2 エド王子
生徒会室でお手伝いを始めて数日。
「レベッカさん。
今度一緒に街に出かけませんか?」
眩しくて直視できないほどのイケメンであるニコラス様が爽やかに話しかけてくる。
「すみません。賑やかなところはちょっと…」
「では、遠乗りはどうです?
景色のいいお勧めの場所を知っているんですよ。
静かなところで2人だけで語り合いませんか?」
手を取られそうになり、さりげなく避ける。
「こ、婚約者がいますので…」
「じゃ、グループで出かけるのは問題ない?」
「………」
私はデートに誘われているらしかった。
地味なメガネ女子。
しかもこの世界で人気がない、黒い瞳を持っているこの私。
よくデートに誘うなぁと思う。
ニコラス様には初対面からなんとなく、好意を持たれているというのは感じていた。
ドラゴンを倒したという強さに、それでいて目立とうとしない謙虚さが良い…という内容の事をさまざまな言葉を使って伝えてくる。
実際に戦いはしたけれど、倒したのはヒナタなので、
私としては世間に早く忘れて欲しいくらいだ。
私に近づいて気持ちを向けさせ、結婚に持ち込めば、
彼にとって得になる事が多いのだろうか。
レベッカ…ヒナタはお金持ちのようだし。
レベッカは侯爵令嬢なので、次期公爵様の妻として釣り合いも取れる。
だけど、黒髪黒瞳であることはその場合気にしなくて良いものか…?
……いや、そもそもありえない話だから。
婚約者がいるのだから!
「ニコラス。彼女が困っているだろう」
ジャック王子は助け船を出してくれた。
彼は何を考えているのか未だにわからない。
悪意は持たれていないようだ。
私に対して極端に口数が少ない。
ニコラス様とはよく話している様子なんだけどな。
同じ部屋で指示を出しているアル先輩から見ると、
最初からニコラス様の私に対しての好感度は高かったようだ。
初日からやんわりと誘いをかけていたけれど通じなかったため、
わかりやすい表現で誘うようになったのでは…という見解だった。
「風子は鈍いね」
「鈍くないですよ」
そう、鈍くないと思う。
うまくスルーしていたつもりだった。
好意らしきものを感じていたけど、気のせいという可能性だってあると思うし。
ただ…レベッカが美少女だからなのか、引き下がらずエスカレートしている気がしなくもない。
そんなある日。
学園に、久々にエド王子が現れた。
その日、学園中がざわざわしていた。
エド王子も、ドラゴン騒動の際には学園に駆けつけて、負傷したという話になっている。
またあの話が出てくると私も目立ってしまうじゃないかと思いながらも、
聞き耳を立てて、エド王子をこっそり見ようと思いついた。
休み時間に、校舎の窓から大勢の生徒が見ていた。
そこに私も混ざって彼を見た。
濃紺のローブに金髪が映える、細身で長身の彼。
エド様だ。
いつもは1人でふらりと現れる人なのに、今日は従者も一緒だ。
従者は身のこなしからして、ボディーガードのような感じなのだろうか。
結構若い。
クロウも勧誘され所属している、忍者のような特殊部隊の人かもしれない。
エド王子は見た感じ普通に歩いていて、特に怪我をしている様子もない。
私はほっとした。
それに……王族に怪我を負わせたとか、
悪役令嬢的には何かの罪になってしまうんじゃなかろうかという心配もあった。
無事で良かった。元気そうで良かった。
ちょっと1人であの時のことを思い出すと、涙が出そうになる。
ひどい怪我だったから。
でもこんなところで泣いたらダメだよね。
周囲に変に思われる。
…私は気持ちを切り替えるように教室に戻って行った。
その次の授業が終わると昼休みだった。
私は教室から出て隣の教室を覗いた。
エド王子はいない。
どこへ行ったんだろうと見ていると背後に気配を感じた。
「あっ…すみません」
咄嗟に避けた。
エド王子と従者の人だった。
エド王子はこちらを見て、目が合ったけれど、そのまま素通りして行った。
見知らぬ他人を見るような感じだった。
「エド様…」
記憶を失っているのだ。
彼をまだ目で追っていたら、
エド王子は数歩歩いて行ってから立ち止まる。
そしてこちらに戻ってきて言った。
「お前は誰だ?何故馴れ馴れしく俺の名前を呼んだ?」
さっきの私の呟き。
あれ聞こえてたんだ…と、思うと同時に、
彼が記憶を取り戻していないことを踏まえて答えた。
「申し訳ございません。
えっと…私は以前貴方様に命を助けていただいたことがありまして。
その節はありがとうございました」
私は深く頭を下げた。
ドラゴンから庇ってくれた時のことだ。
ずっとお礼が言いたかったのだ。
「ふーん……」
彼は私の近くに来て、ジロジロと値踏みするような視線を投げかけている。
頭を下げてても気配で感じる。
今日の私は、薄茶色の髪を三つ編みにしていて、
黒瞳に変化するメガネをかけている。テーマは[地味]だ。
地味なメガネ女子を見て彼はどう思っているのだろう。
エド王子が知らない人のようになってしまって怖かったし、
けっこう人が多い教室の出入り口でのやり取りに、
だんだんと人の視線を感じはじめた。
目立つことを避けたい…そんな気持ちが働いた私は、
意を決して顔を上げると、
「お引止めして申し訳ありませんでした。
それでは!」
そう言って、逃げるようにその場を走り去ったのだった。
走って走って、人の少ない方へ移動した私は、花壇の横のベンチに座り込んだ。
急な展開にパニックになって逃げ出してしまった。
後ろから足音が聞こえてくる。
歩幅が大きい人の足音……既視感。
嫌な予感がした時はもう遅かった。
「お前は誰だと聞いただろう?」
エド王子だ。
「ひえっ!」
そういえば、名乗っていなかったっけ……?
「名を名乗れ。何故逃げた?」
圧倒的な威圧感を放ちながらこちらを睨んでいる。
「…っ…れ…レベッカ・エヴァンスです!
目立ちたくないので逃げました!」
吃りながらも、つい本音が出てしまったのだった。




