3 懐かしい人
兄が入学する予定の魔法学園について行った日のこと。
手続きをしている兄と別行動で、庭園を散歩していた。
専属のクロウではない、屋敷の使用人と一緒だった。
そこに爽やかな風が吹いた。
なんとも言えない不思議な爽快感を感じていると、
そこに突如アイリス王女が現れたのだ。
圧倒的な存在感だった。
金髪で金色の瞳、内側から輝くようなオーラがビシバシ出ている。
とても美人だ。こんな人が世の中には存在するんだなとぼんやり考える。
この人はきっと特別な人間なのだなと思った。
それはそうだ。
この人は上に兄が2人いるが、この国の第一王女なのだ。
服装は赤いシンプルなドレスを着ていて、小物は緑や金色でセンス良くまとまっている。
さすが王族だけあって、高そうなファッションだ。
突然の出来事に驚いたが、咄嗟に頭を下げた。
「こんにちは。こちらで何をなさっているんですか?」
にこやかに問いかけられた。
「フォレスト伯爵家次男、コリン・フォレストと申します。
兄の魔法学園入学の手続きのため、自分も後学のために見学に参りました」
なんとか名乗った。
「そうなのですね。私はアイリス・カーライルと申します」
カーライルといえば、言わずと知れたこの国の名前だ。
王族だと名乗られたわけで。
さっきよりも深く頭を下げた。
自分は地方の貴族に過ぎないと思うのだが、王女は自分を知っているらしかった。
もともと王女に一目惚れをしていた自分は緊張のあまり、
何を喋ったのか、そこから上の空だったのだが。
終始聞かれたことに答えることで精一杯であった。
何日くらい滞在するのか、とか。
今日は妹は一緒ではないのか、とか。
兄様とは社交の場でよく会うとも言っていたような。
そうなんだ。社交の場に出ていればもっと会うことができていたのに。
まぁ跡を継ぐのは兄様だし、
コリン少年は社交より現場で使える実力をつけることを目指してたのかな。
今世の自分も割と無口な方である。
気の利いたことは何も言えない。
王女の方は特に気にした素振りもなかった。
最後の方に
「また機会があれば是非お会いしましょう」と、王女はふんわりと微笑んで優雅に去っていった。
今、前世の記憶を取り戻してその時の事を冷静に思い返すと、
庭園を歩いていた自分を見つけた王女からこちらに近づいてきたように思う。
無視しようとすればできる距離だったはずだ。
当たり障りのない会話で終わったのは、王女も側近と一緒だったからだろうか。
昔から細かいことが気になる性格だった。
些細な違和感を感じ取りやすい自分としては、王女が自ら近づいてきたのも気になるけど。
後から思ってみたら、そういえば、って思うぐらいのもので。
まだその時点では、コリン少年は気持ちが舞い上がっていた。
王都郊外にある伯爵邸に戻って、稽古場でクロウと共に剣の稽古をしている時だった。
突然頭の中に思い浮かんだ。
ーーーあの人、お姉ちゃんみたい。
お姉ちゃん?自分には兄と妹しかいないのに?
気持ちが緩んだせいで、木剣で頭に一撃マトモに食らってしまった。
すごくすごく痛かった。
そして、滅多にないことに、気を失ってしまった。
そして記憶が戻った朝へと繋がるのだ。
コリン少年が私。
想い人である王女が前世の姉。
これって、どちらかが記憶を思い出した時点でけっこう厳しいような気がする。
クロウが勘違いしてた失恋話も、全く見当違いでもないのかもしれない。