1 攻略対象者たち
学園が再開された。
今はもう2月初旬だ。
ドラゴン騒動もあったけれど、もうすぐ卒業する時期だ。
そして、この頃には進路を決める時期に入っていた。
私とヒナタは、卒業後は大学に進むことに決めていた。
ヒナタも出席日数は足りている様子だった。
でもギリギリのようで、真面目に授業に出ている。
ヒナタは私に構っている暇はなさそうで。
私のほうも、あの時、左手の薬指にはめた指輪はそのままにしていた。
指輪をそのままにすることでヒナタの気持ちに波風を立てないで、2人一緒に無事に卒業したかったし。
もうこのまま平穏な日々を過ごしたかったのかもしれない。
ヒナタの心の平穏を守るためと。
婚約者として、いつかはこの人と結婚するんだろうなという気持ちになりつつあった。
いつか、そのうちに。
レベッカに戻っていた私は目立つのが嫌で学園が再開されても3日ほど休み、
4日目からは、授業に参加したけれど、
教室と寮の移動の時などは認識阻害の魔法で目立たないようにした。
時々、先生達には話しかけられたし、
生徒の中にも話しかけてくる人もいたけれど。
普段通りの学園生活が戻って、だんだんと話題に上ることも少なくなっているようだ。
ヒナタの方は、コリンの身体に戻って授業に普通に出て、
放課後は郊外や地下のダンジョンで魔物狩りをしている。
目立ちたくない精神の私が、認識阻害の魔法を使って敷地内を歩いていると、
アル先輩に見つかってしまった。
「風子。何やってんの?」
コソコソしている私を見て、ちょっと呆れている雰囲気だった。
レベッカよりも、アル先輩の方がレベルが高いのだろう。
認識阻害が通じない相手もいるのだ。
アル先輩も相変わらずのイケメンぶりで、
2人きりで一緒にいると女生徒に睨まれる可能性が高い。
認識阻害は解かないでいようと思った。
ーーーーーー
「ふーん、そっか…目立ちたくないんだ。
ドラゴンと戦うような人が、人目をそれほど気にするとは意外だね」
事情を話すと、そう言われた。
「…でも、好きで戦ったわけではないですよ?」
「そうだろうね」
「先輩も戦おうと思えば戦えたんじゃないですか?
レベッカよりもレベルが高いじゃないですか」
「ああ、まぁそう言われてしまえばそうなるけど…」
「私…やっぱり自意識過剰だと思いますか?」
「うーん、どうかな〜……」
少しの沈黙を挟んで先輩が言う。
「そうそう。そういえば、これから僕は生徒会の引き継ぎがあるんだけど。
一緒に来てみない?」
「はい?」
ーーーーーーーーーーーー
私は生徒会室に案内された。
乙女ゲーム内に出てきていた生徒会だ。
校舎群の一番北側に位置している生徒会室。
何人かの作業員が、私が荒らしてしまった庭を整備しているのが見える。
そんな生徒会室にいたのは……
乙女ゲームの攻略対象者だった。
卒業間近に出会っても今から発展はないだろうということで、
彼らがどんな反応をするのか見てみたら?
と、アル先輩に言われて付いてきた。
自意識過剰かどうか、彼らの反応を見てみようということになった。
先輩にとってそれは口実で、生徒会の仕事を手伝わせたいのもあったと思う。
書類の整理など、事務作業だ。
ドラゴンの後処理でゴタゴタして、人手も不足しているということだった。
この2、3年。
生徒会はヒナタが手を回して、お金を出して仕事を外注していたそうだ。
普通ならやれないそんなことも、
入学の時点でゴリ押しで入ったような人なので、
何か裏技のような方法があるんだろうなと思う。
悪役令嬢であり、乙女ゲームの影響を避けるためだとか、
レベル上げの効率を優先させるために省いたに違いない。
それほど行事も多くない学園で、規模も大きくないので可能なのだろう。
とにかく、来年度からは従来通り、
生徒が生徒会を運営することになっているらしい。
私は、2人の男子生徒を紹介された。
公爵家長男のニコラス・ローズ。1年生。
薄い青い瞳の色に
肩まで伸ばした銀色のきれいな髪。
絵本に出てくる王子様のような、整った風貌だ。
エド王子の方が本物の王子なのに、
どちらかというとこの人の雰囲気の方が繊細な王子っぽさを感じてしまう。
もう1人は、他国の第2王子であり留学生の、ジャック・コートランド。2年生。
髪は金髪が混ざった茶色い髪色。
瞳も茶色。
長身でスタイルも良い。
しばらく一緒に作業をしていると、
ニコラス様の方は、話しやすく気さくな感じだった。
いつも笑顔でいるような人。とにかく眩しい。
ジャック王子の方は、真面目そうな感じに見えた。
寡黙であまり喋らないようだ。
落ち着いた雰囲気がニコラス様とは対照的だ。
私は乙女ゲーム2作目の記憶がないため、2人のことはよく知らない。
さすが攻略対象者だけあって、目の保養になりそうな美しさだった。緊張する。
あまりじっと見つめると仕事にならないので、
見るのはほどほどにしておいた。
数日、放課後のお手伝いをしていると、
ニコラス様の方が私に対してだんだんと好意を示し始めた。
そう、目の保養だと思っていたのは相手も同じだったんじゃないだろうか。
意識して見ないようにしてたのに、
たまに彼を見るとやたらと目が合うんだよね。
人目を避ける。
これってやっぱり自意識過剰ではなかったと、後から思ったのだった。




