4 王都での散策
私が前世を思い出した次の日からも、王都郊外の伯爵邸にて、まだ数日滞在する予定だった。
今世の兄は将来伯爵家を継ぐ身であり、社交的な性格もあり、予定がいろいろあった。
領地には一緒に帰ることにしていたので、私も王都生活を満喫することにする。
魔法学園を訪れた次の日、信じられないことに、王女から、兄の友人を介してお茶会のお誘いがあった。
弟さんも一緒に是非ということであった。
でも断った。
兄のみ参加することにして、私は体調不良という事で欠席した。
どんな意図かもわからないし、前世の姉なんじゃないかなーって思うと、どういう顔をして何を喋っていいのかわからなかったから。
危険は避ける主義なんだ。
そして実際頭をしこたま打って、怪我をしたのは事実である。
その間に、無理のない範囲でいつもの剣の稽古、魔法の自主練習、魔法書を読み漁ったりする日々だったんだけど、
何せ前世の女子の記憶が入ったことによって、クロウといるのが気まずいなと思い始める。
近くにいると落ち着かない。
本来男性は苦手だ。
今は自分も男性なのに。
クロウの方はというと、表面上、業務上何も言わないけど、何かに気づいた雰囲気を出してくる。
無駄に色気を感じるし。なんとかして欲しい。
遠くで見てるだけならいいんだ。
でも接触が多すぎて意識しすぎてしまう。
着替えも手伝おうとしてくるし。
嫌だ…裸見られたくないし。男性同士とはいえさ…。
大体、男性の身体、気持ちが女では、将来が見えない。
私の気持ちが女性である限り結婚は誰とも無理だ。
相手に女性を選ぶのは違うと思うし。
男性を選ぶのはもっと無理だし。
なんでこんな状況になってしまったんだろう。
この記憶が消えることはこの先あったりするのだろうか。
そんなわけで、ある日1人で散歩に行くと言って、郊外の端っこにある森に行ってみることにした。
庶民な服装をして、危険があるといけないから剣だけは持っていった。
あまり歩いたことがない街だ。
試してみたい魔法がいろいろあった。
氷魔法は水魔法から派生していて、屋敷内でやらかすと水浸しになってしまうのだ。
実際ちょこっとやらかした。
後始末が大変だった。
今度は水を集める方法も調べておこう。
空気中の細かい水分を集めることができればいろいろ応用もきく。
繊細な作業かもしれない。イメージでやれるかな?
もしできたとしたら、洗濯物を乾かしたり、髪の毛を乾かしたり、
室内の湿度を調整したりできるかもしれない。快適に過ごせそうだ。
ただこの世界で自分で洗濯をやることはないのだが。
破滅フラグがあって、庶民になることがあれば、その時は活かせそうだな。
魔法の練習は外でやるにしても、王都の屋敷では地方の伯爵領ほど広い庭があるわけではない。
でももっともっと規模が大きい魔法も試してみたい。
大雨を降らせたり、嵐を起こしたり。
水や氷以外の魔法も試してみたい。
そんな気持ちが大きくなっていたのも事実。
道をなんとなく記憶しながら、森の中に進んでいく。
あんまり奥まで行かなければ大丈夫だろう。
さっそく、水や氷の規模が大きいものをいくらか試してみた。
呪文はいろいろあるが、イメージして無詠唱もできるようになった。
前世の小説で読んだのを試してみたらうまくいった。
これってけっこうチートかも。楽しくなりそうだ。
魔力も、限界近くまで使い切ると、増えるような気がする。
だから魔力を毎日たくさん消費するのが目標だ。
森ではたまに出くわす魔物を倒すと強くなる気がする。
私はもともとオタクだったけれど、
ここにはテレビもゲームもネットもない。
つまりこの世界にはオタクのする趣味がないに等しい。
現実でやれる事をやるしかないのだ。
そんな中で、魔法は新しい私の趣味になりそうな予感がする。
剣の訓練も続けよう。
もともとコリン少年の特技は、社交の場に出るよりも魔法や剣の道だろう。
その方面で出世して、王女とお近づきになって、と、思っていたのだし。
中身が女子になっちゃったのは残念だけど、私もできそうな所までは頑張ってみよう。
この状況で、結婚だけは頑張っても無理だろうけど、それ以外は頑張ろう。