3 エド王子2
『目立ちたくないので逃げました』
つい本音が漏れた私を見て、エド王子は呆気に取られたようだった。
記憶を失っていたらこんな反応だよね。
でも、気になって追いかけてくるとか、
無意識でも行動パターンは変わらないのだろうか?
次の瞬間には隣に座ってきて、私の顔を覗き込んできた。
「レベッカ・エヴァンス…
もしかして、ルーナの妹か?」
「ルーナさ…姉を知っているのですか?」
「ああ。俺の婚約者だからな」
「えっ……」
私は何故だかわからないけれど、奈落の底に突き落とされた感覚に陥ってしまった。
私のことは綺麗さっぱり忘れているのに、
ルーナさんのことは覚えていて、ごく当たり前のように婚約者だと告げたのだ。
知らなかった。
でも、以前ルーナさんとキスしてるのを見たこともあったし、
そういう関係だったとしても不思議じゃない。
ガイアが私にごめんと謝ったのも、この事と関係があるの?
ぐるぐると色んな考えが巡った。
「さっきも、クラスの男が馴れ馴れしく名前を呼んできて、
『覚えていないんですか?』とか言ってきてうるさかったんだ。
お前もそうなのか?
俺の消えた記憶に関係してるか?」
「………」
私はちょっとだけ考えた。
関係ないと言いたいけど、たぶん無関係ではない。
関係あると答えたら、根掘り葉掘り聞かれるのかな。
イベントの通りに記憶が消えてしまっているのか。
でも、この数日の間に何があったのか知らされてはいなかったし。
関係ありますと言ってしまっていいのだろうか。
「すみません…よくわかりません」
そう答えてみた。
そこに駆け足のような複数の足音が聞こえてきた。
ヒナタとお姉ちゃん…コリンと王女だった。
「風子!」
ヒナタが心配そうに駆け寄ってくる。
すると、エド王子が私に向かって
「さっき言ったクラスの男ってこいつのことだ」
と言ってきた。
エド王子が覚えていないクラスの男子…ヒナタのことだったらしい。
「どういう状況かしら?お兄様」
王女が慎重に切り出した。
「この2人、どうも俺の知り合いらしいんだがな。
俺は覚えていないんだ」
お姉ちゃんが気まずそうな顔をした。
私とヒナタに向かって、
「そうね。2人には言っていなかったけど、
お兄様は記憶を一部失っています。
知らせていなくてごめんなさい」
と言って頭を下げた。
本当は前もって知らせる予定だったようだ。
「いえ、とんでもないです」
ヒナタが答えた。
私も首を振って態度で答える。
「まだ学園に来る予定ではなかったのよ。
お兄様が勝手に抜け出してしまって」
「お前らは一体俺とどういう関係だったんだ?」
エド王子が私とヒナタに向かって言った。
「……ええっと…」
私が言い淀むと
「友達です」
お姉ちゃんがすかさず答えた。
「そう、友人です!」
ヒナタも言う。
「ふーん…そうか。覚えていなくてすまないな。
今の俺はいろいろな事の記憶が抜け落ちている。
学園に手がかりがあると思って来たんだが」
エド王子は私とヒナタをじっと見る。
何か考えていそうな感じがしたけれど。
『本調子じゃないのだから……』と、王女に促されると、
おとなしく帰って行った。
どこに控えていたのか、エド王子の従者も現れて一緒に去って行った。
私は、残されたヒナタと少し話した。
「俺、思わず話しかけちゃったんだけどさ。
エド様、全然俺のことわからないみたいで」
「私も、目の前を素通りされて…」
「でもさ。エド様は俺以外のクラスメートのことは覚えているみたいだった。
俺だけが忘れられているんだと思ったんだけど。
風子のことも忘れてたのか…」
私とヒナタのことだけを忘れた…?
他の人はどうなんだろうか。
「これって風子が言ってたイベントが現実に起こったってことだよね」
「そうなるのかな」
エド王子とのエンディングはもう無いということか。
だったら、別の人とのエンディング?
それとも…ゲーム通りに行かないこともあり得るのだろうか。
とりあえず、エド王子と私たちは友人という形で行くことに話がまとまったのだった。




