ったのかなど、詳細までは思い出せないけれど、
私はこっ酷く振られた側だというのは思い出せた。
だからなのかな、あまり近づく気にはなれない。
「最初から、あいつが風子の側にいるって知ってたから、
俺は風子の気持ちを自分に向けようと必死だったんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。
だって、ああいう奴が好みのタイプでしょ、風子は。
メガネ男子だし。細身だし。美形だし。
俺のこの姿じゃ絶対勝ち目がない。だから時間をかけることにした」
そうだったんだ。
「でも、風子は結局俺を選んだと思ってたのに。
あんなシーンを見せられて平気だと思う?」
別邸の部屋でクロウに迫られてたことか…
「ごめん」
だからなの?
クロウの前でキスさせたのは。
私が自分のものだというアピールだったのだろうか。
「エド王子のことだって、まだまだ不安だよ」
ええっ、そうなの?
「風子がレベッカになって、エド王子と結婚した方が玉の輿なわけだよ。
レベッカの黒い髪と黒い瞳は、この世界ではハンデなはずなんだけど。
あの王子はそんなこと気にしちゃいないだろうし。
風子がいつか取られるんじゃないかと思うとヒヤヒヤしてる。
だからそれもあって婚約を急いだ。許して欲しい」
「ヒナタ…」
そんなに不安にさせてたなんて気づかなかった。
「風子は俺だけを見ていて欲しい。
男として見て欲しいんだ。
…だから、そろそろ入れ替わろう?」
「…やだ。
入れ替わったら置き去りにされちゃうから。
レベル上げの旅に行って戻ってこないんでしょ?」
「ごめんね。そこはどうしても、前世の風子のつもりで接してしまって」
「前世の私?」
「今もけっこうそうだと思うんだけど、
1人でいても平気そうなところとか、
俺が何かに夢中になっててもほっといてくれて、
帰ったら帰ったで迎え入れてくれそうなところとか」
「ヒナタ、けっこうわがままだよね」
そんなに都合のいい女じゃない!……はずなんだけど。
「それ、前世でも言われてた」
「今の私は、前世とは違うよ。
モテない女の生まれ変わりだから…」
「モテない?」
ヒナタは首を傾げていた。
他に誰もいない教室の隅。
ヒナタが抱きついてきた。
ヒナタがレベッカなので、頭を見下ろす感じだ。
「キスしたい」
ヒナタが言った。
「えっ…」
女子寮の裏でキスしたことを思い出してしまった。
それでこうして抱き合っていると、なんだか堪らない気持ちになる。
身をよじって逃げようとしても、離してくれない。
強い力を入れられている感じはないのに。
ヒナタは、胸元にペタッとくっついてくる。
変な気分になってきて、耐えられなくなってきた。
何これ?ドキドキして苦しい。
好きな人とくっついているって、こんな気持ちになるものなんだ。
「ヒナタ、入れ替わろう」
とうとう自分から切り出した。
信じられない。
さっきと言ってること違うって自分でもわかってるのに。
「いいよ。集中して?」
目を閉じて唇が軽く触れ合うと、一瞬の衝撃の後、入れ替わっていた。
迫力のある黒い瞳に見下ろされる。
好きだなと思った。
それから唇を塞がれた。
ゆっくり深くなっていった。
ずっとこうしたかった。
たぶん、ヒナタにもその気持ちを見透かされてる。
ずっとこうしていたい。
こう思ってる時点で、もうヒナタにハマってるのかな。
婚約の先の結婚まで考えると、この先がちょっと怖くなってしまう。
でも、もう私は、心ではヒナタのことを選んでいるんだと思った。
キスの後で、
「ヒナタ、レベル上げに行ってもいいけど、
あまり長いこと放ったらかしにしないで。寂しくなっちゃうから」
そう言って彼の胸元にギュッとしがみついてみた。
ヒナタの鼓動が早い。
「わかった」
私はまた唇を塞がれる。
その後しばらくして、私を抱きしめながらヒナタがつぶやいた。
「自分から煽ったけど、けっこうキツイな」




