48クロウの初恋
私は客室に通された。
驚くことに、この女っ気の少ない屋敷で、
私のサイズピッタリの服や身の回りの品が用意されていた。
なんだか不穏なものを感じる。
夕食はクロウが部屋に運んでくれた。
夕食後にお茶を淹れてくれながらクロウが言った。
「この1ヶ月ほど、坊ちゃんに会えなくて寂しかったです」
そうなんだ…。
私はどうだっただろう。
いろいろな事があって、生活が変わってしまった。
「今から私の初恋の話をしてもいいですか?
知りたがっていましたよね?」
「ああ、うん」
クロウからこんなことを言ってくるなんて、なんだか嫌な予感がするけど。
知りたいなと思った。
「私の初恋の相手は、年下の従姉妹です。
私の母方の一族は、黒い髪と黒い瞳の色で、世間から虐げられてきました。
一応貴族ではあるのですが、あまり裕福ではありませんでした。」
淡々と語られる。
「私の母親は身分的にそう遠くない家に嫁ぎました。
社交界にはほとんど出ることはありませんでした。
母の妹は、上位貴族に見染められて嫁いでいきました。
この叔母も、母と同じく社交界には出ませんでした。
そしてそこでもやはり偏見はあり、家族や兄弟の間で分裂が起きていました。
叔母の家に生まれた従姉妹の遊び相手と世話係を兼ねて、
少し歳の離れた従兄弟の私が呼ばれました。
同じ、黒い髪と黒い瞳だったから。
幼い彼女はとても可愛らしく、活発なところもあり、
どんどん惹かれていきました」
「それ…」
「そう、レベッカです。
私は彼女と将来は結婚するのだと思っていました。
彼女以外に愛する人など現れないと。
髪の色や瞳の色も同じで、同じ悩みを持っているから
誰よりも分かり合えると思ったのです。
でも、結局私は振られてしまいました。
理由はお分かりかと思いますが、
彼女の魂は男性だった。
彼女は私を散々利用した挙句に、そういう興味の対象ではないと切り捨てたのです」
レベッカ、何をやったんだろう。
利用?
「その後、私はこのお屋敷にやってきました。
年相応の恋人ができたりもしましたが、
レベッカが忘れられませんでした。
レベッカとは、親戚という間柄、時々連絡も取り合う仲でした。
そんな時に、坊ちゃんからのあの告白を受けたのです。
前世が女性だったと。
この先は想像がつきますよね?」
レベッカに私の情報を流したということだろうか?
「レベッカは男性の身体と入れ替わることを望んでいた。
ちょうど良いところにあなたが現れたというわけです。
私にとっても朗報でした。
愛する彼女を手に入れることができるのですから」
クロウが手に入れたいのは彼女のこの、器としての身体なのだろうか。
心は別にして。
「レベッカと話すうちに、坊ちゃんの前世の名前も聞きましたよ。
磯野 風子。
私はその名前を聞いて思い出しましたよ。
前世のあなたのことをね。
一ノ瀬 理人という名前に聞き覚えがないですか?
率直に言いましょう。
私は前世であなたの恋人だったんですよ」
「………あ…」
頭の中を何かが掠める。
思い出したくない何か。
私は立ち上がった。
逃げたい衝動にかられた。
でも、クロウに距離を詰められ、抱きしめられてしまった。
「一挙両得なんですよ。
私にとって、今のこの状況が。
風子にとってもそうではないのですか?」
理想の人だと思っていた人とのこの状況に、
私は身動きが取れなくなってしまった。




