41運命?
私は、レベッカに押し倒され、抵抗するのをやめた。
そして思った。
『入れ替わりたい』
唇に柔らかいものが当たった感覚。
《ボンッ》
軽い衝撃があったあと、目を開けると、
メガネをかけた自分の顔をした人間を見下ろしていた。
うそ。
私はレベッカの身体の中にいた。
入れ替わったのだ。
「へえ、面白いなあ。」
メガネの彼は楽しそうに言った。
彼の瞳は黒かった。
その瞳とメガネの表面に映っている自分の瞳の色は緑色のままだ。
「レベッカ?」
「やっぱり男の身体の方がしっくりくる」
不敵な笑みだった。
私がコリン少年だった時に鏡を覗いても、こんな顔を見たことはなかった。
ゾクゾクした。
容れ物が同じでも、魂が違えばこれだけ変わるのだ。
カッコいいと思った。
自信に満ちているというか。
なんでこんなに魅力的なんだろう。
数時間前、鏡でこの顔を見ながら、
「こんな人が彼氏だったらいいのに」とか思ってたっけ。
それを不意に思い出した。
あれがすごく昔のことみたいだ。
急に視界がぐるっと反転した。
またレベッカがさっきみたいに見下ろしていた。
私の身体に入ったレベッカだ。コリンになったレベッカ。
コリンになっても、なんて綺麗な瞳なんだろう。
私はまだ、不思議なものを見る気持ちでぼんやりしていた。
彼は片方の手で私の肩を押さえながら、
もう片方の手で、慣れた手つきでメガネを外し、傍らに置いた。
そして、何の前触れもなく、キスで唇を塞がれた。
え?何でもう一回?
…そうか、さっきのは、こういうこともできると見せるためであって、
これはもう一度入れ替わるということなんだな。
と、解釈した。
『入れ替わりたい』
『入れ替わりたい』
『入れ替わりたい』
何回思っても、入れ替わらなかった。
え?どういうこと?
ずっとキスされ続けている。
角度を何回も変えながら。
うわー。なんて状況なの??
しかも、さっきまで自分の唇だったもので唇を塞がれるとか。
信じられないんですけど。
それがしばらく続いている。
何これ…人の唇ってこんな感触なんだ……
嫌というほどわかったけれど。
もう一度入れ替わるのだと思ってしまったため、
拒むタイミングを完全に逃してしまっていた。
状況が読めず、身体に力が入らず、抵抗らしい抵抗もできずにいると、
唇の間から舌を入れられる。
いやーっ。
これは、大人のキスっていうやつなのでは?
レベッカは何を考えているの?
………
それが嫌でもないと思ってしまって、またしばらく無抵抗でい続けた。
全然嫌じゃなく、むしろもっとーーーと思ってしまう。
そんな自分も怖い。
しばらくすると、今度は身体のラインを確かめるように触られ始めた。
こ、これはさすがに抵抗すべきなのでは?
軽く押しのけてみることにした。
《ドサッ》
レベッカは離れた床の上に落ちた。
ほとんど力を入れていないのに?
「痛ってー。あーあ、やっぱりこうなるよな。
ヤバい、危なかった」
レベッカは近づいてきて、私のスカートのポケットを探る。
取り出した指輪を、私の中指にはめた。
「これで、強すぎる力をセーブすることができるから。
でもこれをはめても、まだレベッカの力の方が強いからなぁ。
コリンの身体をもっとレベル上げしないと。
これじゃ風子を永久に手に入れられないな」
手に入れるってどういう意味なの?
考えるのが怖くなってきた。
今、それを考えるのはよそう。
ここは、全然関係ない話題を…
「え、えっと。
…ねえ、レベッカ。レベッカの前世は私とどういう関係だったの?」
「あれ?言ってなかったっけ?
風子の前世の夫だけど」
ええええええええーっっ!!!
お、お、お……夫?
「あ、そっか、こうなる前のどこかで言うつもりだったんだけど、忘れてた。
ごめんね」
ごめんねじゃないでしょ…
ポンと手を叩きながら言わないで欲しい。
「……おっと?…って。夫婦…ってこと?」
「そうだよ。だからもう一回結婚しよう?
性別の違いの問題も、入れ替われば解決できるし。
身分も問題ないはずだよ。婚約するっていう約束、まさか忘れたわけじゃないよね?」
コリンの外見のレベッカに、平然と告げられる。
「あー、うん。それは…」
ドラゴン討伐に行くあの時、婚約しても断ればいいかな、とか思ってしまったけど。
この人が本気を出したら、きっと逃げられないような気がする。
私のほぼファーストキスが……
もしや、前世の夫だから遠慮なしだったということ?
もっと先を想像してしまい、思わず頰が熱くなる。
「ねえ、レベッカって言われるとややこしいから
ヒナタって呼んでよ。風子?」
「う、うん。ヒナタ」
「懐かしいな」
嬉しそうに抱きしめられた。
笑顔もすごく魅力的だ。
さっきまで自分だった身体に入り、私よりもイケメンになってしまったレベッカ。
今まではいつもドキドキするよりも安心感があったのだけれど、
女子として抱きしめられるというシチュエーションにはすごくドキドキしたのだった。




